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六十七話

 水晶玉のような魔道具に、映っているのは父様の顔。私が笑顔で手を振ると、たいへん驚いていた。けれど、すぐに父様もぎこちなく笑みを浮かべてくれた。



 今、部屋には四人いる。私と、ジーヴ。大王様と、母様。いつものように書庫で本を読んでいたところ、この城の中に様々な世界が見られる魔道具、映し玉というものがあることがわかった。早速勝手に城中を探し回り、物置部屋のような場所で見つけた。それはホコリを株ってひどく汚れていたが、三日ほどかけて丁寧に磨けば、透明な水晶玉の出来上がり。



 ずっと思っていたこと。父様は母様が言うように、本当に母様を恨んでいたのか。そして、かすかに覚えている、クロエお姉さんの言葉。なぜ私が殺し屋として育てられたのか。その疑問を、ぶつけてみようと思った。



 とりあえずは、母様と父様が話す必要があるんだけど……大王様が母様から離れない。仕方ないので、三人で話し合いをしてもらうことに。私とジーヴは部屋から出る。父様と母様、仲直りできるかな。余計なお世話だったかな。などともやもや考えていると、ジーヴに手を握られる。



「大丈夫だ、こより」

「うん……。ありがとう、ジーヴ」



 しばらく待つと、大王様が私とジーヴを手招きする。部屋に入ると、母様が泣いていた。一瞬ぎょっとしたけど、母様が私のすぐそばまで歩いてきて、抱き締めた。



「ありがとうこよりちゃん。これでようやく、俊也さんと仲直りできた……!」



 

 母様が嬉しそうだったので、話の内容はあえて聞かない。大王様の顔を見ても、特に気分を害した様子はない。余計なお世話にならなかったことに、安堵する。



 次は、私の番。水晶玉の前に立つ。何か言われるかと構えていたけど、父様はただ笑うだけ。私は、うつむきながら、言葉を絞り出す。



「父様……私は、どうして殺し屋になったのですか」



 言ってから、少しおかしな言葉だったと気づくが、父様は気にせず話し始めた。



「ユズキの魔法で元の世界に戻された、あとの話だ」



 父様は、カラスとしての依頼、魔王を倒すどころか、魔物の母様との間に子供まで作って戻ってきた。当然の如く父様からカラスの名は剥奪され、親子揃って処分されるところだったのを、寸でのところで父様が止めた。



 私……こよりを、立派に使える殺し屋に育ててみせる、と。だからどうか、娘の命だけは助けてくれ……父様は、そう懇願したそうな。その言葉が何とか通り、父様は私を生かすために殺し屋として育てたーーと。



 クロエお姉さんが言っていた。知ったととろで、救われるとは限らないと。でも、私はーー。



「ありがとう、父様」


 

 救われるなんて、大層なものじゃない。そこに親の愛が感じられただけで、充分だ。私は、笑顔で父様にお礼を伝えた。父様は驚いたように目を見張り、それから、破顔した。



「私は……こよりをそちらに送って、よかったと思っている」

「幸せ、ですから」



 私を送り出す前に言った、父様の言葉。私の幸せを願っているというあの言葉。父様、私は今、幸せです。私の言葉に、送り出す前に言ったことを思い出したのか、小さく「そうか、よかった」と呟くのが聞こえた。



 そう言えば、ふと思い出して聞いてみる。



「父様、兄様と私には血の繋がりが……」

「そのことも知ったのか。与一は、私が死別した先妻の子だ」

「そうだったんですね。……でも、家族ですよね」



 そう言うと、父様は笑った。



 そのあとは、ジーヴが珍しく緊張した面持ちで父様に挨拶をしたり、それに大王様、母様、私の三人がクスクス笑った(大王様も笑うんだ……って思ったのはナイショ)り、和やかな雰囲気に包まれた。



 大丈夫、クロエお姉さん。私には、ちゃんと私の幸せを願ってくれる父親がいるし、優しい母親だっている。ジーヴも、大王様もいる。大丈夫、私はちゃんと……幸せになれたよ。

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