うさぎな僕の事情
再びオリンピック見ながら執筆してました(しつこい)
卓球頑張ってえええ(´;ω;`)
僕はうさぎ人間と普通の人間のクォーターである。実際は人間とほぼ変わらないけど、その日によって耳が出てたりしっぽが出てたり、どちらも引っ込んでいたり。バージョンあふれる朝を迎えている。
それを面白がっていたのは、現実を知らない幼稚園児まで。いやもうそれくらいから疎まれ始めていたわけだけど。
簡単に言えばいじめられてからだ。小学生になってようやく気づいた。自分が普通じゃないことを。両親は僕に「あなたは立派な男の子」と言われ育てられてきたけど、あとになって気づく。「立派な人間の男の子」なんて言われたことは無かった。
当時はショックを受けたし、両親への信用がゼロに近くなった。それでもなんとか平静を保てたのは、僕の異変に気づいた両親が真実を話してくれたからだ。
けれど生まれ持った性質は、死ぬまで僕を追い続ける。
わかりきった当たり前のそれを振り払いたくて。普通の人間として生きたくて。
僕は深くフードを被って己を隠し始めた。
だがいくらフードで耳を隠しても、不審がる人間は最後まで不審に思い、そうして僕の正体を暴こうと奔走する。
初めてバレたのが、中学の時だ。
「なんで兎田くん、いつもフード被ってるのぉー?」
顔だけは整っていたせいか、クラスの女子から好感を得られていることは知っていた。しかも誰ともつるまずに黙々と音楽やら読書やらで暇を潰している姿も相まってか、よく女子には話しかけられた。しかし、幸運なことに、中学生になればそれなりにわかってくるのか、僕がフードをつけている理由を暗黙の了解として聞いては来なかった。
だが突然の転校生によりその暗黙の了解が破られたのだ。
「…それ聞いてなんの得になるの」
ふわふわとした茶色の髪は、フードを被っている僕が言うのもあれだが校則的にどうなんだろうか。そんなことをぼんやりと考えていれば、目の前の転校生の女子はにこっと笑った。
「だって私、兎田くんと仲良くなりたいものっ!」
万人受けしそうな笑顔に、胡散臭さしか感じなかった。だからふいっとそっぽを向いて「僕は仲良くなりたくない」と答えてカバンから小説を取り出そうと屈んだ。
きっとそれがいけなかったのだ。何せ今日は最悪なことに耳もしっぽも出ているうさぎ状態。彼女はその一瞬を逃さなかった。
「もーっ!じゃあとるよっ!」
気づけば頭にあったフードの感触が消えていた。あ、と誰かの声が聞こえた。
昼休みの多くの生徒が教室にいる時間、教室が凍りついた。その原因は考えなくてもわかったことだった。
なんて言われるだろうか。コスプレ?本物?化物?これからくる罵詈雑言に身構えた。しかし、現実はそんなに甘くなかったのだ。
「ぎゃああっ!き、気持ち悪っ、」
その一言だけだった。この耳を疑ってくれさえすれば、僕はなんとでも弁解できたのだ。でもその余地すら与えない現実に、僕は生きていくことに対して息苦しさを感じ始めた。
そこからは両親に頼んで登校拒否をした。それは卒業までずっと。
「きっと受け入れてくれる人がいるから」
1度の拒絶で逃げるな、と両親は言いたいのだろう。だが、子供ながらにそれを理解するのは難しかった。
教室内の空気、誰もが僕の耳を見て唖然とし、1歩2歩と距離を取り始める。「気持ち悪い」「なんであんなのつけてるの」「幻滅だ」という引いた顔をしてもともと遠かった距離がさらに離れていく。
しかも僕のフードをとったあの転校生は軽く悲鳴をあげたのだ。
もう二度と人間と関わりたくない。もう二度と気を許したりなんかしない。
あの時は完全に油断していた。
どうせ、僕を受け入れてくれるようなひとは存在しないのだ。ならば誰1人近づけてたまるものか。
両親の予想以上に僕はたった1回のことでダメージを受けていたようだ。両親は自分たちにも負い目を感じているらしく、見ていて申し訳なく思う気持ち半分ざまぁ見ろという気持ちも存在していた。
だがそんな時、まるで曇り空に一つに光が僕に指したように、転機が訪れた。
「兎田裕翔です」
学歴は必要だという両親の話を聞いて仕方なく高校に通うことにした。しかし、高校の方から最初の入学式だけはフードを外してくれと言われてしまい、HRでの自己紹介の時に慣らしておこうと、敢えてフードを外し、自分の名前を言った。
瞬間聞こえる、小さな悲鳴や驚きの声。まぁ当たり前といえば当たり前のことだ。自分たちとは違う民族に、人間はとても敏感なのだから。
しかし席から立ち上がった時に気づいたことがあった。一つだけ空席がある。しかも隣の席。しかし鞄が横に置いてあるのでもともと無い席ではないらしい。
これをどうしたものか、と思案する。
自己紹介とは便利なもので、クラス全体に自分の印象を与えられる。高校3年間で僕がうさぎ人間とのハーフであることを隠すのは難しい。それはもう中学の時に思い知った。だから自己紹介を利用して、誰も近づけさせないよう無愛想に、そしてうさぎの耳があることを見せつけた。
しかし隣の席の人間が僕のことを知らないとなると不便だ。まぁそのうち帰ってくるだろうとタカをくくっていたのだが、隣の席の人間は入学式が終わっても帰ってこなかった。思わず机に両手をついて項垂れてしまう。
明日から僕はフードを被って登校する。もし隣の席がふざけて僕のフードを外し、揶揄いでもしたらまた面倒だ。
高校に入って1からやり直そうとした僕の計画を邪魔しないで欲しい。
そんなことを思ってため息をついた矢先だった。
「あれ、貴方が隣の席の人ね」
綺麗なソプラノの柔らかい声が聞こえた。驚いてそちらを見ると、カチ、とお互いの視線が絡み合う。
「えーっと、自己紹介したほうがいい、かな?」
「…原田さん、でしょ」
「座席表見ればわかるよねー」
たはは、と笑う彼女になんとなく好感を持てた僕はチョロイのではないだろうか。最初の一瞬だけ僕の耳に目を向けた彼女だったが、それ以降どんなに耳が揺れてもそちらに目を向けない彼女は、自然な感じで僕に話しかけてきた。
「と、とだ…?兎田くんね」
「……読みづらい?」
気づけば話しかけていた。
「うーん、あんまり見ない気がする…」
「そうかもね」
「まぁでもお隣さん同士よろしくー」
さらりと交わされた会話は、大したものではなかった。彼女にしてみれば大事な最初のスキンシップ。高校で上手くいくための会話に過ぎない。
でも僕には、その数十秒の会話がとても楽しくて。そして同時に何も聞いてこない彼女に好感が持てたのだ。
それから彼女をよく頼るようになった。頼ると言っても何か忘れ物したら一緒に共有するとか、一緒にご飯食べるとか、もちろん会話もして。
気づけば担任から僕の事情を知ってか、彼女は僕のお世話係として任命されていた。当初面倒くさそうな表情をしていたが、そんな彼女の顔を見てショックを受けることは無かった。
何故なら自分の中で彼女は既に大切なものの一部として入り込んでいたからだ。独占欲が強い。そんな僕は彼女が逃げることをよしとしない。
この時から彼女の傍から離れないことを決心していた。
「紫乃、お昼食べようよ」
気付けば彼女とは名前で呼び合う仲になった。それは僕にとって進展したことで、とても嬉しいものだった。
しかし僕は忘れていたのだ。僕は普通の人間ではない、ということを。
「うん、食べよー」
いつも食べる場所は中庭のベンチ。そこに移動しようと席を立った時に聞こえる陰口。
「うわ、あの女ちょーゲテモノ好きじゃね」
「つかあのうさぎ男もやっぱ一人じゃ辛いんだろ」
「原田さんも原田さんよー。ブスのくせに自分は特別なのよー的な?」
「あー偽善ってやつ?」
高校2年目になれば僕達の関係にだんだん周りが慣れてくる。同時に僕の顔が整っていることも気づくのだ。
周りを見渡せば、僕よりも紫乃のほうに悪意が向かっていた。
この時、普通なら彼女と距離を置くのが一番だと考えるのかもしれない。
でも僕はどこまでもワガママで子供で、依存しやすいから。彼女から絶対に離れないし、そして彼女の知らないところで彼女を守ることを誓った。
まずはクラスの人間からだ。
片っ端から彼女の陰口を叩いていた男女問わないクラスメイトを呼び出しては、2度と喋れないようにした。
それは他のクラスや先輩、後輩も関係なかった。
「最近放課後忙しそうだけど…何かしてんの?」
僕も紫乃も帰宅部だから一緒に下校する。だから最近昇降口に彼女を待たせている僕に疑問を抱いたのだろう。
「んー…ちょっと、駆除してる」
「…駆除?」
駆除ってまさかそんな物理的に…?なんてぶつぶつ呟きながら俯く彼女にはどうやらわかってるらしい。ただ少し違うのは、駆除の理由だけ。
多分彼女は僕が僕のために駆除してると思ってる。彼女がそう思うならそれでいい。
でも僕は自分のためだけじゃ動かないのだ。すべての悪意が僕に向けばいい。そうすれば僕が彼女をどうしたって、彼女は苦しまないのだから。
「あんまり無理しちゃダメだよー」
無理なんてしない。これも一種のゲームに近いのだから。
うさぎである僕には、彼女の些細な態度で満足するのだ。
だからこそその反響は大きくて。僕と彼女の間に何かあればその何かを完膚無きまでに叩きのめす。うさぎのパンチは強いのだ。
「紫乃、」
「んー?」
「チョコ早く食べたいんだけど」
「抹茶と交換ね、はい」
高校3年目の夏。まだまだ何が起こるかわからない。
ただ彼女との生活を大事にするだけかもしれない。だって僕の世界ではいつの間にか彼女が一番なのだから。
よく頑張った!銅メダルファイト(´;ω;`)