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四十六話

 低い声で呟かれた言葉に、ほんの少しだけ背筋がヒヤリと冷えた。まるで、ジーヴの執着心が見えたみたいだ。



 本能が告げる。隣に立っているのは、正体の知れぬバケモノだと。それでも私は、ジーヴの手をとる。握った手は、すくに握られる。離さない、と言わんばかりに。私も、強く握り返す。



「あのねジーヴ、聞いてほしい」



 手を握りあったまま、ソファに座り私は話し出す。



 今まで、殺し屋として沢山の人を殺めてきたこと。その人達を綺麗サッパリ忘れて、私一人幸せにはなれないということ。これからは、勝手だけど自分が殺めた人達へ償いをしながら生きていきたいということ。最後にジーヴへ問う。こんな私のこれからに、つき合ってくれますか? と。ジーヴは、勿論だと、うなずいてくれた。



 私は安堵して、気づかなかったんだ。ジーヴが、本当に異常なんだってことに。笑いながら、私は自嘲する。



「勇者なんて、大層なものじゃなかった。私はただの、人を殺せなくなった子供だね」

「俺は、どんなこよりでも構わないぞ。例え過去に人を殺めてきたとしても、すべてを受け入れよう。だから、離れるなよ?」

「勿論だよ。でも、年の差がすごいなぁ」



 ふふふ、と笑う私に、キョトンとした顔のジーヴ。



「だって、ジーヴ百歳越えなんでしょう? 私はまだ成人してすらいないから……」

「ああ、魔物は年をとるのが遅いからな。俺は人間で言うなら、まだ十五歳ぐらいだぞ」

「えっ! 三個も年下!」

「逆に俺はこよりが十八歳なことに驚きたい」



 ジーヴの失礼な言葉は無視するとして。はぁー、魔物と人間じゃあ、生きている世界が全然違うんだ。年のとりかたも違う。姿形も違う。



 ……私、ジーヴをおいて先に死んじゃうのか。嫌だな、私のために泣いてくれるのかなぁ……。そんな風に考えて、私は自分の体が魔物化していることを、すっかり忘れていた。だから、ジーヴの考えていたことにも、全く気づかなかった。



 あっ、そうじゃん。私は仮にも、人間の国では一応、まだ勇者とされている。以前ユズキさんが話してくれたように、同じことを思いついた。ジーヴに言ってみよう、そんで、やれるだけやってみよう。



 勇者こよりは、無事魔王ジーヴを打ち倒した、と。京達の姿を見て、噂を流したら勇者こよりは魔王ジーヴと相討ちになって死んだってことにしよう。うん、我ながら完璧なシナリオ。ふと、人間の国からミルリアに渡る時に、船長が言っていた言葉が頭に浮かんだ。



 ーー大王の奥様も元勇者だからなぁ。こういう運命なのかね。



 あの時は、心底ご勘弁願いたいと思っていたけれど、今となってはその通りですとうなずきたい。やっぱり、先人の言うことはある程度は頭の片隅に置いておくべきだね。過去を振り返りながら、ジーヴに考えたシナリオの内容を話す。



「いい案だ。俺も、勇者こよりと相討ちなら文句あるまい。そうと決まれば、人間の国についたらすぐにビー達を使って噂を広めよう。俺とこよりは、姿を隠したほうがいいな」

「うん、ありがとう。あとね、京と師匠達の姿、少しでいいから見たい!」



 パンッと顔の前で両手を合わせ、お願いする。じっと見つめていると、ジーヴは、不本意だけど仕方がない、といった顔でオッケーを出してくれた。



「……目立たないように、少しだけだぞ」

「ありがとう!」



 やったー! もろ手をあげてはしゃぎたいぐらい嬉しい。京や師匠、道場の子供達、元気かなってずっと考えていたんだよね。何ヵ月ぶりになるんだろう。



 一本ずつ指を折って数えてみると、約八ヶ月が経っていた。これには流石にビックリ。月日が経つのは早いんだなぁ、なんて考えてしまう。城では剣の稽古やら魔法の練習やらで色々忙しかったから、そんなに経っているだなんて、思ってもいなかった。あっという間に過ぎていくものなんだ。



 それにしても、まだ船旅二日か三日ぐらいしか経っていないのに、中々に内容が濃かった。これがあと一週間とちょっと続くのか。船旅が終わる頃には私もアルみたいな鋼のメンタルになってそう。



 断られてもへこたれず、めけずに好きな人を前にすれば肉食系女子と化す。少しは私も見習うべきか。

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