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八話

 子供達は、初めて見る闇魔法にきゃあきゃあと騒いでいる。師匠も珍しそうに黒煙のようなものを吐いていた龍の置物を見つめている。



 いいのか、そんな呑気で。仮にも私、魔王を倒すために異世界からきた勇者的立ち位置なんだけど。使う魔法が闇魔法とか、敵じゃん、それ。色々不安になってくる。すると、察しのいい京が私の隣まで歩いてくると、穏やかに微笑む。



「大丈夫ですよ、こより様。魔法は元々、魔物から伝わった力ですから。闇魔法が使えるものがいても、おかしくありません」

「そうなの?」



 聞いてないよ、師匠。という目で訴えると、しまったといった様子で師匠が慌てたようにコホン、と咳払いをして説明する。



「魔物って言っても、一概に悪い奴とは言えないんだ。魔物の中でも、知能が高くて人型に近いやつは人間に紛れて街で暮らしてたりする。そういう魔物が、人間に魔法という力をくれたわけ。中には魔物と交わって子供を生んだ人間もいるから、そういう奴は闇魔法が使えたりする」


 

 手元のメモ帳を見ながら説明したことでどや顔されてもなぁ……。とりあえず、よいしょしたほうが良さげなので小さく拍手しとく。師匠は満足気だ。とてもわかりやすい性格で、いいと思う。こっちも扱いやすくていい。それに、わざわざメモして説明してくれたわけだし。そこは労うよね。



 もう一度師匠は咳払いをすると、真剣な眼差しになる。龍の置物はお弟子さんがそさくさと片付けていった。真剣な眼差しに、思わず背筋がシャキッとする。



「皆、わかっていると思うが、改めて言おう。ここにいるこよりは、異世界からきた魔王を倒す勇者だ。皆も、早く魔王を倒してほしいよね。今の魔王は、極悪非道と言っても過言じゃないもの。そのためには、こよりが早く魔法を使えるようにならないといけない。それで、皆にも手伝ってもらいたい」


 

 私の稽古を優先する、と言っているのだ。子供達は、横にいる子と顔を見合せ、こそこそ話す。そして、全員揃って元気よく返事をした。師匠は、満足気にうなずき、私に向き直る。



「ビシバシ鍛えるから、とっととあの極悪非道な魔王倒してきて」


 

 真剣な眼差しから一転、ふざけたような物言いのわりに、瞳の奥は不安そうに揺れている。私は、真っ直ぐ師匠の目を見つめ、ぎこちなく笑みを浮かべる。



「任せてください」



 その日から、厳しい稽古の日々が始まった。今まで使ったことのない魔法というものに、私は大変苦労した。何せ、皆言うことがふにゃふにゃしていてよくわからないのだ。



 体を鍛えるとは違って、感覚で掴め! って感じ。体の表面に見えない膜が張っているような感じ、とか。見えない糸を探るような感じ、とか。とにかく何々みたいな感じ、と言われる。そんなの、わからんて。



 苦戦していると、子供達がわらわら寄ってきて何かとアドバイスをくれる。けど、言うことがふにゃふにゃしているからやっぱりよくわからない。



「無駄に力込めない! 魔法は脱力してても使えるものよ」



 師匠に怒鳴られ、知らず知らずのうちに、体に力を込めてしまうことに気づく。魔法を使う時は意味ないらしいんだけど、つい癖で。


 

 道場から師匠宅の平屋に帰り、ここ最近の日課の長い廊下の雑巾掛けをしていても、頭の中は魔法のことでいっぱい。どうやったら使えるようになるんだろう。



 アイツーー魔王と街中で遭遇し、一戦交えてから半月が経った。迎えを寄越すとか言ってたのに、向こうからのアクションは何もない。無さすぎて不気味なぐらい。何往復かしたところで、ふっと見えない何かを感じる。


 

 上着を着た時みたいな、体を纏う暖かさ。不思議に思い雑巾掛けの手を止めると、すぐ近くで悲鳴が。私の近くにいたのは師匠の家に仕えるお手伝いさんだけだ。何かあったのかと辺りを見渡すけど、何もない。



「どうしました?」

「こ、こよりさん……すぐに茜お嬢様を呼んできます!」


 

 え? ええー……? 何がなんだかよくわからないままお手伝いさんは走り去ってしまった。少し経って、お手伝いさんが師匠を連れて戻ってくる。師匠も、私を見るなりなぜか驚きの表情を浮かべ、それから嬉しそうに破顔した。



「今まで魔法を感じたことすらない人間が、僅か半月近くで魔法が使えるようになるなんて、異例中の異例だよっ」


 

 ま、ほう……? 私には、師匠の言っている意味がわからなかった。私が感じているのは、体を纏う暖かさだけ。魔法、使えてるの? 見えないから、わからない。興奮したように、師匠が続ける。横にいるお手伝いさんは、ただただ呆然としているだけ。



「しかも、魔力の擬人化なんてーー」

『キイキイうるさいぞ、小娘。わしはユズキ様に頼まれて、(あるじ)を守っているだけの話。ついでに言うと、主は魔法を使っている自覚がないから、お前らの話についていけないようだ』



 頭上から、凛とした女の人の声が聞こえ、意識が遠くなりそうになる。何とか気を保つ。待って、今、私の身に何が起こっているの?

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