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三十九話

 ずい、とジーヴが身を乗り出す。一応、二、五メートル分離したので、それほど顔が近いとは感じない。それでも、身の危険を感じた体が、若干腰を浮かせた。



「何もされなかったか?」

「うん。オカマさん、ストレート一気してべろんべろんに酔っぱらっていたし」

「そうか……。あいつは、一応、俺の妃候補の一人だったんだ。しつこい奴でな」



 いやぁ、一切反応しない部屋の扉を五十回以上ノックし続けるジーヴのしつこさには負けますって。並みのストーカーは勝てませんよ。ていうか、オカマでも妃候補になれるのか、許容範囲広すぎないか。何もされないと判断して、浮かせた腰をおろす。



「時には風呂場へ入ってきて背中を流そうとしたり、時にはトイレの天井に張り付いていたり……」



 割りと深刻そうな顔で打ち明けるジーヴ。ちょ、ちょっと待とうか、ジーヴ。それ、警察の出番だったよ……。



 魔王城に警察の一人や二人……いいや、十人ぐらいはいないの? 仮にも魔王の住むお城ですよ? 魔王様の入浴タイムを邪魔するどころか、トイレの時間という、生物が生きるにあたって、一番大事な時間まで邪魔されているんだよ。



 しかも、天井に張り付くとか、あのオカマさんの身体能力にビックリだわ。でも、想像はしたくはないかなー、トイレの天井に張り付いてジーヴを爛々とした目で待ち構える、見た目だけ白馬の王子様なんて。



 そんな変態さんに私は勝負を挑まれたのか。色々とちょっと勝てる気がしない。なんか、強そう。主にメンタル面が。何度拒まれてもめげないその鋼のようなメンタル、強い、強すぎる。



「あいつとは関わりたくないから、こよりも関わるなよ」

「そんな変態さんだと知っていたら、見た目だけでもカッコいいとか思わなかったのに……」



 ポツリと漏れた私の呟きに、ジーヴが目を剥く。ソファから腰を浮かせ、食いぎみに聞いてくる。私は、ビックリして椅子ごと数センチ後退した。そんなことを気にもかけず、ジーヴは危機迫った顔で私に質問をぶつける。



「見た目だけでもカッコいいって思ったのか!? お、俺にはないあの身長とか? も、もしかしてこよりは長い髪のほうが好みーー」

「あー、違うから! いい? 女の子のキャーカワイイ! とキャーカッコいい! は口ぐせみたいなものだから、一々気にしなくていいの!」

「そ、そうなのか……」



 ほっと安堵したように、ソファに腰をおろすジーヴは、普段の偉そうで俺様な奴とは思えない。なんで私が、わざわざフォローをしなくちゃならんのだ。わけがわからない。



 しかし、ジーヴ、意外と自分の身長の低さ、気にしていたのね。やっぱり、男の子だからかなぁ。あと、偉そうに女心を語ってみたものの、ぶっちゃけ私にも女の子の言うキャーカワイイ! とキャーカッコいい! はよくわからない。同じ性別を持って生まれたはずなのに、なぜだ。



 話も終わったことだし、私はそろそろ寝たい。そんな雰囲気を珍しく察したジーヴが、ソファから腰をあげる。そして、立ったままじっと私の瞳を見つめる。



 ジーヴの瞳の奧は、これまた珍しく不安そうに、泣きそうに、ゆらゆらと揺れていた。そんな目をされてしまうと、とっとと部屋から出ていけとは言えない。いつもの、自信満々な目はどうしたっていうの。



 恐る恐るジーヴに近づく。そしてそのままーー頭を撫でる。なんで自分がこんなことをしているのか、サッパリわからない。ただ、自然と体が動いたのだ。



 ジーヴは、黙ってされるがまま。髪の毛をすくように撫でれば、さらさらの髪の毛が、指の間を通る。それがなんだか心地よくて、しばらくの間、黙ってジーヴの頭を撫でていた。しかし、微妙に私より背の高いジーヴの頭を撫で続けると腕が疲れてきたので、十分ほどで止めた。



「……ありがとう、こより」



 くしゃりと、幼い子供を思わせる笑みを浮かべた。その笑顔は今にも泣きそうで、もう一度手が伸びかけたが、我慢する。ジーヴは、魔王なのだ。その事実が、私の伸ばしかけた手を止めるには充分だった。

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