六十三話
船内アナウンスで、船つき場に到着したことか知らされる。いつのまに。揺れなどを全然感じないから、気がつかなかった。
私は、部屋の中の荷物をまとめて、旅行バッグに詰める。しかし、ギチギチに詰めてきたせいか、行きと入れ方が違ったのか、入りきらない。
どうしよう、困ったなぁ。部屋の外にはジーヴが待っている。早くしないと……。焦って無理に詰め込もうとすると、横から手が伸びてきた。
いつのまにか京が、手早く服などを畳み、まるで積み木でも積み上げるかのように服や本などをバッグの中へ詰めていく。くしゃくしゃでシワができていた服のシワもちゃんと直してから畳んでいく。
手伝う間もなく、あっという間に持ってきたものすべてが綺麗にバッグの中へ収まった。す、すごい……。というかこれは、護衛の仕事には入らないのでは……?
ま、いっか。入ってよかったー。京にお礼を言って、部屋を出る。心なしか、京が詰めてくれたほうがバッグがスッキリして見える。
馬車に乗り込み、魔王城へ。せっかくピースまで行ったのに、とんぼ返りである。京と再会できたことはよかったけど、師匠や子供達の姿、一目でいいから見たかったな。元気かな?
あとで京に聞けばいいか。ま、船旅が豪華だったし、アルと知り合えたからよしとするかな。
「ふわー、疲れた! 何もしてないけど疲れた!」
「こより様、ベッドに寝転がるのは着替えてからにしてください」
「京ってば、相変わらずの小姑みたいな……ごめんなさい」
ニッコリと微笑まれたのに、なぜかぞわぞわっと背筋が寒くなって嫌な予感がしたので、大人しく謝る。京は、ニコニコしたままだ。
このままだと、男とか女とか関係なく服を剥かれそうなので、ベッドからおりて京を部屋から追い出し、着替える。ハイネックのトップスに、白のスカート。基本的に、特注してもらった服はスカートの丈が長い。淑女はミニスカはいているイメージないもんなぁ。
ミニスカといえば、想像するのは女子高生、かな。中学生ぐらいまではスカート長いよね。高校生になるとその反動でもきたかのように一気に短くなるよねぇ。少なくともうちの高校は短かった。
高校……高校か。本当なら、高校三年生で、進学か就職かとかで悩む年頃なんだろう。なのに、私はなぜか異世界にきていて、本当に不思議でたまらないんだけど魔王城で普通に過ごしている。おかしい、何がどうしてこうなった。
本来なら、倒すべき相手に恋をしてしまったのが、すべての敗因と言えよう。恋……あらためて考えると、私はジーヴに恋をしている。というか、もう両思いだ。そして、もう結婚まで了承してしまった。これは……いいのか?
*
「この世界での常識……ですか」
「そう! 例えばけっ……げふんげふん。成人する年齢とか!」
いきなり私とジーヴの結婚話をしてどうする。早まりすぎだ、ここはまず遠回しに人間でいうとまだ十五、六歳のジーヴが結婚できるのか確かめねば。
京は、いきなり不自然すぎる咳き込みをした私をスルーしてくれて、質問に答えてくれた。
「こちらでいう成人は、大体十五歳ぐらいですね。まぁ、魔王が相手なら、成人していなくとも結婚できると思いますが」
「へぇ!? ち、違うんだよ、京」
「そんなに顔を真っ赤にしていたら、ボクでなくともわかりますよ」
慌てて弁解しようとすると、クスクスと笑われてしまった。く、くそう……私のポーカーフェイス、どこへいった。戻ってこい!
「こより様は、ジーヴ様の妃になることを、了承されたんですね」
「うん、でもさ、私はもう十八だからいいとして、ジーヴがまだ結婚できる年じゃなかったら、私年上としてアウトでしょう。色々と」
「相手が相手なので、その心配はご無用かと」
「そうだね、ふふ」
私が小さく笑うと、京は嬉しそうに目を細めて笑う。京は、私の感情表現が豊かになったって言っていたけど、京も充分感情が表に出るようになったよねぇ。前はあんな風に優しく笑ったりしなかったもの。
いっつも銀縁眼鏡光らせてお小言をさぁ……。あれはあれで懐かしいものがあるね。キラリと光る銀縁眼鏡、苦手だったんだよな。今は外してるけど。ウィッグもメイド服もないから、本当に別人のよう。




