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五十三話

 ぴょこん、と地面に降り立つ。久しぶりに踏みしめた地面は、硬かった。街へ出るにあたって、変装することになった。



 なぜか、ビーちゃんがやけに楽しそうだった。私は、金色のウィッグを被るだけでいいらしい。普段私がロングなことを考慮してか、ウィッグもロング。



 ゆるいウェーブがかかっていて、新鮮な感じ。地毛は、ストレートだから。服装は、どこにでもいそうな街娘風。白のブラウスに、膝上丈のスカート。



「あれ? ジー……、は?」



 うっかり名前を呼びそうになって、慌てて口を押さえた。そうなのである。ジーヴは名前が知れ渡っているから、偽名で呼び合うことになった。



 私はテマリ。名づけたのはジーヴ。なんでテマリなんだろうと不思議に思い聞いてみたら、よくユズキさんが遊んでみせてくれた手鞠からとったそうな。ジーヴの偽名は、ビーちゃんやジーヴの従者も入れて皆で考えた。本人は嫌そうな顔していたけど。



「まだ着替え中です。少々暴れておりますので、もう少し時間がかかるかと」

「そっかー。早く見たいね、シーヴァの女装姿(・・・)

「ええ」



 ビーちゃんは、淑女の姿で嬉しそうにうなずく。そう、ビーちゃんも正体がバレないように、人間に化けている。人間に化けたビーちゃんは、ちゃんづけで呼ぶのがためらわれるほど、完璧な女性。



 そして、本命のジーヴことシーヴァの女装である。最初は当たり前だけど嫌がっていたシーヴァも、私とビーちゃんの粘り強いお願いでとうとう折れた。



 中性的に、あくまで中性的に、という希望が、更に私達の悪魔を掻き立てた。そんなわけで、シーヴァは人生で初めての女装。美しい顔立ちだから、きっと化粧すればもっと映えるに違いない。



「あっ、シーヴァ」

「……! き、綺麗だな」

「うん、シーヴァとっても綺麗!」



 そう返すと、なにか言いたげに口を開くが、すぐに閉じてしまう。拗ねたように、顔を背けられてしまった。女装したシーヴァは、完璧だった。



 今ここにカメラがあったら、迷わずシャッターを切っている。ウィッグは茶色で、肩につかないぐらい短めのもの。目の色は魔法で誤魔化しているそうだ。元が美しいので、化粧は軽く。チークをつけて血色をよく見せ、唇には色つきのリップを塗ってぷるぷる。



 中性的、という意見が通ったのは、服装だけだった。美しい……! 人とは、男女問わず美しいものは愛でたいものなのだ。



 対する私はどうだろう。少しだけ化粧をしてもらったが、ユズキさんのような儚げな美人とは言いがたい。子供が頑張ってお化粧してみました! って感じ。



 くそう、この童顔が憎い。ふて腐れたシーヴァと共に街へ出る。活気溢れた以前の街を想像していたら、まるで人がごっそりいなくなってしまったかのように、街は静まり返っていた。一体、なにがあったというのだろう。これから台風でもくるとか?



 突然、鋭いなにかが飛んでくる。咄嗟に地面を蹴ってふわりと舞い上がり避ける。シーヴァも避けていた。



「あれー? 兄上、なんでそんな可愛い格好してるのさ」

「……!? お前、ジークか!」

「ひどいや兄上……。女なんか連れて歩くなんて。今すぐそんな女、八つ裂きにしてあげるよ」



 シーヴァを兄上と呼ぶのは、シーヴァそっくりの少年。大きな体をした魔物の肩に乗って、顔を歪めて剣を握る。



 魔物の肩を蹴って、上から剣を降り下ろす。紙一重で避けるが、剣は確実に、私の命を刈り取ろうとしてくる。シーヴァから、剣を投げ渡され、キャッチして素早く鞘から抜いて剣と剣がぶつかり合う。



 見た目は少年でも、やっぱり男。単純な力比べでは勝てない。地面を蹴って、後ろに下がって距離をとる。



「兄上の隣を歩く女なんて……認めない!」



 私に向かってくる自分そっくりの相手に、シーヴァが叫ぶ。



「ジーク! いい加減にしないと……嫌いになるぞ!」

「そ、そんなぁ! 兄上は……そんなにこの女が好きなの?」

「その通りだ。それから……どうして街に魔物がいるのか、じっくりと説明してもらおうか」



 なんだかよくわからないやり取りをして、ジークという少年はしょんぼりしながら剣を鞘に収めた。シーヴァ……ジーヴが、珍しく怖い顔をしてジークを連れていく。魔物もついてくる。流石にこのまま一人で街を探索するわけにもいかないので、一旦船に戻ることになった。なんなの、一体……。

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