五十六話
表現にグロ注意です。
熱い。体が……熱い。全身が熱いというより、一部分のみがかーっと燃えるように熱い。身じろぎをすると、腹部と胸のあたりに鈍い痛みを感じてうめき声が漏れた。
目を開くと、天井が見えた。回転している。天井が、ぐるぐると回転している。ここはーーどこかのアトラクションかなにかか? うめき声をあげると、誰かの足音が近づいてくる。
「こより! よかった、意識を取り戻したんだな。よかった……!」
手になぜか大量の包帯やガーゼを持って部屋に入ってきたのは、ジーヴだった。私が寝ているベッドまで駆け寄ると、そのまま泣き崩れた。
ぎょっとして起き上がろうとして、またあの腹部と胸の痛みに襲われる。慌てたように、ジーヴが泣きながら私を寝かせる。
混乱している頭の中を、一度整理する。ええと、私はジークと戦っていたんだよね、うんうん。そんで、意識が最後にあったのは、ジークに腹を刺されたあと。
刺されてすぐに、意識を失った……私、生きていたんだ。すごーい、あんなごつい剣に刺されても、生きていられるもんなんだ。人間の体って案外丈夫! などと呑気に考えていると、沈痛な面持ちでジーヴが口を開く。
「こより……お前に、謝らないといけないことがある」
「なぁに、ジーヴ」
あれ、私の腹をぶっ刺して満足気だった肝心のジークはどこへ? そのことが少し気にかかったけど、今は申し訳なさそうにしているジーヴの話を聞くことが先決。
真剣な眼差しで手元を見ていたジーヴが顔をあげて、私と目が合う。泣きそうに、瞳の奥が揺れている。
どうして、そんな顔するの? もしかして、私が怪我したことに、責任を感じているの? たったら、気にしなくていいのに。こんなの、なんてことないよ。そう言おうとしたけど、今は口を開いてはいけない気がして、黙ってジーヴの言葉を待つ。
「俺が、船長に船を出すよう命じて、すぐに部屋へ戻った。だが、すでに遅かった……。床には腹を突き刺され、血まみれで息絶えていたこよりの姿があって、ジークは側でこよりから……えぐりとった心臓を手に狂ったようにケタケタ笑っていたよ。あいつはもう闇に飲まれた。だから、処分した」
…………なにを、言って……? ジーヴがなにを言っているのか、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているのか、わからなかった。
息絶えていたって、私、こうしてピンピンしてますけど。腹のあたりと胸のあたりが動くと痛いだけで、こうして生きているし。だからジーヴ、たちの悪い冗談は……。
いき、て? あれ、息が苦しい。おかしいな、こんなにも息苦しいのに、心臓の音が聞こえないなんて。あるはずのものが、ポッカリとなくなったような、気味の悪い感じ。
やめて、やめて、全部悪い夢だと、誰か。そう言って……! あえぐように、酸素を求めるように口を開閉する。ジーヴが、そんな私を見て目を伏せた。それでも、話を続ける。
「俺達魔物は、大抵のことじゃ死なない。そう、例えばーー心臓がなくても。血の契約を結べば、契約主が生きている限り、死ぬことはない。勝手だと罵ってもいい、俺はこよりに死んでほしくなかった。だから、血の契約を結んだ」
「何を、わけのわからないこと言っているの? ねぇジーヴ、これは悪い夢だ、早く私を現実へ戻して……」
自分でも、声が震えているのがわかった。視界がにじむ。心が現実を拒絶しても、脳は受け入れてしまっている。
嫌だ、なんで、私が……今まで犯してきた罪が、一気に跳ね返ってきたみたいだ。私は、死んだんだ。今まで殺めてきた人達と同じように、簡単に死んでしまった。心臓が本来あるはずの場所に手をあててしまえば、これが現実だと嫌でも思い知らされた。
「う、うう、うううっ」
がりがりと、えぐるようにその場所を爪で引っ掻く。ガーゼごしに血がにじみ、更に爪を食い込ませようとして、ジーヴに止められる。
痛い、痛いのに、こんなにも……痛いのに。どうして、私の体は死んでいるの。涙が自然と溢れてくる。視界がぼやけ、止めどなく溢れる涙は、こんなにも温かく、生を感じさせてくれるというのに。
理不尽だと、見えぬ神を罵れるほど、立派な生き方をしてきたわけじゃない。むしろ、こうなって当然だと、当然の報いだと笑われることだろう。それでも、私はーー。
「あああああ!」
見えぬ神に向かって、叫び声をあげることしか、できなかった。




