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十六話

 私の案内係としてやってきたのは、狸を擬人化した感じの、小さな女の子。もふもふのしっぽを振りながら、同じくもふもふの耳をピクピクと動かし、スカートをつまんで、淑女のような挨拶をする。



「初めまして、カラス様。お話は我が主、魔王様から聞いております。ひとまず、魔王様へ挨拶をお済ませください」



 ……丁寧だ。見た目十歳ぐらいの可愛らしい女の子なのに、中身いくつですかってぐらい淑女として出来上がっている。あまりの丁寧っぷりに、面食らっていると女の子はニッコリと微笑む。

 


「私のことは、ビーとお呼びください。では、参りましょう」



 そう言ってスカートを翻し城のほうへ歩いていくビー……ちゃん? さっきの、淑女らしい挨拶に、落ち着いた態度。ここは見た目だけでちゃんづけをしてもよいものか。もしかしたら、私よりずっと年上の可能性も……悩みに悩むこと数分、結果ま、いっか。ビーちゃんで。ということになった。考えるのの面倒になった。ビーちゃんが、振り返って付け足すように言った。



「廊下は暗いので、足元にお気をつけください」



 城の中の長い廊下は、どこぞの廃墟かってぐらい、薄暗く不気味だ。時々電気かチカチカするのは、魔王城ならではの仕様なの? 



 長い廊下を、無言で進む。やがて、一つの大きな扉の前で、ビーちゃんが立ち止まる。私も、足を止める。ビーちゃんがノックすると、中から偉そうにふんぞり返る姿がありありと想像できる魔王の声が入れと命ずる。



 ビーちゃんは、部屋の外で待機らしい。私だけ、押し込まれるように部屋に入れられる。部屋には、想像通り偉そうにふんぞり返る魔王の姿が。周りに護衛などはおらず、魔王と私の二人きり。



 話は聞いていると、ビーちゃんが言っていた。私が魔王の命を狙っていることだろうか。それにしては、随分と歓迎ムードだった気がする。部屋の中は、普通に明るかった。廊下みたいに、電気チカチカホラー映画仕様だったらどうしようかと思った。


 

 メイドが静かに部屋に入ってくると、香ばしい匂いのする焼き菓子と、コーヒーのような匂いの液体をカップに注ぐ。



 匂いはコーヒーだけど、液体の色はどちらかと言えば紅茶に近い。角砂糖とミルクをカップの近くに置かれたので、どうもこの見た目は紅茶な飲み物は、コーヒーで合っているようだ。

 


 何だか不思議。こういうところは、異世界っぽい。ミルクを入れたら、ミルクティーのような色になるのだろうか。焼き菓子は、見た目からしてマフィン。


 

 目の前で、魔王が紅茶みたいな色のコーヒーを飲む。それをチラ見しながら、私の目線は焼き菓子に釘付け。美味しそう……。


 

 さっき、メイドは同じように私と魔王に飲み物を注いだ。ならば、飲み物は恐らく大丈夫。仮に毒が入っていたとして、私の体は毒に慣れている。



 幼い頃から慣らされているので、色んな種類の毒もオッケーだ。一応、匂いを嗅ぐ。そして、恐る恐る飲み物を口に含む。味も、私が現実世界で飲んだことのある、苦いコーヒーの味。


 

 私が慎重に毒味している間に、魔王はマフィンにかぶりついていた。



「怪しいものなど入っとらん、食え」


 

 口元に食べかカスがついていてもイケメンなんだから、ホントイケメンっていいよね。



 魔王に言われるがまま、私もマフィンにかぶりついた。



 さっき飲んだコーヒーはそのままでは苦かったので、ミルクと角砂糖を入れてかき混ぜる。すると、想像していた色になる。もう一度口に含むと、甘めのコーヒーの出来上がり。うん、美味しい。



「船の中で俺のどんな話を聞いた」

「妃候補を五人も作っている、と。ハーレム作る男なんてもげればいいのに。それか禿げろ」



 私の心の中の声が、ついポロリと出てしまう。若干引いている魔王サマ。



「別にハーレムなんて……。シャルルに会ったと聞いたが」

「顔面潰されるところだった」



 マフィンをもぐもぐしながら答える。甘めのコーヒーを飲むと、丁度いい感じ。船の中の食事は、少し味気なかったし、何より甘味がなかったから。はー、幸せ。やっぱり、甘いものって偉大だわぁ。



 幸せに浸っていると、頭の中がぼんやりしてくる。視界がぐわんぐわん揺れ、襲ってくる強烈な眠気に勝てず、手から食べかけのマフィンがポトリと落ちた。



 しまった。毒? それとも、薬? どちらにしろ、何か盛られたーー。考えが、うまくまとまらない。座っているソファに身を委ね、眠りにつく直前、目の前の魔王の口元に笑みが浮かぶのが、見えた。

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