3話 そのうちではない、今がその時
最近毎日が楽しい。
少なくとも学校以外は。
家のことは、関わらなきゃ良いって思ってる。
親父と衝突することもあったし、
お袋はキチガイババアだから無視が一番良い。
親戚一同の集まりがあった時、
お袋とお袋の妹の性格はホント正反対なのよな。
しかもなんだかんだ色々あって群馬に嫁いじゃったんだもんな。
お袋が県内に留まった理由も、何となく想像できるんだよな。
親父は金持ちだったから。
どうしても金のある奴にホイホイついてきたくなるもんよ。
おかげでお袋は専業主婦。
父のボンボンを良いことに色々つけあがってんだわ。
結婚する前までOLやってたプライドが残ってるせいか、
世間知らずのお前に何ができるんだよと罵倒されたこともあったわ。
さすがに頭にきたもんで、うるせぇんだよ、って家出したわ。
その時、偶然隣のクラスにいたヤンキーに会ってさ。
遊びに行こうぜってカラオケ行ったわ。
影山さんとその彼女と4人で。
とにかくノリノリだったから、俺も自然とノリノリになっていった。
歌も正直上手くなかった俺でも、いい感じにはもってくれた。
楽しかった。この後、温泉行って、俺とか2人は泊まるところもなかったし、広い車の中で寝た。
ヤンキーはいつもそうして寝ているらしい。
俺も影山さんの許しを請うて、何日かは暮らしていた。
正直、家が嫌いだった理由の一つとして、
子供を大学に行かせるという親の強力なエゴがあった。
俺はそれにめちゃくちゃ反発した。
どんなに説得されても、俺は理不尽なことはしていない。
ちゃんと部活には行ってるし、嫌いな学校にも通い続けている。
では、これ以上に何を望むのか。
親の望んでいることが理解できなかったため、
俺は俺の足で立って俺の力で生きることを目指した。
しかし、せめて高校までは親の金で通うことになるだろう。
家族が嫌いで、自立したいんなら、学業ごっこは高校までに蹴りをつけたい。
高校を卒業したら働くんだ。
俺はある時、一番俺のことをわかってくれている影山さんに相談した。
「影山さん、相談があるんです」
「おお、どうした?」
「実は、親が大学行けってうるさくて・・・でも俺は高校出て就職したいんです。そしたら親にめちゃくちゃ否定されちゃってさ・・・、生きていく自信なくしちゃってさ・・・どうしたらいいかわかんねーや」
「そうか・・・。」
影山さんは少し間を置いて、まるで自分のことのように
「俺がかっちゃんの立場だったら、本当にこの親自分を産んでくれたのか怪しくなっちゃうねぇ」
と言ってくれた。
ちなみに俺の名前は克樹だからかっちゃんって呼ばれてる。
「マジで切れるわ。子どもがどう人生歩もうと親には関係ないことですわ。」
「まぁ、結局は親が自分勝手なだけですもん。ろくにコミュニケーションもとろうとしない時点で、あれですよね、常識ないっていうか。」
「働きたいって言う人の気持ちを根こそぎ奪ってるんだよね。本当に悪い親だね。」
「おかげで自信なくしましたわ。」
「うん・・・」
影山さんは少し間を置いて、
「かっちゃん、誰だって、最初からできるやつなんているわけないぜ。」
「えっ」
「まぁまぁ、誰だってカッコつけたいよ、自分は大丈夫だって。でもそれが何になるんだろう。」
確かにそうだ。虚勢ばかり張っても特に意味を為さない。
基本的に自信と能力は相反するものだ。
相補関係になることはあっても。
「意味のないことでも、自分に非がないように、逆に非があったら都合悪いんだろうね。大人の都合で子どもは動けるわけないじゃん。ダサくたって良い。ありのままの自分で勝負しよう。失敗から学べることは沢山ある。若いうちに狡賢く立ち回るのと、恥ずかしい自分も堂々と見せられるのとどっちが良い?」
そりゃ断然後者だ。若いうちに、と一言つけたおかげで、まだまだ俺はやれると思うんだ。
若いうちなんだ。
大器晩成という誤った認識で一生のうちの若い時期を逃したって良いことないに決まってる。
そのうちじゃない、今がその時なのだ。
俺は影山さんに背中を押された。