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二話

 殺し屋をやっていても、学校には普通に通う。家族揃って引きこもりしてたら、怪しまれるもんね。



 小学生の時はゲームでRPGとかやってた。だから、魔王もわかるし勇者もわかる。要するにマ○オが勇者でク○パが魔王ってことでしょ。救い出すお姫様はいないのかな? 



 ついでに言えば私は読書が趣味だ。異世界トリップ、転生ものなんかはそれはもう大好きで新刊が出たらソッコー買いに行って読み漁っているほど。しかし、王道の異世界トリップ、転生ものと言えば、主人公が現実世界で死んだり異世界から魔法で呼び出されて強制的に異世界に行くもの。あらかじめ今から異世界連れて行くよーなんて親切な魔法使いがいる話は読んだことがないし、ましてや自宅が異世界と繋がってましたなんて初耳。



 色々と今まで読んできた小説とは違ってて、なんだかガッカリ。でもまぁ、父様直々の依頼となったら断ることはできない。


 

 黙って頷き、依頼を受けた意を示す。なぜか、父様の顔が一瞬強ばった。すぐに穏やかな表情に戻ったけど。依頼を受けたら即実行。頭を下げ、踵を返して部屋を出ようとして、後ろでポツリと父様が呟く。



「これは独り言だ。そのままで聞いて欲しい。ーー父さんは、こよりの幸せを願っている」



 久しぶりに呼ばれた名前に、思わず振り返りそうになるが、私はそのまま書斎を出た。さっきの父様の言葉の意味は一体……? 不思議に思うが、今は目の前の仕事に集中しよう。



 銀縁眼鏡のメイドが待機していた。手に何か持っている。渡されたものは、服にアームウォーマー、ニーハイブーツ。すべて黒で統一されている。これに着替えてから異世界に行けということか。



 自室へ向かい、まずは服を広げてみる。太ももが露出するぐらいの長さのハイネックの、ノースリーブワンピかと思ったら、いざ着てみるとスカートではなくパンツだった。内ポケットがありすぎて本来の、腕にフィットする形の原型を留めていないアームウォーマーの内ポケットに、武器を詰め、二の腕のあたりにベルトで固定する。最後にニーハイブーツを履いて、完成。



 姿見でおかしなところがないか確認するが、どっからどう見てもコスプレをしてる人にしか見えない。ま、いっか。



 ふと、一枚の紙が床に落ちているのを見つけ、拾って見る。そこには、長旅になるので着替えや食料は現地調達すること、武器はアームウォーマーの内ポケットに入る最低限のものしか持っていけないことなど、異世界へ行くにあたっての注意事項か書かれていた。



 着替え、食料は現地調達とか、冒険ものっぽくてワクワクする。武器持っていけるのもいいし。魔王を倒すための、勇者にしか抜けない伝説の剣とかあったりするのかなぁ。なんて、中二じみた妄想が膨らむ。ワクワクするね。


 

 準備万端、さぁ行くぞーってところで銀縁眼鏡のメイドに呼び止められる。



「護衛として、私がついていきますので」

「……それ、父様の命令?」

「その通りです」



 キラリ、と銀縁眼鏡を光らせてメイドが言う。父様……何でよりにもよって苦手なこの人にしたの? 嫌がらせ? 



 さっきまで膨らんでいた頭の中の異世界生活がしゅるしゅるとしぼんでゆく。なんか……思ってたのと色々違う。というか、メイドはメイド服のままだけど、それで護衛するの? どうでもいいけど。足手まといになったら切り捨てられるのはメイドも承知の上だろうから、メイド服で護衛するんだろう。ずごい、漫画みたい。ロングスカートの中に武器とか仕込んでそう。



「参りましょう」


 

 銀縁眼鏡メイドがついてくることで一気にテンションがだだ下がりの私は、渋々メイドに言われるまま階段を上る。扉が一枚。メイドは黙って隣に立っているので、ノブを回して扉を開けた瞬間、強風に引きずり込まれるように体が扉の中へ。


 

 そこは、空の上だった。地上何メートルとかそういうレベルの高さじゃない。これ、スカイダイビングする人レベルの高さだよっ! 


 唸るような風の音が耳のすぐ横で聞こえる。落ちてる、私、現在進行形で地面に向かって落下中。しかし、不思議とパニックにならない。むしろ、どうやって地面に激突せずに降りられるか、考えてるぐらい。突然魔法が使えるようになったとか? うーん、と力を込めてみるけど落下中に変わりはない。あれ? そういえばあの小うるさい姑みたいなメイドも一緒に落下中なの?



「……この高さから落ちているのに、焦り一つ見せないのは流石に驚きました。これなら、安心ですね。靴に特殊な加工がされていますので、私もカラス様も、地面に激突しないのでご安心を。そのまま身を任せていただいて結構ですよ」



 おお、普通に隣で同じように落下中だった。しかも、普通に冷静な説明までしてくれた。靴に特殊加工……たからわざわざ着替えさせたのね。納得がいった。このままでいいならいいや。近づいてくる街並みを上空から楽しもう。



 眼下に広がる街並みは、普通だった。至って平和な街だ。魔物に支配されてるとか、そういう感じでもない。昼下がりの、どこにでもある日常。そんな感じ。


 

 段々、体に受けていた風が弱まるのを感じた。まるで羽が生えたみたいに、全身が軽い。そのまま、足からふわりと地面に降り立つ。天使とか、天女様になった気分。何だか楽しかった。さい先のいいスタートを切れた。よかった、このまま順調にいくといいなぁ。

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