二十七話
残酷描写あり。
苦手な方はここで戻ってください。
シャルルの両手にしっかりと握られた金づちが、またも降り下ろされる。地面を蹴って避ける。
そのまま、塀の上にふわりと降りた。シャルルは、ニコニコと微笑みを浮かべている。巨大な金づちで人の頭かち割ろうとしているようには、とてもじゃないが、見えない。
流石に、自分の背丈ほどある金づちを振り回すのは疲れるようで、肩で息をしている。ほんのり赤く染まった頬に、額に浮かぶ汗。ふりふりのドレス着てて、よく巨大金づち振り回せるなぁ、と関心する。
「私、学びましたの。殿方は、鬼の形相の女性より、花のような笑みを浮かべる女性を選ぶって。だから、私は笑いますのよ」
あ、船での鬼の形相、指摘されたのね。でも、花のような笑みを浮かべながら人を殺そうとしてくるほうが、怖いんですけど。
シャルルは、ニコニコしながら地面にめり込んだ金づちを、持ち上げる。だが、その足は生まれたての小鹿のように、プルプルと震えている。怪力はあれど、体力はそれほどでもないって感じだね。
思いっきり命を狙われているし、正当防衛ってことで! 魔王からの言伝でもあったし、命を狙ってきたら殺しても構わないってね。
塀の上からふわりと飛んで、シャルルが持ち上げた金づちの上に乗る。そのまま、蹴りを顔面めがけて叩き込む。ヒットするが、魔物の骨は頑丈なのか、不安定な場所で足を踏ん張れなかったせいか、折れるほどにはいかなかった。それでも、シャルルは金づちの柄から手を離して倒れこむ。
金づちは、地面にめり込む勢いで落ちる。落ちる前に、金づちから離れた。ひらひらふりふりのドレス着るようなお嬢様に、こんな物騒なもの、渡すなや。誰だ、渡した奴は。
シャルルの従者のリスうさぎさんが頭に浮かぶ。アームウォーマーの内ポケットから、ナイフを取り出ししっかりと握って、地面に倒れているシャルルに向かっていく。
「ふ、ふふ、うふふ。私、諦めません。妃候補を三人、この手で殺しましたの。その実力を、魔王様に認めてもらった。のに……」
ぶつぶつとなんか怖いことを言いながら、ゆらりとシャルルが立ち上がる。それ、戦闘能力が認められたのであって、妃として認められたわけじゃないのでは? なんて不粋なことは突っ込んだりしない。私は、とても空気が読める人間なのだ。シャルルは、懐からナイフを取り出し、同じように向かってくる。
ナイフとナイフがぶつかり合う。少しずつ、少しずつ後ろへ押されていく。何、この馬鹿力……! どうりであんな金づちが振り回せるわけだよ。力では勝てそうにないので、シャルルの腹を軽く蹴って距離を作る。
「なぜ、あなたごときが選ばれたのです? ねぇ、教えてくださいませ……!」
「知りませんよ、城に乗り込んで本人に直接聞いたらいかがですか? 私は巻き込まれっぱなしで、いい加減イライラしているんで」
若干トゲを含ませた私の言葉を聞いても、シャルルは怯むことはない。それどころか、益々闘志が燃えている。嫌だ嫌だ、こういう暑苦しい奴。恋に燃えるなら、他でやっとくれ。私を巻き込むな。大変迷惑な話である。
ナイフを握ったまま、地面を軽く蹴って、片足で壁を蹴って、もう片方の足で反対側の壁を蹴って、狭い路地裏の地形を生かしてスピードを作ってから、シャルルに飛びかかって馬乗りになる。
もがくシャルルの胸を素早く一突き。じわじわと、シャルルの白いドレスが、赤く染まっていく。しかし、シャルルはまだ弱々しい力でもがく。
心臓を刺したはずなのに、おかしいなぁ、と首をかしげる。もしかして、魔物と人間では心臓の位置が違うとか? だとしたら、申し訳なかった。魔物の心臓の位置がわからないので、とりあえず首の骨を折れば死ぬだろうと思い、立ち上がって、シャルルの頭を思いっきり蹴飛ばす。
骨が折れる鈍い音と共に、シャルルの体が動かなくなる。そおっと近づき、ちゃんと絶命しているか確認してから路地裏を出る。それにしても、魔物の頭って硬い。脚力が増幅されている私の蹴りなら、頭が粉砕していてもおかしくないのに。
通りに出ると、やっぱり目立つなぁ。不躾に向けられる視線を受けながら、考える。シャルルの死体が発見された時、魔王のところにいたほうが安全かもしれない、と思った。よし、戻るか。不本意だけどね。




