まんざいぶなのにまんざいをしないかれらにせいさいを
俺は憂鬱な表情をしながら最寄りから家までの道のりを歩く。
何がそんなに気に入らなかったのか知らないが、これ以上の寝不足は命に関わる。
今日ビシッと言ってやらないといけない。
なんてことを考えている内に、直ぐに家の前まで来てしまった。
因みに俺の家も禊の家も閑静な住宅街にある平凡な一軒家。
俺もあいつも親が家にいないというギャルゲー設定以外特筆すべき点はない。
俺が入るったのは自分の家ではなく禊の家。
「鍵閉まってんな……」
当たり前である。
仕方ないチャイム鳴らすか。
俺はチャイムに手を添えて異常な速度でのプッシュを始める。
ピポピポピポピポピーンポーンと、お馴染みの軽快な音が響き渡り、俺は満足だ。
おうちに帰ろう。
「あんたなんで帰ろうとしてんの!?
ピンポンダッシュ!?」
すたすたと自分の家のドアに向かって歩いていると、
後ろからガチャリと玄関の開く音がして俺は首根っこをひっ捕まれてしまう。
「出てきやがったな禊てめえ……
一昨日からうるせえんだよ!
せめて窓閉めろや!」
俺がそういうと、禊は赤く腫らした目を反らして呟くように言った。
よくよく見ると、毎日なにが楽しいのか知らんがバッチリ決めてる化粧も落ちていた。
あれ……なんかこいつ泣いてね?
「どうでもいいじゃん、関係ないっしょ」
「ちょっと待て禊、お前なんか泣いてねえか?」
デリカシーないとか知らないです。
「はぁ!?これ顔洗っただけだし!
どこが泣いてるように見えるんだよ!?」
途端禊は声を荒げて俺に詰め寄った。
怖い怖い怖い怖い……
「ああもうわかった、わかったから……
とりあえずマジで窓は閉めろよ?
下手せずとも俺が死にかねない」
俺がビビりながらそう言うと、禊は俯いたまま自分の家に戻っていった。
「頼まれなくても閉めるよ……」
「もうマジ無理リスかしよ」
あいつと関わるだけで体力が根こそぎ奪われる。
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「……ってわけなんすよ。
まあうるさくなくなったんは助かるんですけどね」
俺はさっきコンビニまで行って買ってきた焼きそばパンを片手ににゃんこ先輩に事情を話した。
そう、この学校は休み時間の外出が許されていている。
お嬢様お坊っちゃま学校な側面が強い学校故にそういう生徒に配慮した校則だったのだが、普通科の生徒の中にはこれを狙って入ってくる生徒も多いのだ。
「北城って昨日から禊って子の話ばっかだね、好きなの?」
「今日に限って最初にどうなったか聞いてきたのにゃんこ先輩じゃないすか……
やめてくださいよ」
俺が心底嫌そうにすると、にゃんこ先輩は野菜ジュースを机に置いて本題について話し始めた。
「まあよかったじゃん、騒音被害無くなってさ。
心配なら私調べといてあげよっか?
余裕だよ?」
「大丈夫です、調べるのくらい自分でできますから」
「自分でできちゃうんだ、平凡そうな口調して意外と有能」
「最初から俺は有能って言ってますよ」
俺は自分の前髪を弄りながら答える。
ああ毛先の金髪色落ちしてきたかも……
今日くらいに染め直さなきゃな。