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十八話

 記憶がなくとも、日常生活は送れるものだと、学習した。目を覚ましてから数日経った。



 しかし、魔王と言うだけあって、メイドさん、執事さん逹は皆魔物なんだって。城の中では、唯一私だけが人間なんだとか。でも、ジーヴは私と似た肌の色をしている。人間と言ってもおかしくはない。



 ジーヴは、私の部屋にカギをかけると言った。ジーヴがいないうちに、妃候補だった魔物の女の人逹が私を恨んでくるかもしれないから心配だと。



 部屋には、お風呂もトイレもついているし、食事はジーヴ直属の部下が持ってくるから、大丈夫と言う。しかし、窓もない部屋にカギをかけられてしまうなんて、これでは監禁ではないか。



 そう小さな声で抗議すれば、悲しそうに目を伏せるジーヴ。そ、そんなしょんぼりしたって、ダメなんたから。監禁は監禁。犯罪だよ。



「でも、本当に危ないんだ。記憶がなくなった今、テマリは戦えないんだそ? 俺はもう、テマリが傷つく姿を見たくない」



 ぎゅうっと、痛いぐらい手を握られ、不安そうに言われる。そのまま流されそうになるけど、いかんいかんと頭を振る。というか、私は戦える人だったの? どんな風に戦ってたのかな、やっぱり勇者らしく剣でも振り回してたのかも。



「大丈夫だよ。だって、お城の中には、ジーヴが信頼してる、とっても強い部下の魔物さん逹が沢山いるんでしょう?」

「それはそうだけど……。やっぱりダメ。危ないから、カギはかける。俺が仕事から戻ったら、ずっと部屋にいてやるから」



 そう言って、ジーヴは素早く部屋を出てガチャリ、と無情にもカギをかけてそのまま行ってしまう。外も見れない、やることもない。もう、ジーヴのケチ。


 

 心の中で悪態をついていると、ふと既視感を覚える。何だか、前にもこんな風に誰かに悪態をついたような……? ぼんやりとした頭で、見えない糸を手繰るように、必死で思い出そうとする。


 

 ……ダメだ。思い出せない。眉間に寄ったシワを、ぐりぐりと人指し指でほぐす。もーいいや。暇だし、寝ちゃおう。こういう時はふて寝するのが一番だ。そう決めると、私はいそいそと布団に潜り込み、眠りにつく。



 ジーヴが言っていた、少し意識をぼんやりさせるお香のお陰か、私は夢すら見ないほど安眠できる。ただ、起きる時、ひどく体が重い。時計もないから、自分がどれぐらい寝たのかもわからないので、単なる寝すぎだろう、ぐらいにしか考えていないけど。



 時計もない、窓もない、そんな部屋に監禁されていることが、異常なことだと、私は感じなかった。



 髪の毛を優しくすく感触に、目を覚ます。視界がぼやけて、段々クリアになっていく。そこで、ようやく私の髪の毛をすいているのが、ジーヴだと気づく。目が合うと、ジーヴはニコリと優しく微笑む。私も、ふにゃりと笑い返す。



 もぞもぞと動き、布団をミノムシのように纏ってジーヴにすり寄る。ジーヴは、一瞬驚いたように目を丸くするが、すぐに優しく頭を撫でてくれる。



 私は、わざとらしく膨れてみせる。



「ジーヴがカギかけて行っちゃったから、退屈だったんだよ!」

「ごめんごめん。明日からは何か、退屈しのぎできるものを持ってくる」



 カギをかけないという選択肢はないらしい。監禁されているというのに、不思議なことに、私に危機感は欠片もなかった。なぜだろう。相手が恋人だと、心のどこかでわかっているのかもしれない。なんて、考える。



 それより、退屈しのぎのために何を持ってきてもらおう、と考える。



「無難に本でも持ってこようか。書庫があるから、本には困らない」



 ジーヴの言葉を聞いて、私の目は期待に輝いていることだろう。



「わぁ、楽しみ! そういえば私、ここで()本読んだことないや」



 何気なく発した言葉に、ピクリとジーヴが反応する。考え込むような顔をするジーヴの顔を覗き込む。



「とうしたの?」

「……何でもない」


 

 笑うジーヴに、誤魔化された、と思った。まぁ、大したことじゃないだろう。どんな本を持ってきてくれるのかな。楽しみ! 恋愛もの? 友情もの? それともミステリー? いやいや、冒険ものも捨てがたい。ああ、楽しみ。


 

 こんなに楽しみになるってことは、記憶を失う前の私は、本好きだったのかもしれないなぁ。

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