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第36話 第四回投票――最初の勝負




 八時三十分ちょうどに、二日目の会議が開始された。


 昨夜から今朝までに、会議に臨む者たちはそれぞれが策を巡らし、思いを交わし、そして意志を決めてきた。

 彼ら彼女らの決意と野心が交差する。決戦が始まった。


 既に、意見を交わす時間は終わった。

 これからは、ただ、票を投じて勝者を決めるのみ。


 会議は、すぐに投票を迎える。

 亀山選出監理委員長による開票作業の後、八時四十九分になって、那珂川議長から結果が発表された。


「……第四回投票の結果を発表する」



 投票総数は十票。その過半数は六票以上となる。


 祇園渚卯子・側用部部長――五票。

 清川普青・生徒会書記―――二票。

 小櫃渉・総務委員長――――二票。

 白票―――――――――――一票。



 それは、会議の出席者、その全員を驚愕させる結果だった。

 平然としていられる者は、一人もいない。


 この投票結果が示すことは、明白だ。

 側用部部長・祇園渚卯子が清川会長に反逆し、みずから次期会長になろうとしたこと。

 そして……それでも、祇園は過半数を取れず、今回もまた次期会長が決まらなかったということ。


「祇園……!」


 うめくような声で、反逆した部下の名を呼ぶと、清川会長は歯軋りの音を立てた。

 清川会長の白く美しい歯の間からこぼれる、およそ美とは縁遠い音。

 それは、彼女の怒気だけで議場の空間を捻じ曲げてしまう、そのような錯覚を聞く者に抱かせるものだった。


「くっ……うぅ」


 怨嗟の声で呼ばれた祇園は、その清川会長以上に、動揺していた。


 ここで勝負に出る。ここで勝つ。――その計算が、一瞬で崩れ去ったのだ。

 たしかに、今回で票数は逆転し、祇園は圧倒的な首位に立った。

 しかし、そのようなことは意味がない。

 むしろ、今、彼女の命脈を断とうとしている。

「祇園の五票」は、誰の目から見ても彼女の反逆を決定づけるものだ。無論、清川会長も例外ではない。


 信頼していた部下の裏切りを知った会長はどうするか?

 ただ苛烈な、祇園への報復があるだけだろう。


 清川会長も、祇園も、いつもの余裕が崩れてしまっている。その動揺は、彼女たちの陣営に属する者たちも同じだった。

 それでも、ようやく精神をある程度は回復させたようで、会議を取り仕切るべき那珂川議長が声を発した。


「……亀山選出監理委員長。投票結果の公表を」


 これに、亀山は無言で立ち上がった。投票用紙を燃やして例の黒煙を上げるため、外へ出ていく。


 祇園の焦慮は増した。

 ――このままだと、会議から追放される!


 前回までと同じく、亀山委員長が投票結果公表の仕事を片付けて議場に帰ってきた直後に、那珂川議長は会議を中断し、休憩を入れようとするだろう。

 そして、その休憩時間に、清川会長は祇園たち側用部の会議出席を停止させる手続きを整える。その書類を議長に提出してしまうはずだ。

 そうなれば、次の会議が再開した時に、もう祇園の席はなくなっているだろう。


 ――なんとかしないと……。亀山委員長が帰るまでに、何か手を考えないと……!


 焦慮と動揺を、祇園は、なんとか捻じ伏せた。

 そして、沈着な思考を復活させて、助かる道を、逆転の方法を探る。

 危機にあっても、まだ、彼女は、生徒会長になる夢を諦めていなかったのだ。


 ――諦めるわけがない。夢を諦めることは、もう、やめにしたんだ。私は……。

 ……私は、()に言われたんだから。「諦めないで」と。


 そこまで思い至ると、祇園は、右に座るその()を見た。


「俵田くん……。私は、ここで勝つつもりだったんだ。でも、一票、たった一票が足りなかった」

「それは……」

「どうやら、誰か一人が、私を裏切ったみたいだ。……まあ、誰かは明白だけどね」

「……誰ですか。そんなことをしたのは」


 俵田は、心からの怒りのにじむ声で尋ねた。

 彼に、祇園は苦く答える。


「下郡、しかいないだろうな」


 それを聞くと俵田は、はっと表情を曇らせた。


「先輩……すみません。それは、僕の責任です」


 先ほど、下郡保健委員長を味方につける交渉をおこなったのは、俵田だった。

 その交渉が、失敗していたのだ。

 謝罪する彼に、祇園は静かに首を振る。


「いや、私の責任だろう。生徒会議長の地位を約束するだけで、あの『陰謀家』を味方にできると考えてしまった、私が甘かったんだ」


 そこまで言うと祇園は、思考を切り替えた。

 今は、誰に責任があるかということより、この苦境を切り抜ける方法について考えるべきだったのだ。


 ――しかし、どうするか。


「……正直、どうすればいいか難しいね。諦めたくはないけど、しかし」

「先輩……!」


 呼びかけてきた俵田の瞳に、祇園は、なにか強い意志のようなものを看取した。


「……なにか考えがあるね、俵田くん。それは、()()()()()()()()


 他人が聞けば、それは奇妙な質問だったかもしれない。

 しかし、俵田は素直に答える。


「すみません。僕の口からは、どうしても……言ってしまえば、()()()()もなくなってしまいます」

「……そうか」


 俵田の答えも、秘密を秘密のままとして、明確なものではない。聞く者によっては、彼を不審にも思うだろう。

 それでも……祇園にとっては充分すぎる解答だった。


「……ありがとう、俵田くん。今ので分かった。――君は、ずっと前に()()にたどり着いていたんだね」

「…………」

「それを言えないのは、例の『約束』か」

「……そのとおりです」


 短く、それだけ応じた俵田に、祇園は優しく微笑む。


「分かった。私は、君を信じるよ。――君の答えを。君が『諦めないで』と言ったことを。そして……今、()()()()があると示してくれたことを」


 そう告げると、祇園は表情を引き締めて、前を向いた。


「さあ、これから逆転するとしよう」





 次回


 第37話

 最後の賭け

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