お世話係兼お友達の事情
オリンピック見ながら執筆してたので荒いです。あとあと修正していくつもりです|ω・`)
卓球女子頑張れ(´;ω;`)
ウサギ系男子、というものを知っているだろうか。背が小さめで目がくりくりと大きくて、そんでもって食べてる姿はもっもっもっとしている…まあ可愛い系男子である。
でもウサギ系男子なんて所詮比喩である。ウサギ”みたいな”男子。それがウサギ系男子。
私ーーーー原田紫乃の隣でゆらゆらとフードの中で長い耳をだらりと垂らして机に突っ伏している男の子。何か嫌なことでもあったのかな、と一瞥するが、暗い雰囲気でもないので眠いのだろうということで自己完結した、が。
「っ、ほら、そこにいてよ!」
そういうことではなかったらしい。長い耳を持つ彼はいきなりガバッと起き上がったと思えば私の腕をつかんできた。えええ…と若干戸惑っていると、彼も彼で引き返せなくなったのか、顔を少し赤らめながら「傍にいろ」と偉そうに命令してきた。でも可愛いから許す。
長い耳―――つまりうさ耳を持つ彼、兎田裕翔はちょっと皆とは違う男子高校生だが、ちゃんとした人間である…はずだ。断定できないのは、言わずもがな、うさ耳である。こいつが原因である。
いやまあ私も最初彼の耳を見たときは、まだ夢の中なのかなぁと寝ぼけたことを考えたが、一ヶ月二ヶ月経っても彼の耳がそのままなので、そういうものなのかと慣れた。あとなんだかんだ似合ってたからそれでもいいかと思った。
しかしやはり気になるものは気になるもので、なんだかんだ彼は揶揄いの対象になっていたが、いちいち返り討ちにしていたのでだんだんその揶揄は消えていった。あとはやっぱり彼がうさ耳似合うのが理由でもあると思う。
「裕翔くん眠いんじゃないの?」
「別に眠くないし。僕の傍にいろっていってんの」
そんな彼のお世話係に私が任命されたのは、高校1年生の時だ。幸か不幸か、3年生になっても彼とはずっと同じクラスである。うん、この3年間いろいろあったなぁ。
ちなみにこの高校は大学付属なので受験勉強しなくてもいいのであーる。私みたいな面倒臭がりはもちろんそのままエスカレータで付属の大学に行くつもりだ。
高3の夏。うだるような暑さから逃げるには教室に行くしかない。教室は生徒にとってシェルターだ。クーラーの効いた教室には、今が放課後のためか、ほとんど生徒がいない。
「ねえねえ裕翔くん、そろそろ帰ろうか」
「…やだ、暑いんだけど」
んー…でもそろそろ教室のクーラーも切れちゃうよ?と言ってみるが無言しか返ってこなかった。動きたくないだけでしょ。私もだけど。
そもそも幼馴染とか同中とか大した接点もない私が彼のお世話係になったのか。
「ほらー、早く帰らないと裕翔君の耳で遊んじゃうよー?」
「…それは面倒臭い」
簡単に言えば、最初に彼を見たとき、私だけが悲鳴を上げなかったからである。
かといって私もびっくりしなかったわけではないが、単純に興味がなかったのである。その時の自分の中では、そういうひともいるんか、っていうレベルだった。よくよく考えれば普通じゃないことくらいわかるのだが、大したことではないとすら思っていたのである。
まあそのおかげかなんなのか、彼とは3年間良い友達として仲良くやっている―――ほぼ私が彼のお世話をしているだけだが――。
「じゃあ帰るよ、行こ」
「…わかったよ」
ガタ、と席を立ち、帰り支度を始める。教室の隅で数人の男子がこちらを見てから、コソコソと話し始める。どうせ裕翔君のことでも言ってるのだろう。
まあ彼は自分がどうしてこんな姿をしているのか、クラスメイトはおろか、私にすら話してくれない。もしかしたら私が聞いたら教えてくれるのかもしれないが、そこまで知りたいと思わないので聞いていない。そんな感じだから納得いかない人はいかないのだろう。
かといって、そんなコソコソ話す人たちにいちいち指摘するほど私たちは暇人ではない。言いたい奴には言わせておけ。まさにそのとおりである。
彼も最初のうちは言い返していたけれど、だんだん面倒になったのだろう、華麗なスルーを決め込むようになった。偉い偉い。
二人で教室を出ると、廊下はムワッと熱気が充満していた。ジメジメと多く水分を含んでいるのか、廊下を歩くと何度か上履きと地面がこすりあってキュッという音が響く。
それに彼の耳がピクピクと反応するのが可愛かった。
「帰りアイスでも買って食べようか」
「…アイス…奢ってくれるなら考えるけど」
「はいはい、裕翔君は抹茶アイスだっけ?」
「…なんかむかつく」
「3年間も一緒にいればわかってくるよ」
クスクスと笑うと彼は恥ずかしそうに顔を赤くしてそっぽを向いた。あらら、拗ねちゃった。でもそんな姿も可愛いから頭を撫でてしまう。暑い、と言われて払われてしまうけれど。
フードの中で揺れる耳が、外に出てからもっと項垂れている。
「暑くない?」
「暑いに決まってんでしょ」
「そうだよねー。あ、コンビニあったから買ってくるよー」
「…仕方ないから僕も一緒に行ってあげる」
そう言って私についてくる彼の耳がぴょこぴょこ揺れているのが見える。ジワジワと暑さが溜まっていくのか、彼は少し不機嫌そうだった。
コンビニに入るとクーラーを存分に使っているのか凄い冷えていた。少しヒヤッとするが隣の祐翔君は嬉しそうだった。
「私何にしようかなぁ…」
「…結局いつもチョコじゃん」
「えーだって、一番無難じゃん。それにさ、」
「……?」
「抹茶と合うでしょ?チョコって」
ニコッと笑うと、彼は照れたのか顔を赤くしてふいっとそっぽを向いた。そんな様子が可愛くて面白くてクスクス笑うとバシッと腕を軽く叩かれた。痛いよ。
そのまま抹茶アイスとチョコアイスを持ってレジに持っていこうとすると、ひょいっと手からその二つが消えた。え、と思って抜けていった先を見ると、彼がその二つを手に持っていた。
「…奢らなきゃついてきてくれないんじゃなかったの?」
「紫乃にとって僕はそんなに心が狭い人間なの?」
「ふふふ、冗談だよ。ありがとう」
彼が手早くレジを終わらせると、「ん、」と言ってチョコアイスを手渡してくれる。コンビニを出て少し歩くと小さい公園がある。そこで食べようかとそこへ向かった。
コンビニを出るとやっぱり暑くて。彼の持ってる袋の中に入ったアイスが溶けてしまうのではないかと少し心配になる。
暫く歩いて公園につき、ブランコに腰を掛けた。
「あっつー…」
「はい、チョコ」
ぽんっと額に茶色くて硬い袋を乗っけられる。ひやぁっとした冷たさが額から顔全体に広がった。こういう時優しいよなぁとぼんやりと思う。
「ありがと」
「…どうでもいいけど、チョコも頂戴」
「ふふっ、裕翔君もチョコ好きだもんね。私にも抹茶欲しいな」
「うるさい、わかってるなら早く食べて」
真っ白な彼の肌が赤く染まる。そんな彼が可愛くて。隣のブランコに座った彼が食べている抹茶アイスを横から舐め取る。
それにまた顔を赤くするから、私も意識してしまう。それでもそこから離れないのは、彼の隣が居心地いいからだ。
高3の夏、明日は終業式。
今年も彼との夏休みの思い出が作られるだろう。
「もういっそアイス混ぜちゃおうよ」
「…なんで紫乃はそんな大雑把なの」
もう、2人でしかいられない。
頑張れ日本(´;ω;`)