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三十二話

 もぞもぞしながら、ベッドの上を這う。考え事のせいで、中々寝つけなかったし、何度か目が覚めた。お陰で寝不足。



 昨日、ふと考えてしまった。ここまで関わったジーヴを、私は殺せるのか。今まで、人と関わってこなかったのは、私が逃げていたからなのかもしれない。兄様のように、深く関わったら、殺せなくなる。心のどこかで、そういう危機感を感じたから、あえて私は人との関わりを避けていたのかも。



 ……兄様は落ちぶれたんじゃなくて、人間味のある人間になっただけなんだ。でも、きっと苦しい。だって、人間味のある人間になって、殺しを止めても……今まで自分の手で殺めてきた人達は、生き返ったりしない。



 今更だね、今更だ。気づいたところで、何にもなりゃしない。自嘲するように、小さなため息がこぼれた。







 辺りが闇に包まれ、中身入りの缶に狙いを定め、イメージする。缶が潰れて、くしゃくしゃになるイメージ……。深呼吸をして、しっかりと缶を見つめる。



 ゆったりと、缶がへこんでいく。缶から中身が飛び出したところで、リリィさんに止められる。朝の訓練の真っ最中である。ようやく、中身入りの缶が潰せるまで魔法を使えるようになった。



 潰れた缶を持ち上げる。本当に自分の魔法でやったのかと思わず疑ってしまうほど、ベッコベコ。だって、一切手を触れずに缶を潰すとか、どこのインチキペテン師だよって感じ。



「慣れないうちは、魔法を使うと疲れるでしょう?」

「はい、物凄く……」



 私の、ぐったりとした言葉に、リリィさんが苦笑い。



「変に力が入るから、疲れるの。慣れれば、缶を潰す程度なら軽くできるようになるわ」



 私の、カメの歩みよりも遅い魔法は、一体あとどれほどの年月を費やせば、軽くできるようになるんですかね……。時間ではない、年月、だ。遠い目をする私を見て、リリィさんが慌ててフォローしてくれる。



「大丈夫よ、最初の頃と比べたら、随分上達したもの」

「ありがとうございます」



 フォローしてもらったのに、私は笑みの一つも返せやしない。それほど、疲れはてていた。ふらふらしている私を見て、リリィさんが訓練を早めに切り上げた。



 汗はそれほどかいていないので、シャワーは浴びず、着替えるだけにした。部屋着はもっぱら、簡素な白のワンピースである。飾り気がないのが気に入っている。



 時計を見て、朝食の時間だなーと考える。本当なら、部屋の外を出歩ける格好に着替えるべきなんだけど、ダルいし面倒だし、たまには部屋で食事とってもいいんじゃない? とか思えてきた。だって、アーンの一件があって以降、益々メイドの睨みが激しいんだよ。睨みで殺されそうなんだよ。流石に怖いよ。



 そんなことを考えながら、ベッドの上でうだうだする。すると、ノックの音が。うげ、迎えがきたよ……。ここは、寝たフリをしよう。



 控えめなノックが、間隔をあけて二回、三回、四回、五回……。十九回まで数えたところで、いい加減嫌になって、のろのろと扉を開ける。そこには、特に変わった様子もなく、ビーちゃんが立っていた。二十回近くストーカー並みにノックし続けたとは思えない。



「少し見ない間に、やつれましたか? こより様」

「うん、ちょっとね……。それで?」

「お食事の時間ですよ。魔王様が待っていらっしゃるので、早く着替えてください」



 そう言って、静かに閉められる扉。これでまた寝たフリしたら、今度は倍の数ノックされそう。



 大人しく着替えた。白の、ノースリーブスワンピースである。こちらは、部屋着のワンピースと違って、ビジューが、胸元にあしらってある。



 クローゼットの中の服は、全部私の体に合わせて作られた、特注品。つまり、お高いのだ。しかも、肌が白い私には白色が似合うという、ジーヴの希望から、クローゼットに入っている服の約半分の服が白色。食事中、どれだけ気を使うか……!



 髪の毛にクシを通す。王族が使うシャンプーなだけあって、髪の毛はさらさらの艶々。クシを通す必要もないぐらい。



 姿見の前で、くるりと一回転して、部屋を出る。相変わらずホラー映画仕様の長い廊下を歩く。この、チカチカする電気……直さないのかな。この頼りない電気が消えたら、廊下本当に真っ暗だよ。

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