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四十八話

 わ、私の食べるスピードが遅いのか? それとも、アルの食べるスピードが異常なのか? 口元を拭き終えて、アルが私の定食を見る。



「あら、まだ半分? まぁいいわ、アタシ待っててあげる。食べ終えたら、杖のデコレーション一緒に買いにいくわよ」



 ……うん、アルの食べるスピードが異常なんだ。十人中十人がそう答えるに違いない。しかし、上から目線もいいところである。選んでね、とお願いしてくるならまだしも、アルの中ではすでに決定事項になっている。服屋に連れていかれた時もそうだけど、何様のつもりだ。


  

 私の周りには何かと上から目線の人が多い気がする。……気のせい? ま、いっか。さっさと食べてしまおう。別に、アルに合わせているわけじゃない。見られながら食べるのが割りと恥ずかしいからだ。私は、お肉とご飯を口一杯に詰めて水で流し込む。

 


「ごちそうさまでした」



 ふぃー、と一息ついて、お金を払って店から出た。アルに引っ張られて連れてこられたのは、可愛らしい雑貨屋。



 ……この船、本当になんでもあるな! 船の中に雑貨屋って、必要かなぁ? 私、よくわからなくなってきた……。上機嫌なアルに腕を引っ張られて雑貨屋の中へ。



 店内は、ぬいぐるみが棚に並び、色んなところがキラキラしていて眩しい。そしてアルはどこまで私を引っ張っていくんだ。店内の奥に、デコレーションに使うストーンやラメなどが売っているコーナーが。そこまできて、ようやく腕を離してもらえた。



 アルはキラキラピカピカ眩しいデコレーショングッズに、目を輝かせて野太い声できゃあきゃあとはしゃぐ。身長約百九十センチのガタイのいい心は乙女がはしゃぐ姿は、見ていて何だか不思議な気持ちになる。



 思わず半目で見てしまう。そんな私の視線にも気づかず、アルははしゃぎながら色んな商品を手にとっては眺める。



「アタシの杖、地味でしょう? デコりたいんだけど、よくわかんないのよねぇ。こより様はこういうの、得意?」

「こよりでいいよ。こういうの、したことないからなぁ。私もよくわからない」

「あらそうなの。まぁ、適当に買っていって部屋で一緒にデコりましょ」

「ハイハイ、わかったよ」



 この女王様は、人の都合というものが頭の中にないらしい。ま、いいんだけどね。私も丁度暇だし。いい時間潰しになりそう。それに、何かをデコレーションするなんて、今までやったことがないから、ちょっぴり楽しみでもある。



 ストーンやラメ、のりなどを買い揃え、アルの部屋へ。私とジーヴは最上階なんだけど、アルの部屋は階段を三つ降りた階の一人部屋。一人部屋といっても、そこまで狭くはないので二人で作業していても肘がぶつかるとか、そういうのはない。気楽に作業ができて、いい。



「のりとって、のり」

「はいよ」



 買ってきたものをテーブルの上にずらりと並べ、アルは真剣な顔で箸より少し長めの杖をデコレーションしている。最早私は助手。



 あれとってこれとってと言うアルの手に言われたものを乗せるだけの簡単な作業。のりでくっつけている間は、ぼけーっとしている。その間も、アルは真剣そのもの。杖に何か念でも込めているんじゃないかってぐらい。



 二時間ほどで、杖は満足のいく出来に仕上がったようだ。あとは乾かすだけとのことで、私はそろそろジーヴが心配するかなと思ってアルに一声かける。



「それじゃあ私、部屋に戻るね」

「あら、お茶でも飲んでいけばいいのに」

「ジーヴに何も言わずにきちゃったから」

「早く帰んなさい!」



 この豹変っぷりよ。友人への気づかいはどこへ飛んでいった。ハイハーイ、と軽く返事をして部屋を出た。階段をのぼって部屋の前に到着。部屋に入ると、ジーヴがソファに座り本を読んでいた。私が戻ってくるのを、待っていてくれたのか。



「ただいま」

「おかえり。どこか寄っていたのか?」

「うん、アルと一緒にショッピングに」



 穏やかだったジーヴの表情が、一瞬陰った。不思議に思い首をかしげるが、表情が陰ったのはほんの一瞬で、瞬きしたら穏やかな顔に戻っていた。



 なんだろう……何か気分を害するようなこと、言ったかな。あ、もしかしてアルと会ってたこととか? ……そんなわけないよね、だってアルは友人なんだし。



 よくわからないまま、とりあえず隣に座る。ジーヴが、驚いたように一瞬腰を浮かしたけど、すぐにストンとおろす。さっき、私の言ったことで何か気分を害したのなら、私からはあまり話さないほうがいいだろう。そう考えて黙ると、静寂が部屋を包み込む。静かな空気に耐えきれず、先に口を開いたのはジーヴだった。



「……アルと、どこへ?」



 えっ、珍しい。ジーヴが苦手としているアルの話題を自ら振ってくるなんて。私が中途半端に言ったせいかなぁ。だとしたら申し訳ないことしたな。どうにも、私は人の感情を察するのが苦手で仕方がない。

 


「朝ご飯を食べに行った定食屋でたまたま会って、そのまま雑貨屋へ行ったの。アルの杖をデコレーションするために」

「定食屋……ああ、もしかしてまた大食いとか?」

「よくわかったね。メガ盛り天丼を見事完食してたよ。すごいねぇ」



 しみじみと言うと、呆れたようにジーヴが見てくる。



「……驚かないのか」

「うん、ビックリした。見てはいけないものを見ちゃった気分になったね」

「……そうか」

「ジーヴは、朝ご飯ちゃんと食べた? 部屋から出てこないから、私だけ食べに行っちゃったけど……」



 ジーヴは、ふるふると首を横に振った。



「急な仕事が入ってな。もうすぐ昼飯の時間だしまぁいいかなと」

「食べなくていいの? あっ、丁度桃があるから、一緒に食べよ」



 仕事に追われて朝ご飯も食べていないと、倒れてしまうなではと心配になり、ビーちゃんが私用に持ってきてくれた桃の存在を思い出し、そう提案すればジーヴも嬉しそうに笑ってうなずく。



 桃は皮を剥く前に軽く冷水で洗う程度でいいと聞いたので、冷水で洗って果物ナイフで皮を剥き、一口サイズに切る。

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