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二十九話

 この世界にきて六ヶ月。半年が過ぎた。部屋のカレンダーをめくり、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てながら、しみじみと考える。



 しかも、その半分以上の月日をターゲットの根城で過ごしているのだから、お前ホントに魔王倒す気あんのかと突っ込まれても、仕方がないと思う。しかし、しかしだ、私も私なりに日々魔王の命はちゃんと狙っているのだ。魔物だらけの完全アウェイな状況にもめげず、これでも頑張っているのだ! 誰か私を褒めてくれ!



 最近の変化と言えば、木刀の素振りから、ちゃんとした剣の素振りに変わったこと。剣は、見た目以上に重く、片手で軽々と振り回している魔王が信じられない。



 百回も素振りをすれば、あっという間に手にマメができて、潰れる。これがまた、お風呂で地味にしみる。しかし、マメが潰れても、剣の柄を握り素振りを続ける。流石に、血まみれの手から剣がすっぽ抜けた時は止められたが。



 すっかり魔王城での生活に馴染んだ私の前に、クロエお姉さんが姿を現すことがなくなった。心の中で呼びかけても、一切の反応がない。気配は感じるから、意図的に無視しているのだろう。魔王城に馴染んだ私に、呆れてしまったのかもしれない。



「こより様、魔王様がお呼びです」

「何の用で?」

「ウェディングドレスについて、です」

「面倒くさい、パス。第一、何度でも言うけど私は妃になるつもりなんてーー」

「こより様がこないなら、俺の独断で決める、と」

「すぐ行く!」



 寝転がっていたベッドから、転げ落ちるようにおりて、大慌てで魔王の部屋にビーちゃんと一緒に向かう。ノックすると、中から嬉しそうな魔王の声が。



 入れば、魔王の部屋に置いてある大きな木製の机の上一杯に、ウェディングドレスのカタログが並べてある。ひらひらふりふりのウェディングドレスの写真が眩しい。



 白、薄いピンク、黒に、赤。黒を除けば、一般的なウェディングドレスばかり。なぜ黒色が入っているかと言えば、褐色の肌をした魔物には、白や薄いピンクなどの色はあまり好まれないそうだ。



 黒色と言えば、どうしても葬式が浮かんでしまうので、黒色は絶対嫌だ。って、違う違う。私は好みのウェディングドレスを選びにきたわけじゃない。



「私、妃になるのはお断りだと、言ったよね?」

「こよりは母上に似て肌が白いからな、やはり白色か、薄いピンクのドレスが映えそうだな」



 人の話を聞け。



「何度でも言うけど、私の目的はジーヴを殺すことなの。ジーヴのお嫁になる予定なんてないから!」



 もう二つほど、変わったことと言えば、魔王ーージーヴのことを名前、しかも呼び捨てで呼ぶようになったこと。それから、ため口を使うようになったこと。

 


 これは、どちらもジーヴからお願いされたこと。当たり前だけど、最初は突っぱねていた私も、何度もお願いしてきて、最終的には土下座する勢いで頭を下げてお願いするものだから、周りの目に耐えきれず了承したのだ。



「なんだ、まだ覚悟が決まらないのか?」

「そういう問題じゃなくてねぇ……」



 ダメだ、話が通じない。宇宙人とか、電波系の人と話している気分になる。どちらも、幸いなことに今までは遭遇したことがなかった。まさか、異世界で遭遇するとはね……。



 しかも、私の目的の部分は聞こえなかったのか、聞こえないフリなのか、何も言わない。スルーされた。頭が痛い。こめかみのあたりを押さえれば、ジーヴが心配そうな顔になる。



「どうした? 頭が痛いのか?」



 誰のせいなんでしょうね~! 思わず、そう叫びたくなった。ぐっと耐える。熱くなるな、もっとクールにいこうじゃないか。こんな宇宙人相手に熱くなっても、意味がない。ただ、私の体力とか気力とかがガリガリ削られるだけだ。



 ふぅ、と息を吐き出す。人はこれを、ため息とも言う。ジーヴは宇宙人、じゃがいも。要するに、話が通じるなどと、最初から期待しなければいいのだ。人生、何事も諦めが肝心。



「ハイハイ、わかったわかった。わかりました。ウェディングドレス、選ぼうじゃないの」



 数時間後には、乙女趣味が丸出しで、何百種類もあるウェディングドレスの写真を見て、あーでもないこーでもないと言い出す私に疲れるのはジーヴのほうだった。

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