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二十四話

 仕事終わりの魔王が、嬉しそうに頬を緩ませてやってくる。クロエお姉さんは、魔王の姿を見るだけで不愉快になるそうなので、引っ込んでいる。



 稽古中、魔王の頬は緩みっぱなしだったが、コッソリ喉元めがけてナイフを投げれば、軽く避けられ稽古に集中しろと注意を受けた。チッ、ちゃんと気を張っているのか。今は、木刀で素振りの最中。



「そういえば、何で仕事中は片言なんだ? あと、何でカラスなんだ」

「下手なことを言わないようにするため、です。今は仮にも師匠なので、普通に話しますが。カラスは、家の代表の名前です。私が受け継いだので、仕事中はカラスと名乗っています」


 

 ふぅん、と相槌を打つ魔王。それから、ニヤリと意地悪そうに笑う。



「俺をジーヴと呼んでくれた時は可愛気があったものを」



 コイツ……! 私に洗脳術をかけたこと、まったく反省していない。何が悪かったと思ってるーっだ! ニヤニヤしやがって、踵落としでその顔面潰したろか。私、全然記憶にないから別にいいけどさ。


 

 心の中で毒を吐く。


 

 覚えてなくて、本当によかったと思う。魔王が嬉しそうに話す、洗脳にかけられていた時の私は、素直で喜怒哀楽がとてもわかりやすかったそうな。



 そんな自分、想像できないし、したくもない。ターゲットの前でへらへら笑っていたとか……無理無理無理、鳥肌が立つ。寒くもないのに、背中がゾワゾワする。私らしくない。そんな私、気持ち悪い。



「で、何で素振りなんです?」



 木刀で素振りだなんて、中学生男子じゃあるまいし。そういえばいたなぁ、お土産のお金の殆んどを木刀に費やして、大はしゃぎしてたアホな男子。



「ん? そりゃあ、剣を握る前には木刀と決まっているだろう」



 当然だ、と言わんばりの魔王。知らんがな。私は異世界人だ、剣と魔法のファンタジーな世界の常識なんぞ、知るか。そんなことを考えていることはおくびにも出さず、ブンブンと無言で素振りを続ける。



 剣……剣かぁ。握るのか、私。刃物と言えば、ナイフか包丁、ハサミぐらいしか、握ったことがない。ちなみに、ナイフ以外は戦いで使ったことさえない。



 そんな私が、剣振り回しちゃうのか。すごい、ファンタジーっぽい。これに魔法まで加わるんだよ、信じられるか……? 本の中に入った気分。ちょくちょく異世界感感じていたけど、ここまでハッキリとこの世界は、私のいた世界とは違うんだって実感したのは初めてかもしれない。



「しばらくの間は、素振りを千回、一日二回、朝と夜にやってもらう」


 

 なんだそれ。腕だけマッチョにする気かこのやろう。しかも、一日中暗いから、朝がわからん。魔物しかいないからか、ミルリアにきてから、朝日というものを浴びた記憶がない。魔物は日の光りでも浴びたら、死んでしまうとでも言うのか。



「素振りの時間になったら、ビーを部屋まで迎えに寄越すから」

「わかりました」

「俺が仕事の時は、部下をつける。今日はもうしまいだ。腹が減った、飯を食うぞ」


 

 無言でうなずき、自由だなぁと思いながら魔王のあとを追って城へ戻る。



 私は、魔王にあてられた部屋で着替えを済ませ、いつも食事をとっている部屋へ向かう。武器を仕込んだアームウォーマーは、食事中は外している。代わりに、魔王からもらった木刀を腰に下げている。



 服は、白のブラウスに、赤の膝上のスカート。裾に、フリルがついていて、可愛らしい。靴は、いつも履いている黒のニーハイブーツ。服装だけなら、いいところのお嬢様。腰に下げた物騒な木刀さえなければね。


 

 部屋に入れば、十人は軽く座れるであろう長いテーブルの、お誕生日席に座る魔王の姿が目に入る。一番偉い人が座る場所と決まっているらしい。ちなみに、私は魔王から一番遠い席。



 仮にも魔王の命を狙っているから。最初はもっと近くに座れと言っていた魔王だったが、部下に宥められ不服そうに遠い席に座る私を見つめる。そんな顔されてもね、こっちだって近くがよかったんだよ? 狙いやすいし。部下にうまく丸め込まれたのはあなたでしょうよ。

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