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三十四話

 部屋に戻って、続きが気になって気になって仕方がなかった本を開いても、ぼんやりして内容が頭に入ってこない。目が字を追ってくれないので、読書は諦めることにした。



 本を閉じて、サイドテーブルの上に置く。頭の中を占めるのは、ジーヴのこと。ターゲットのことを、こんなに考えたことはなかった。これではまるで、恋する乙女ではないか。



 ……魔王ぶちのめしにわざわざ異世界からきた勇者だけど、なんかよくわからないけど魔王に恋しちゃったぜ! とか、なんだそれ、笑えない。魔王を恨んでいる人間の国の人達にフルボッコされても、文句言えない。



 前に惑わされるなって言っていたの、誰だったっけー、あっはっは。……乾いた笑いしか出てこないよ。そもそも、これは恋なのか? 吊り橋効果的なあれじゃないのか? 吊り橋を一緒に渡るどころか、危ない場面をジーヴと一緒にいた記憶は欠片もないけれど。じゃあ、違うか。



 一人、部屋でうーうー言いながら頭を抱える。どうしてこうなった。そもそも、あれだよ。魔王城にきた時点で、勇者としてどうなのよって話よ。



 でも、あの時はジーヴについていくことが最善の策だと思ったんだよなぁ。いつのまにか、ほだされてしまったけれど。はてさて、どうしたものか。とりあえず、京のこともあるし、一時的でいいから、師匠の元へ行きたい。よし、そうと決まればジーヴに言ってみよう。



「無理だな」

「何で」



 執務室で、仕事の書類をめくるジーヴと向かい合っていた。私が抗議の声をあげると、予想だにしていなかった言葉が飛び出てくる。



「こよりの体は、殆んど魔物化している。カンカン照りの太陽の下に出たら、ぶっ倒れること間違いなしだな」



 体が、魔物、化ぁ……? いやいやいや、ちょっと待って、落ち着け私。



 反射的にジーヴの胸ぐらをつかもうとして、体は半分机に乗り上げているけど、落ち着け。



 以前、ジーヴによって地下室に監禁されていた時は、薬によって魔物化されていた。それを、コンクリートを固める前みたいなすごくまずい液体を飲んで、元に戻した。戻った、はず。訝しむようにジーヴを見つめる。ニヤリと、悪どい笑みを浮かべてしれっと言う。



「こより、お前ここにきて、俺と同じものしか食べていないだろう。おまけに、しばらく日の光りを浴びていない。更に、闇魔法を多少なりとも使えるようになった……。闇魔法が使えるようになれば、邪気にも耐えられると、聞かなかったか?」

「……聞いた」

「それは、体が魔物化するからだ。魔物と同じ食事をとり、魔物と同じ生活を送る。これだけでも充分だったんだがな。念には念を、と」



 私は絶句した。な、な、なんという……。すぺては仕組まれていたのか。計画通り、ということか! 全く気づかなかったなんて、マヌケにもほどがある。太陽の下を歩けないんじゃあ、京や師匠、子供達にも会いにいけない。



 あ、でも……見た目の変化は、一切ない。人間に扮して生活できる人型の魔物がいるなら、大丈夫なんじゃ……。イケる、イケるぞ。大体、してやったりな顔で言うジーヴだって、堂々と太陽の下で私と戦ったじゃん。何を言う。



「ふ、ふーん、無駄だもんね。人型の魔物なら普通に人間に紛れて暮らせるって、師匠が言ってたもの」



 動揺を悟られないように、どやぁ、とない胸を張る。余裕顔のジーヴが、珍しくたじろぐ。



「だ、だが、俺の命令なしでは船は出ないぞ」

「別にいいよ、脅して出してもらうから。ジーヴがオッケー出して、ついてきてくれるのが、一番安全だと思うなぁ」



 そう畳み掛ければ、ジーヴは言葉を詰まらせる。しばし沈黙したのち、すっごい嫌そうな顔でオッケーを出してくれた。いえーい、してやったり! いつまでもやられっぱなしと思うなよ、ジーヴ。



「言っとくが、俺もついていくぞ」

「わかってるよ」



 るんるん気分の私は、大事なことを忘れていた。ーーそう、私の体が魔物化している、ということ。そんなこと、すっかり頭の中から放り出していた私は、いそいそと部屋に戻り仕度を始める。



 ここから、京達のいる街までは、空飛ぶ船で、十日ほどかかる。着替えも何着か必要だろう。まるで、遠足に行く前の子供のように、浮き足立っていた。



 ビーちゃんから、旅行に使う大きめのバッグをもらい、着替えやらなんやら色々詰めていく。パンパンに膨らみ、ずっしりと重たいバッグを見て、こんなに着替えいらなかったかも、と思うが、まぁ、あって困ることはないし。と、納得させる。



 その後、部屋にジーヴがきて、パンパンに膨らんだバッグを見て一言。



「遠足じゃないぞ。修学旅行でもーー」 

「わかってる! 自分でも、ちょっと……いや、結構多かったなって思ってるから、わざわざ突っ込まないで!」



 恥ずかしかったので、逆ギレである。

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