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六十六話

 とうとうこの日がきてしまった……。そう、私とジーヴの、結婚式である。魔物の結婚式は、唯一暗雲が晴れて、月が顔を出す、夜に行われるのが常識なんだそう。



 確かに暗雲と邪気が立ち込めた薄暗い昼間にやるよりは、煌々と輝く満月が出ている夜にやったほうが、ドレスとかも映えるのかもしれない。



 ちなみに、ウェディングドレスは相談に相談を重ねた結果、私の鍛えぬかれた、細くも筋肉のついた足を出すためにスカートは短めにして、代わりにふんわりとさせてフリル多めで可愛らしさをアップとかなんとかハルさんが鼻息荒く語っていた。



 色はやっぱり白色。今は控え室のようなところで、心を落ち着かせている。部屋には心を静める効果のあるお香が焚かれている。


 

 顔を覆う薄いヴェールは、今のところあげられていて、綺麗にセットした髪の毛に絡まないようにしてある。


 

 腰までの長い黒髪は、纏めてお団子にして、華やかさアップ。顔にはファンデーションが薄く塗られ、唇には口紅が塗ってある。お陰で、いつもより血色がいい気がする。幼い、小学生にしか見えない顔も、化粧とセットした髪の毛のお陰か少しではあるが、年相応に見える……ような。


 

 何回もドレッサーの鏡の中に映る自分を睨む。おかしなところがあったら、せっかくの結婚式が台無しだもの。側に控えているビーちゃんが顔をしかめる。



「これから幸せな花嫁になるお方が、怖い顔をするんじゃありません」

「だってぇ……。ね、変なところない? 大丈夫?」

「大丈夫ですから、早く行きますよ」


 

 椅子から立ち上がらされ、扉のほうへ招かれる。私もいい加減、覚悟を決めなくては。変なところがあっても直せばいいだけの話じゃないか。笑える結婚式になったらそれはそれで楽しいじゃないか。きっと、いい思い出になる。



 すぅ、と息を吸い込み、顔を覆うヴェールをおろして、いざ……!


 

 魔王の結婚式というのだから、もっと大勢の魔物に囲まれてするのかと思いきや、派手なことが嫌いな私を考慮してか、ジーヴはこじんまりとした式にすると言ってくれた。というか、ぶっちゃけ勇者と魔王は相討ちになったってことになっているため、あまり派手な式はあげられないそうな。



 どちらにしろ、助かった。目立つのは、苦手なんだ。本来なら、新郎であるジーヴの元まで歩く私をエスコートするのは、私の父様の役目。しかし、こちらの世界にいないんだから仕方ない。代わりに友人のアルがやってくれた。

  

 

 なので今のアルは、あの胡散臭い笑顔を浮かべた男バージョン、アル。黒のスーツに身を包み、胡散臭いことこの上ない。口が裂けても言えないけど。



 いや本当、持つべきものは友ですわ。私をエスコートし終わると、早々にどこかへ消える。次見る時は、女バージョンになっているんだろうな。



 なんて考えている間にも式は進み、月明かりの下で、ケーキ入刀。入刀する際、緊張で震える私の手を、ジーヴがさりげなく包み込んでくれた。ジーヴの手の温かさに、ほっとした。その後、皆で軽い食事をとる。



「おめでとう、こより!」

「おめでとうございます、こより様」


 

 女バージョンアルと京に祝福され、ようやく実感がわいてくる。隣にジーヴがいて、友人に祝福され、私がこんなにも幸せで、いいのだろうか。涙がじわりと浮かびそうになる。



 ぽん、と肩を叩かれた。



 はっとして見ると、そこには相変わらず怖い顔をした大王様と、ニコニコと朗らかに笑うユズキさんの姿があった。隣にいたジーヴが大王様の顔を見て一瞬むっとするも、ユズキさんを見るとなんとも言えない表情になる。



「こら、泣いたら綺麗なお化粧が崩れちゃうわよ。おめでとう、こよりちゃん」

「ユズキさ……!」



 ん、と言おうとして、途中で口をつぐむ。不思議そうな顔をするユズキさんを真っ直ぐ見据えて、私は笑った。

 


「ありがとう、母様!」


 

 ヴェール越しだから、笑ったのちゃんと見えたかな。言った途端に、母様は瞳をうるうるさせ、あっという間に泣き出した。



 泣いたら綺麗な化粧が崩れちゃうのは、どっちだか。わんわん大泣きして、大王様と、ジーヴをおろおろさせている母様にもう一度笑いかける。母様が、泣きながら笑う。



「わた、私、名乗ってもいいの? こよりちゃんの母親を……名乗ってもーー」

「いいに決まってるよ。父様も母様も、兄様も、大王様もジーヴも、皆私の家族」

「ありがとう……! ……あら? こよりちゃんには、お兄さんがいたのね」

「……あれ?」


 噛み合わない私と母様の会話に、周りが笑いに包まれる。兄様は、母様の子供じゃなかったんだ。だから、成人しても元の世界にいるのか。でも……家族だよね。言葉にしてしまえば簡単なこと。皆、私の家族。


 

 結婚式のクライマックスとも言える、口づけを交わす時。ジーヴがそっと優しい手つきでヴェールをとると、目を見開く。そして、破顔した。



 肩に手を置かれ、口づけが落とされた。幸せだと、思った。……今まで、殺してきた人達の恨みなら、あとからいくらでも受けよう。どうか、どうかこの瞬間だけは、幸せな花嫁でいさせて。

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