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四十五話

 穏やかな微笑みに、心臓が大きく跳ねた。どうして、不意にこんな優しさを見せるのだろう。私は、ジーヴに嫌な思いもさせただろうし、心配だって沢山かけた。なのに、すべてを許してこうして微笑んでくれる。そんなジーヴの優しさが嬉しくて、心臓が高鳴る。



 ドキドキして、ジーヴの目どころか、顔すらまともに見れない。ドキドキして、パニックになっていたせいだ、こんなことを口走ってしまったのは。きっと、そうに違いない。



「……私、ジーヴにまだ、ちゃんと好きって言ってもらえてない」



 …………たっぷりと、五分ほどお互いの間に流れる沈黙の空気。一度放ってしまった言葉は、今更なかったことにはできず、私の口から、どんどん言葉が吐き出される。



「私、人の気持ちとか、察するのがすごく苦手なの。ジーヴが私に結婚してほしいって言った時だって、正直疑っていた。洗脳術をかけた時だって、私はどうしてジーヴがそんなに私を手元に置きたがるのか、不思議で仕方がなかった。だからお願い、意地悪しないで真面目に答えて」



 何を、何を言っているの、私。ジーヴにすがるような言葉を吐き出す私を、冷静に見つめる私がいる。さっきまでドキドキしてまともに見れなかったジーヴの瞳を真っ直ぐ見つめて、真剣な表情でじっと待つ。



 返事が早く聞きたいような、聞きたくないような、複雑な感情がぐるぐると渦巻く。そんな私を見て、ジーヴは目を丸くして、くしゃりと泣きそうに顔を歪めた。そして、か細い声で言った。



「……ても、いいのか」

「え?」

「言っても、いいのか? こよりは勇者で、俺は魔王。決して、相容れない存在のはず……」 



 苦しそうに、うなるような声で呟くジーヴ。私は、ふるふると首を横に振って大きな声を出していた。



「……っ、いいよ! 言って、お願い。私はもう、勇者でもなければ殺し屋でもない! これだけジーヴと関わって、ジーヴのことーー好きになったら、もう殺せるわけがないっ」



 私の言葉に、ジーヴが目を見開く。そして、そのまま私の腕を引っ張って、強く抱き締めた。ジーヴの腕の中にすっぽりと収まった私は、初めてジーヴの早い鼓動の音を聞く。ドキドキしている……私と同じように、ジーヴもまた、ドキドキしているんだ。



「好きだ、こより。好きなんだ……離れたくない。俺の、妃になってほしい」



 疑っていたことを打ち明けても、ジーヴは優しいままだった。洗脳とか、魔物化とか、色々と方法は強引だった。それでも、ずっと私を想い続けてくれた。それが、何よりも嬉しい。



 ジーヴのことを異常だと言うのなら、ジーヴのことが好きな私だって異常だ。それなら、それで構わない。ジーヴの、ただ一人の相手になれるのならば。私は、腕の中で、何度も何度もうなずいた。



「はい、喜んで……!」



 ジーヴからは見えないだろうからと、笑みを浮かべ、返事をする。ジーヴ、あなたの目の前で笑うには、もう少し時間がかかりそう。まだまだ、私の心の準備ができていないから。笑顔を見られてしまったら、きっと恥ずかしくて死んでしまう。



 私の言葉に、抱き締める力が強くなる。ジーヴの、早い鼓動を感じる。そろそろと、私も両手を背中に回す。最初はそっと、壊れものでも扱うように触れていたが、初めて抱き締めた体はたくましく、すぐに私も力強く抱き締めた。



「ファーストキスで睡眠薬入りのあめ玉を口の中に入れれたのは、流石にショックだったけどな」

「ごめんなさい……。やり直す?」



 からかい半分で見上げるようにジーヴを見れば、噛みつくような勢いでキスが降ってきた。最初こそ噛みつくようなキスだったもの、やがて顔中に優しい口づけが落とされる。わざとなのか、リップ音を立てる。口づけは、やがて首すじまで降りてくる。



 ビックリして、押し返そうと胸板を叩くけど、びくともしない。首すじに、一瞬痛みを感じる。何となく嫌な予感がして、ジーヴが離れたところで鏡を見に行くと、首すじの目立つところに赤いキスマークがくっきり。



「ジーヴ!」

「誘ってきたこよりが悪い。俺は我慢したぞ?」



 しれっとした顔が小憎らしい。もう、これじゃあ、ハイネックの服しか着れない。私の肌が白いからなのか、それともジーヴが濃くつけたなかわからないけれど、キスマークはすごく目立つ。じわじわと、顔が熱くなる。赤面する私を見て、流石に上着でキスマークを隠してくれた。



「ようやく、堕ちてくれた。これでもう、こよりは俺だけのもの」



 額に、優しい口づけが落とされた。

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