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五十四話

 ジーヴ、私、ジークの三人でテーブルを囲む。さっきからジークは、ふて腐れた子供みたいにそっぽを向いて静かに怒っているジーヴと目を合わせようとしない。



 双子……どう見ても双子だよねぇ。それもそっくりなほうの。並んで見ると、本当によく似ていると思う。でも、毎日のようにジーヴを見ていたからか、違いはなんとなくわかる。ジークが鋭く私を睨みつける。



「大体、なんなのさ君。今まで兄上に女の影なんてなかったから安心していたら……」


 

 ぎりぃ、と歯ぎしりをして睨んでくるけど、私はあなたよりあなたを般若の表情で見ているジーヴのほうがよっぽど怖いです。なにかと思えば、ブラコン弟の出現ですか。



 でも、すっごいデジャヴ。前にもこんな光景見たことあるような……なんだっけ? 思い出そうとするけど、ジークがテーブルを強く叩く音で考えが霧散した。



「答えられないの? 兄上に誰よりも近い存在である、僕の許しなく兄上とつき合えるだなんて思わないでよね」

「そろそろ口を開くぞ俺は。ジーク、なぜ街にいた。そしてなぜ、船で運ばないとこれないはずの大型の魔物がいるんだ? ウソ偽りなく答えろ」

 


 ジーヴの、初めて聞く地の底から響くような低い声に、ビクリと怯えるジーク。今にも泣きそうに顔を歪めて、肩をわなわなと震わせながらなぜか私を思いっきり睨む。



 いやいや、私関係なくない? あなたが今会話すべき相手は横に座る天下のジーヴ様ですよー。我関与せず、の姿勢を貫く。



 ……ジーヴにジーク。顔もそっくりなら名前もそっくり。間違えて呼んだら大変なことになりそう。今は空気と化したほうがよさげ。誰もが口をつぐみ、静寂が場を包み込む。



 口を開いたのは、ジーヴだった。今度はにぃ、と口角だけつり上げた笑みを浮かべる。目が笑っていない。怖い。



「もう一度問う。なぜお前が街にいて、大型の魔物をつれていた。答えろ。ウソや偽りを口にした時点で、死を覚悟するんだな」

「兄上ぇぇ。だっ、だって……! あの兄上が正式に妃を決めたって聞いて、し、しかも、勇者と相討ちになったって噂を流すって知ったからっ。兄上の代わりに、ぼ、僕がぁぁ!」



 突然泣きじゃくるジークに、私とジーヴ、ポカン。最後のほうは最早嗚咽だったが、なんとかジーヴに伝えようと必死なことだけはよく伝わった。



 テーブルに突っ伏し、ひっくひっくとしゃくりあげる。なんというか……うん、ブラコンもここまでくると最早病気である。たいへん痛々しい。



 ジーヴに全然相手にされていないのがわかるから、余計に。哀れ、としかいいようがない。そんな風に哀れんでいたら、いきなりジークが身を起こし、私をびしぃ、と人差し指で差す。そして、泣きながら吠えた。その姿は、初めて会った時のアルを彷彿とさせる。



「僕は君みたいな女、認めないから!」

「人を指差すな」 



 べしり、と今回も父様の厳しい躾に習って勝手に手が動いてジークの人差し指を叩き落とす。はっ、しまった。空気に徹するつもりが、つい……! 



 しかし、体が勝手に動いてしまったのだから、致し方あるまい。そもそも、人様に指を向けるほうが悪い。と、自分へ言い聞かせる。指を叩き落とされたジークは、てっきり怒るかと思ったら、ぶつぶつと文句を言いつつも手を引っ込めた。



 あれっ、意外だなぁ。こういうタイプは、しつこくネチネチくるかと思っていたから、拍子抜け。



 ジーヴが、わざとらしく咳払いをする。おっと、話を中断してしまって失敬。今度こそ、私は空気に徹する。口をつぐみ、身じろぎせず、二人の兄弟の行方を見届ける。ジークは、鼻水をティッシュで思いっきりかんでいた。



 自由だな、おい。あなた今怒られている真っ最中ですよ? ジーヴは、黙ってジークが落ち着くのを待っているようだ。優しいねぇ。そういうところ、お兄さんを発揮しているね。



 鼻水をかんだあとは、高そうなハンカチで涙を拭う。まだすんすんいっているけど、だいぶ落ち着いたみたい。ジーヴが、口を開いた。



「ジーク、お前は自分のしたことで俺に迷惑がかかると、考えなかったのか?」

「そ、それは……」

「一言で言おう。余計なお世話だ」



 ジーヴの、鋭い切れ味の言葉に、ぐっとつまるジーク。切れ味のいい言葉の刃は、更にジークへ降りかかる。



「双子が揃えば不吉なことが起きる。昔からそう言われているだろう。だから父上は生まれてすぐに俺とお前を離した。一応連絡はいつでもとれたが、俺からお前に連絡することはなかった。単純に、興味がなかったからだ」

「あに、うえ……」



 ジーヴの冷たい瞳は、一切の感情を映さない。ジークが、ショックを受けてぐったりとうなだれた。

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