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六十四話

 ベッドに腰掛けて、本を開く。そのまま、流し読みしていると、扉がノックされる。誰だろう? 扉を開けると、女の人達がドドド、と押し寄せる。女の人達の手には、よく見るとメジャーなどが握られている。



 な、何事!? 敵が襲撃……にしては持っているものが平和的すぎるような。京も何事かと部屋に入ってこようとしたが、女の人達にやんわりとした口調で、入ってくるなと凄まれ、部屋にはメジャーを持って嬉々とした表情の女の人達と、私が残された。



「さぁ、ウェディングドレスの採寸をいたしましょう!」

「へ? あれ、そういえばあなた……私の服の採寸をしてくれた、人」

「うふふ、私の名前はハルと申します。今回は、こより様のウェディングドレスの採寸から完成まで、担当させていただきます。どうかよろしくお願いいたします」

「う、ウェディングドレス……」

「心配されることはありません。すべて私達にお任せを」

「はぁ……」


 

 ついに、ウェディングドレスを作るところまできたのか。結婚……私が、お嫁さん? 指輪はめてもらって、キスをーー? うわぁ、全然想像できない。むしろ、なんか鳥肌が立つ。


 

 なんだろう、別にジーヴが嫌いとかそういうのじゃないんだけど、私が可憐なお嫁さんになることを想像したら不思議な気持ち。



 あ、私、ジーヴにプロポーズされたけど、婚約指輪なるものは受け取っていないぞ。いや、別に要求するつもりとかはないけどさ、地球にある日本という国では、婚約指輪なるものが存在するから……。


 

 悶々と考えている間にも、あっという間に服を剥かれ、下着姿で採寸。採寸が終わったら元の服に着替えて、次々と持ち込まれたドレスを姿見の前であてられる。どのドレスも、体格のいい魔物に合わせて作られているから、私には大きすぎる。



 そのための特注なんだろうけど……お値段を考えると、ちょっと恐ろしい。ハルさんをはじめとする女の人達は、ドレスをあてながらきゃあきゃあと楽しそうに話す。



 スッキリとしたシルエットは似合わないだの、可愛らしくフリル多めがいいだの、スカートはロングにするか短くするかどっちが似合うかとか、色んなことを頭の上でピーチクパーチク話されるものだから、最初はうなずきながら聞いていたけど、疲れてきたので私は思考を放棄してポケーと鏡の前で棒立ち。



「それでは、また相談しに何度かきますので。今日はこれで」


 

 ペコリ、と頭を下げて女の人達は嵐のように去っていった。すぐにビーちゃんが部屋に入ってきて、甘いココアをいれてくれた。ココアを少し飲んで、息を吐き出す。



 つ、疲れた……。ウェディングドレス一つ仕上げるのに、まだまだ道のりは遠そう。うう、くじけそうだ。はっ、これが所謂マリッジブルーってやつ? ……なんとなく、違う気がする。


 

 すごい今更だけど、ジーヴは魔王。魔がついているけど、このミルリアの国王。王様の結婚式ともなれば、どれだけ壮大なものになるのか……。想像しただけで、めまいがしそう。


 

 元の世界じゃあ、十八で結婚なんて意識すらしていなかったから、結婚式がどんなものかわからない。ましてや、王様との結婚なんて、誰が想像するだろう。


 

 控えめに扉がノックされる。ハルさん達とのやり取りでぐったりしていたので、どうぞと言うだけ言って放置。



 扉が開かれ、入ってきたのはなんとユズキさん……と、顔がいかつい男の人。黒いマントを羽織っている。ていうか身長、大きっ。百九十は軽く越えてそう。アルよりも大きいぞ。



 見上げるほどの大きさに、思わず後ずさり。背後に暗雲背負ってそうな雰囲気を醸し出している。ユズキさんと並んで立っているってことは、もしかして……大王様? 



 今まで会ったことがなかったから、てっきり違うところに住んでいるのかと思っていたけれど、ユズキさんが同じところに住んでいるんだから大王様も一緒に住んでて当たり前か。夫婦なんだし。



 ずん、といかつい男の人が一歩前に進む。一歩後ずさる私。しばし、沈黙。



「あなた、こよりちゃんが怖がっているわ。ただでさえ怖い顔してるのに、張り切って昔の服なんて引っ張り出すから……」

「……む」



 あ、やっぱりこの巨人が大王様で合ってたのね。そして意外とユズキさんの尻に敷かれてそうな雰囲気。見た目滅茶苦茶怖いのに。そのギャップに、噴き出しそうになるが、なんとか堪える。噴き出したら視線で殺される気がする。そのぐらい怖い。


 

 大王様が、一歩下がる。そして、ゆっくりと頭を下げた。



「息子を、よろしく頼む」

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