5話 野球部引退後も走り込み
気が付けば俺は野球部を引退した。
こんな下手くそな俺だったけどなんだかんだでよく3年も続けたもんだ。
高校受験に向けて、俺はまだ志望校が決まっていなかったが、
野球部があって、高校出たら良いところに就職できる高校に行きたかった。
大学進学のために3年費やすよりも高校球児としての3年間は価値あるものと思っていたのだ。
親からはことごとく否定されたけどな。
俺は何も間違っちゃいない。
なぜなら俺は親の理想では動かないからだ。
赤の他人はどこまでも赤の他人なんだろうか。
本当に信頼できる人ならどこまでもついて行って良いんじゃないか?
志望校は工業か商業で悩みまくった。
ただ俺は小学の時から続けているそろばん教室の影響もあって、
教室の先生に商業高校を勧められた。
ただ俺としては会計の道に縛られるよりも、
比較的自由の効く商業科を選んだ。
就きたい職業なんざ二の次だ。
即戦力な人材になるだけでわがまま放題の無能な役人よりかは遥かにマシだ。
あと、親戚が商業高校に通ってて甲子園にも出たっていう影響もあった。
メンバーじゃなくても、補欠でも良いから強い高校で甲子園目指したいと思うようになった。
夏休み、群馬の親戚の家まで遊びに行った。
母の妹の子供にあたるから、いとこになるだろうか。
長男と長女が1人ずついる。
長男は現役高校球児の2年生だが、既に1年生の時に日商簿記2級の資格を有している。
あまりに飲み込みが早いようで簿記部などから勧誘を受けたほどである。
その他にも資格は持っているようだ。
お盆の間は練習がなく、家の手伝いをしている。
まぁ野球漬けの毎日を送っているのだから、
野球出来るのは家のおかげだと考えれば手伝わない理由などない。
自分自身を見つめ直すきっかけにもなるだろう。
長女は俺と同い年で、ソフトボール部を引退したばかり。
群馬県選抜の選手として出場し、ベスト8の成績を残した。
準々決勝で負けた相手が優勝したから、正確には5位だろうか。
キャッチャー未経験の俺が彼女の球を受ける機会に巡り合った。
実力は本物だった。
6割くらいの力で投げてもずっしりと重い。
元々ソフトボールの球が大きいのもあるだろうが、10球足らずで俺の左手が悲鳴を上げた。
あ、そうか、俺、軟式野球のグローブで捕ってたわ・・・。
というギャグは置いといて。
ソフトボール用のキャッチャーミットに変えて何球か受けた。
すると彼女の口からとんでもない一言が。
「力入れて投げてもいい?」
俺は驚いた。
この程度でも充分なのにまだ投げれるだと。
もちろん俺は頷いた。
捕れる女子がいるのに捕れない男子はいないだろう。
最初はそう思った。
ゆっくりとした動作からためを作り、力いっぱい素早く一球を投じた。
構えたところにストライクどころか、冗談抜きで俺の足元が言うことを聞いてくれなかった。
勢いに負けてしまい、ずずっと、10cm近く後ろに下がった。
その時、金髪でハーフっぽい、彼女の友達なのだろうか、
俺に代わってキャッチャーを務めた。
球の速さも変わらないのに、いくら受けてもビクともしない。
なんと県選抜のキャッチャーだったらしい。
そして美人過ぎて惚れた。
次の日から俺はほとんど毎日3キロから5キロの走り込みを続けた。
やっぱ体が資本だから、そう簡単に崩れないように、ね。