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五話

 それにしても、アイツ何しに行列引き連れてわざわざ街にきたわけ? もしかして、異世界人の私と京がいるのがわかって挑発するためだけにきたとか? だとしたら相当な暇人……。



 そういえば、魔王って普段何してる人なんだろう。物語では大抵、勇者側からの視点が殆んど。魔王の仕事には、少しだけ興味があったけど、魔王がアイツなら聞く気が失せるね。うん、どうでもいいや。



 申し訳なさそうに目を伏せる京の手を握り返し、私は慣れなくてぎこちない笑みを浮かべる。



「私は大丈夫だから。それより、アイツが魔王で間違いないんだよね?」


 

 こくり、と黙ってうなずく京。よし、目指すはふんぞり返る魔王をぶちのめすことね! ええと、確かさっき京が魔法がどーたら言ってたっけ。今のところ、私に魔法が使えるとは思えない。じゃあ、まずは魔法が使えるようになるところから始めるのかな。



「ねぇ、京。魔法って、どんなもの?」



 さりげなく握っていた手をするりと離され、握りっぱなしだったことに気づく。京は、いつものようにキラリと銀縁眼鏡を光らせて答える。



「魔法とは、もって生まれてくるものです。なので、本来この世界の住人ではないこより様は魔法が使えません」



 キッパリと言い切られ、少し期待していた心がポッキリ折れそうになる。ふぅん、じゃあこちらの世界の人達は魔法が使えるのかー。いいなぁ。私も異世界にきたからには使ってみたかった……なんて考えていると、更に京は続ける。



「ですが、こより様にはーーこちらの住人、ユズキ様の血が流れています。ですので、訓練すれば使えるようにはなるかと」



 ユズキ様というのは、私の母親のことだろう。悔しい、母親がこちらの世界の住人だったお陰で憧れの魔法が使えるかもしれないなんて。訓練かぁ。どんなことするんだろう? そもそも、どこで誰に習うの? 京は、私の疑問にすらすらと答えてくれる。なんて察しのいい子。



「知り合いがおりますので、案内します」



 知り合いって、京の? 聞きたかったけど、聞いてはいけない気がして止めた。何だか、京は色々とこちらの世界と密接な気がする。あの偉そうな魔王とも顔見知りみたいだった。私の母親のことも、よく知っているようだ。何とも、不思議な人間。


 

 案内された場所は、道場だった。空手とか剣道とかやってそうな感じの。中から張り切ったかけ声は聞こえてこないから違うんだろうけど。道場の入り口から京が中の人に声をかける。奥から出てきたのは、豊かな胸にさらしを巻き、ジーパンを履いただけの、露出過多な美女。



 おへそとか思いっきり出てるし。健康的に焼けた小麦色の肌。茶髪はポニーテールにして纏めてある。腰に手をあて、京を見下ろす眼光は鋭い。何か、怒ってる……? それより、街の人を見て思ったけど、異世界って言っても、現実世界と大して服装が変わらない! 期待していたのと、違う!



「キヨ! あんた、どこほっつき歩いてたかと思えば……。そちらのお嬢さんは、あっちの人間でしょう。返してきな」


 

 冷たい声色で告げる美女。美人に睨まれると怖いって言うけど、確かにこれだけ睨まれて絶対零度の声色で何か言われたら恐怖を感じる気持ちは理解できる。睨まれながらも、京は苦しそうに顔を歪めて美女に向かって頭を下げる。



「お願いします、稽古をつけてあげてください。ダメなんです、ユズキ様の血が入ってるから、大人になるまでにこちらに連れてこないと……ダメだったんです。与一様とは、違うから」



 何がダメなのかサッパリわからないけど、私も京に見習って頭を下げる。それにしても、どうしてこのタイミングで兄様の名前が? 美女は、盛大にため息をついて、一言。



「上がりな」


 

 と言われる。私がお礼を言うより先に、京がお礼を口にしていた。私も続く。


 

 ついてくるように言われ、上げられたのは道場ではなく、隣接する平屋だった。長い廊下を三人で歩く。障子がいくつも並んでいる。廊下を歩いて何枚目かの障子を美女が乱暴に開ける。スパーン! といい音がして障子が開く。



 やっぱり怒ってる。うちはどちらかと言えば洋風な造りだったので、障子を見るのは初めてだ。異世界にも障子が存在するのか。


 

 畳が敷かれた和室に入るように言われ、クッションを置かれる。美女はあぐらをかいている。ここは、正座するべき……? 少し迷っていると美女が何でもいいからさっさと座れと言ったのでとりあえず座る。畳の匂いが鼻孔をくすぐる。和室に入るなんて、初めて。ちょっとドキドキする。

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