まんざいぶのにちじょー
「……おいなんだ一体この状況は」
6限のチャイムの音がこの私立木芽高校の学舎に響き渡ってからかれこれ10分ほど経った頃。
俺こと北城多々良は漫才部と手書きの看板が垂れ下がる教室のドアを乱雑に開けたまではよかったが、目の前にいる奇っ怪な生物のせいで硬直を余儀なくされている。
詳しく言えば血塗れのモーニングスターを持った鰹のキグルミが棒立ちして俺の方を見ているのだ。
これでは漫才部ではなくただのサイコホラー部。
部にする必要がない。
「出オチ!!」
やかましいわ。
そう言って胸を張りピースサインを正面に掲げる彼女の名前は南郷楓、この部として認められていないどころか申請すら出していない漫才部の部長である。
はぁ……
「落ち着いて下さいにゃんこ先輩、そっちは窓です」
「ええ!?嘘!?」
驚いてキグルミを取った彼女の正面に顔を近づけて言う。
「嘘です」
「なぁっ!!
なんてことするんだよ北城!
私の主人公を振り回すラスボスキャラのイメージが出落ちしちゃったじゃんか!」
そう言ってぎゃーぎゃーと騒ぐみっともない先輩を諭すように言う俺。
「誰が上手いこと言えと?
どっちかっていうと出キチですよにゃんこ先輩」
因みににゃんこ先輩って言うのは俺が付けた渾名だ。
首根っこひっつかむと大人しくなるっていうのと名字の南郷を掛けた稀代の天才チャップリンも目を見開いて感嘆するであろう超キュートでチャーミングな渾名。
本人も気に入ってくれているであろう。
「それとさ……」
「何ですかにゃんこ先輩、神妙な顔しちゃって……?
珍妙ですね、生理ですか?」
「いや酷すぎるって北城……ギャグですませられないレベルだよそれは……
そんなことじゃなくてさ……
そのにゃんこ先輩って渾名ダサいし安直だから恥ずかしいよ私」
ほ……本人も、き、気に入って……