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六話

 出されたお茶をすする。そんな私を見て、あぐらをかいていた美女が少し驚いたように目をパチクリさせる。ちゃぶ台に置かれていた木のお皿? のようなものに入っているお煎餅を美女が不機嫌そうにかじる。



「本当に殺し屋なの? 知らない家で出された茶を平気で飲むとか」

「仮に毒が入っていたとしても、慣らされてますから」


 

 私の発言に、美女は目を丸くしてポトリとかじりかけのお煎餅を落とす。

 


 失礼なこと、言ったかな。これから稽古をつけてもらうかもしれない相手なのに。にしても、何でこの人私が殺し屋だって知ってるの? 京の知り合いだから? よくわからないままちょっとだけ反省していると、美女の睨みが京に向けられる。よく睨まれる京だこと。他人事のようにお茶をすすりながら眺める。



「こんな年端もいかない女の子が毒に慣らされるたぁ、どういうことだ? キヨ」


 

 乱暴な口ぶりに、私のほうが驚いてしまう。隣に座る京は、申し訳なさそうに目を伏せる。



「事情があって……、仕方ないんです」

「仕方ないで、お前はこの子を守らなかったっていうのか!」



 流石に、ちゃぶ台をひっくり返さんばかりの勢いで怒鳴り声をあげる人の前で呑気にお茶をすするわけにもいかず、止めに入る。



「ご存知かと思いますが、うちは殺し屋です。身を守るための術として、毒慣らしを行っているだけでーー」



 ちゃぶ台の向かいに座る美女が、私の言葉を聞いた途端にくしゃりと顔を歪めたかと思うと、ボロボロと涙をこぼす。ひっくひっくとしゃくりあげるので、私は慌てて美女の背中をさする。



 ガシッと美女に手を握られる。何と声をかけたらいいのかわからす迷っていると、嗚咽を漏らしながら美女が口を開く。



「あたし、あなたが生まれる時、立ち会ったのよ。お優しいユズキ様と俊也の娘に生まれたらきっと幸せな人生が待っていると信じて疑わなかった……。まさか、俊也が殺し屋を娘にまでさせるだなんて思ってもいなかった」



 後半は殆んど嗚咽で聞き取りづらかったが、なんとか聞き取れた。父様の、名前を知っているーー? 一体、何が何やらサッパリわからない。わからないことだらけでいい加減イライラしてきたけど、とりあえずこの人を泣き止ませることが先だ。



 京は目を伏せるだけで、動こうとはしない。くそう、私が何とかするしかないのか。こういうのは、苦手なんだ。生まれた家が家だけに、泣く人がいなかったから、慰め方がわからない。ああ、もう! こんな時のためのメイドじゃないのか!


 

 ただ背中をさすることしかできなかったけど、段々落ち着きを取り戻すのがわかってほっと安堵する。


 

 タイミングを見計らって、お手伝いさんのような女の人が冷したタオルと冷たい水を持ってきたので、あとはお任せする。女の人がタオルを泣き腫れた目にあて、水を飲ませる。ふぅ、と息を吐いた美女が、なぜかこのタイミングで名乗る。



「取り乱して失礼した。あたしは茜。いいよ、稽古をつけよう。あたしのことは、師匠と呼ぶように。いいね」

「はい」



 ひとまず、稽古はつけてもらえそうで安心する。最後まで、京の表情が暗かったのが気にかかるけど。



「そうと決まったら、今日からうちに住み込みで働いてもらうよ」

「え、住み込みって……部屋、貸してくれるんですか?」

「その分働いてもらうよ」


 

 そう言ってウインクする茜さんは、とても美しかった。住み込みで働くなんて、今までにない経験だ。もしかして、さっきのお手伝いさんも稽古をつけてもらう代わりに働いているとか? 



 女として最低限家事はできなければいけない、と梅子さんに教えてもらったので、ある程度はできるつもりだけど。呑気に考えていると、茜さんがニッコリと笑いながら言う。



「うちは厳しいよ。覚悟しな」

「はい」

「返事はもっと元気よく!」

「は、はい!」


 

 私達のやり取りを、お手伝いさんは微笑ましそうに見る。私は、京の暗い表情が気になったけど、早速道場へ向かうことになった。護衛として、当然京もついてくる。茜さんは、暗い表情の京に冷たい。



「暗い奴がそばにいるとこっちまで暗くなりそう」


 

 そう、顔をしかめて言うものだから、私はなんとか茜さんの注意を向けようと話しかける。どうしたって言うの、京。いつもみたいに銀縁眼鏡光らせて厳しいこと言ってるあなたらしくない。京は、茜さんの冷たい言葉にも、暗い表情のまま。



「魔法を使うんですよね? 私も使えるようになるでしょうか」

「そうだねぇ、まずは測定と肉体能力を見ないとね」


 

 当たり障りのないことを話している間に、道場へつく。

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