三十五話
久しぶりに会った船長達やゼフィーくんは、元気そうだった。船長は、相変わらずサボりぐせがあるようで、私とジーヴがきた時は大慌てで出迎えてくれた。
今回は、私もジーヴの乗る豪華客船のようだ。近くで見ると、やっぱり大きい。見上げていると、首が痛くなる。飼い主を見上げる小型犬って、こんな気持ちなのかもしれない。自分でも、よくわからない感想を抱く。なんだ、小型犬の気持ちって。
豪華客船のほうには、船長達は勿論だけど、ゼフィーくんも乗れないそうだ。私の旅のオアシスが……残念。少しガッカリしながらも、豪華客船に乗り込む。
この船は、普段は船つき場で、貴族の集まりに使われているんだとか。だから、中に入ってみると騒がしいことこの上ない。貴族は物静かで優雅なものだと思っていた時期が、私にもありました……。
実際は、きらびやかなお茶会も、腹の探り合いである。黒い、色々と黒い! 見た目も黒けりゃ腹の中も黒いってか。
貴族の令嬢達は、ジーヴの姿を見ては、うっとりとした顔でため息を漏らしている。当然、その目にちまっこい私などは映っていない。いや、いいんだけどね、別に。
ジーヴの部屋の、すぐ隣が私の部屋になった。船の中に、部屋があるよ……! しかも、高級ホテルのスイートルーム並みに豪華。ベッドは大きいし、ふかふかだし、冷蔵庫みたいな魔道具も置いてあるし、お風呂、トイレつきだし。至れり尽くせりじゃないですか。従者用の船とは、何から何まで違う。
「あまりはしゃいで船の中を一人で歩き回るなよ。部屋を出る時は護衛をつけろ、いいな」
これは、船つき場に向かう途中の、馬車の中でも散々言われたことだったので、はいはいと適当に聞き流す。何で私の周りって、くどくど同じ話しかしない、小姑みたいな男しか集まらないんだろう?
はっ、もしかして、そういう雰囲気を私がかもし出しているとか……? えー、なにそれヤダ。
ジーヴが高いところが好きとのことで、一番上の階の部屋。煙となんとかは高いところが好きってな。口が裂けても言えないけど。流石に失礼すぎる。
窓のカーテンを開ければ、暗雲が普段より近くに感じる。爽やかな青空が見れるのは、あと数日後。楽しみだなぁ。普段から見慣れている暗雲を、豪華客船に乗ってまで眺めるつもりはないので、一旦窓のカーテンを閉める。
馬車で痛くなったお尻を休めるため、食事までしばらく寝ることにする。ふかふかのベッドが、柔らかく私を包み込んでくれる。いつのまにやら、こんな自堕落な生活を送るように……。
ま、いっか。今は、十日間の船旅を楽しもう。せっかくの、豪華客船だし。ふふふ、食事はどんなものが出るのかなぁ、色んなことが楽しみで仕方がない。布団をかぶって、眠りにつく。
一時間ほど寝て起きると、すっかりお尻の痛みは消えていた。よし、体力も回復したところだし、今度は船の中を探検だ! 食事までは、まだまだ時間かまあるし。
探検には、危険が常に付きまとうもの。つまり、それらを最初から排除しては、それはもう探検とは呼べない。と、いうわけで! 置き手紙をテーブルの上に残し、護衛を気絶させて、心の中で謝りながら私は探検へと出た。
あらかじめ、貴族の娘が着るようなふりふりのドレスを着てきたので、腹の中を探り合っている貴族に見事溶け込んでいるに違いない……。ふっ、我ながら完璧。
なるべく目立たないように、隅っこの椅子に座る。そして、聞き耳をたてる。三十分ぐらいそうしてた、流石に飽きた。椅子から立ち上がり、そさくさとお茶会を抜け出す。それにしても、後をつけられているなぁ。バレないとでも思ってるのか。ま、人目の多い場所にいれば平気でしょ。
次はどこへ行こうかなぁ。そうだ、確か屋上にプールがあるって聞いたような……。行ってみよう。しかし、プールでこのドレスは目立つ。私はトイレに入って、ドレスを脱いで、折り畳んで持っていたバッグを広げてドレスをしまう。
しわくちゃになるかな……ま、いいや。気にせず、屋上へ向かう。ちなみに、ドレスの下には、半袖のTシャツとショートパンツを履いてきている。これなら、プールでも浮かないだろう。なんてこと、完璧過ぎるわ、私。
プールでは、子供達がきゃあきゃあ言いながらはしゃいでいた。楽しそうだねぇ。魔物も人間も、子供とはプールではしゃぐ生き物なのね。ぼんやりと眺めていると、道場の子供達を思い出す。元気かなー、皆。とってもいい子達だったから、元気にしてるといいけど。




