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四話

 ーーぇ。ちょっと待って、流石に私の脳味噌の容量越えるから! 察したのか、京は何も言わずにじっと見つめてくる。



 私の母親は、私を生んですぐに家を出ていったと聞かされていた。母親の話をする時父様は決まって寂しそうな顔をするので、子供ながらに聞いてはいけない、触れてはいけないことなのだとわかったのであえて話題に出すこともしなかった。兄様も母親が出ていった時はまだ幼かったので、殆んど記憶に残っていないと言っていた。



 私達兄弟を育てたのは、メイド長を務めている梅子さんだ。梅子さんは、時に厳しく時に優しく、私達兄弟を育ててくれた。感謝してもしきれない。


 

 それはまぁ置いておいて、何で大王の妻が私の母親なの? もしかして、二股? だって大王との間に子供いるのに、何でわざわざ異世界まできて父様の子供生む必要があったの。というか、昔話に出てくるような昔の人……最早人なのかわからないけど。そんな人が私の母親って、おかしい。



 父様も、どうやって異世界の人と知り合ったの? ああ、でも、父様は元カラス。そして、自宅の三階が異世界に繋がっていることを知っている。もしかしたら、父様も異世界にきたことがあるのかも。



「……母様は、私を生んですぐに家を出ていったって、聞いてる。色々おかしくない? だって、初代勇者ってことは相当昔の人でしょ。しかも、初代魔王との子供がいるなら元の世界の父様との間に子供生む必要なんて……ないじゃん」



 思わず、うつ向いて声が小さくなってしまう。



「ユズキ様は、金髪に金色の瞳を持つ、それはそれはお美しいお方。お心の優しい方でもあります。ですので、それは、本人に聞けばよろしいかと」


 

 本人? と顔を上げてみれば、いつのまにやら広場の喧騒はどこにもない。遠くから、大名行列のようなものがやって来るのが見える。え、あれ、もしかしなくても魔王様ご一行とか? ちょっと待ってよ私今色んなこと聞かされて頭の中こんがらがってるっていうのに!


 

 武器を出そうとアームウォーマーの内ポケットを探るが、京に手で止められる。強ばった顔で、京は真っ直ぐ大名行列の一番目立つところにいる少年を見つめる。



 燃えるような赤髪、端整な顔立ちをしながらも、赤みを帯びた冷たい瞳をした少年は、神輿のような椅子に偉そうに足を組んで座っている。大名行列が目の前まできて、止まる。神輿のような椅子からゆったりと降りる少年。そして、京を見下すように見てふっと馬鹿にするように笑う。



 身長差を見ると、京のほうが大きい。でも、少年の態度の大きさで見下されてる感が半端ない。



「お前、まだ母上に捨てられたあの情けない男に仕えているのか」



 その言葉で、すぐに目の前の少年が大王と私の母親との間に生まれた現魔王だとわかった。父様を侮辱されたと理解し、気がつくと少年を蹴り飛ばしていた。



 普段なら首の骨が折れているはずの蹴り。だが、予想外に少年ははるか後方へ吹っ飛ぶ。私の蹴りを受け流すようにわざと自ら後ろに跳んだのだろう。ためらいなくアームウォーマーから取り出したナイフを少年に向かって投げる。折れたナイフの欠片が、地面に突き刺さった。


 

 少年はいつの間にか、剣を握っていた。構わず突っ込む。後ろから、誰の声かわからない制止の声が聞こえたけど、どうでもよかった。高く上げた足に少年が気をとられた隙をついて投げナイフ。少年は、ナイフが飛んでくるのを見越していたかのように剣で叩き落とす。しばらく攻防戦が続き、私の投げたナイフが少年の右足の太ももに刺さったところで、わらわらと少年の従者らしき人が寄ってきたので軽く地面を蹴って高く舞い上がり、そのまま京の横にふわりと降りる。



 靴の特殊加工のお陰か、脚力が倍増されている。元々、私の脚力は常人と比べるとべらぼうに強いらしいので、特殊加工によって更に強くなっている。今なら、空を飛べる気がする。


 

 軽く服のホコリを払う。京が、隣で珍しくオロオロしているのが少しおかしかった。笑えるほどの余裕は、ないけれど。



「いてて、久し振りに痛みを感じたな。そうか、お前がなぁ」


 

 しげしげと男に見つめられる。



「何」

「そんなにトゲトゲするなよ。しばらくしたら迎えを寄越そう。お前も、真実を知りたいだろう?」


 

 挑発するような言い方に思わず蹴りが出そうになるが、京にアームウォーマーの裾を握られているのでそれを振りほどいて蹴りにいくほとではなかった。それにしても、あれだけやり合って息が全く乱れていない少年が憎らしい。こっちは流石に少し息が乱れているというのに。


 

 大名行列は、少年を椅子に乗せると瞬く間に去って行った。隣にいた京が、珍しく安堵のため息をつく。



「無茶しないでください、こより様。あれはああ見えても百歳を越える魔王です。魔法を使われたらたまったもんじゃありませんよ」


 

 今ごろミンチです、と付け足す京のほうが顔色が悪かった。



 少年の姿が見えなくなってすぐ、私の中の憤りは収まっていた。代わりに、京の手を握る。一瞬、ピクリと京の肩が跳ねたので、嫌だっただろうかと慌てて離したけど、今度は京から握られたので嫌ではないのだとわかる。あの少年の実年齢とか、魔法とか、今はどうでもいい。



「ごめんね」

「いいえ、謝るのは私のほうです。いきなり、隠してきたことを一気に話せば……こより様が混乱することぐらい、想定するべきでした」


 

 ビックリしたのも、混乱したのも事実。だけど、私があの少年を攻撃したのは、家族を馬鹿にされたからなんだよ、京。アイツ……今ごろお城の王座にふんぞり返っているのかな。すごく想像できる。短時間しか関わってないのに、アイツが偉そうな奴ってのはよく理解できた。

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