十五話
十日間の旅、長かった……。途中、シャルルの迎えがきて、お陰で命を狙ってくる相手が減ったのはいいもの、それでも私が魔王の城へ向かうことが、気に食わない従者は多数いる。
日射しが降り注ぐ甲板へ出れば大丈夫かと思えば、人型の魔物が私を突き落とそうとやってきた。あの時は船長の部下の一人である筋骨粒々なリアさんが片手でつまんでそのまま船から強制的に落とした。羽っぽいものが背中に見えたし、きっと飛べる感じの魔物なんだろう、と一人で勝手に納得した。
別の日には、夜中に暴漢が。しかも三人。こんな幼児体形の女をよく狙うわ、さては貴様らぺドかと心の中で罵りながら、三人を、身動きのできない体にしたところで、慌ててゼフィーくんが飛んできて三人を連れていった。
船長が、これ以上何かするなら今すぐ船から叩き出してやると宣言したことで、それら以上の被害はなかった。
ちなみに、私を暴行しようとした三人は魔王の元へ連れていかれたそうな。今ごろミンチですよ、と嬉しそうにゼフィーくんが言っていた。まさしくドナドナ。
魔王城が建っていて、魔物逹が住んでいるのは、人間が住む国とは海を隔てた一つの大陸だった。ミルリアというらしい。海を通りすぎたあたりから、広がっていた青空が暗雲に変わり、眩しい太陽もすっかり隠れてしまった。辺りには霧が立ち込め、視界が悪い。
「ついた!」
ぴょこん、と船から降りる。すると、ゼフィーくんが声をかけてくれる。
「お疲れ様でした、カラス様」
「ありがとう。船長逹は?」
船長の部下に助けられたり、船長の鶴の一声で後半はかなり楽だった。お礼が言いたいのだけど……。視線をうろうろとさ迷わせ姿を探すが、見当たらない。
ゼフィーくんが、苦笑いで答えてくれる。
「城が近いので、珍しく仕事に勤しんでいるようです」
いつもこうならいいんですけど、と肩を竦める。
流石に魔王の前では堂々とおサボりはできないのね。それなら、とゼフィーくんに言伝を頼む。
「お世話になりました、って言っておいて」
「かしこまりました。魔王様は先について待ってますので」
どうやら、船つき場からは馬車で移動するようだ。馬車へ乗り込む前に、魔王の乗っていた船が見たいと言ったら、ゼフィーくんが指差して教えてくれた。
「あちらに見えるのが、魔王様の船ですよ。客人を乗せる船でもあります」
船つき場で、一際目立つ豪華客船が、そこにはあった。何階建てだろう、と数えていると、隣に立つゼフィーくんが教えてくれる。何から何まで助かります。
「六階建てになります。中には、温泉やプール、バーなどの施設が揃っています」
ほおー、流石は天下の魔王サマの乗る船。豪華だねぇ。私もできたらあっちに乗りたかった。ま、私は客人じゃないから乗れないのは当たり前だけど。ああ、でも魔王と同じ船に乗れば私のことを色んな意味で狙う輩が増えるのか。それはちょっと嫌だな。船長逹やゼフィーくんがいい魔物だったから、いい船旅だったと言えよう。
初めて乗る馬車は、自動車と違って結構揺れるし、道が整備されていないこともあって大変お尻が痛い移動だった。しかし、一緒に乗っていたゼフィーくんはケロリとしている。話しかけてくるので返そうとするも、揺れるから舌を噛みそうでうまく話せなかったし。
「つきましたよ」
馬車に揺られること三十分ほど。ようやくついた魔王城は、全体的に黒く、背景にゴゴゴ……とかいってそうな佇まい。迫力のあるお城だ。流石は魔王の住む城。この辺りは、地表から邪気がわき出ているので、人間の私はごついマスクを装着する。
ゼフィーくんとは、ここでお別れらしい。城の中にも魔王の従者がいて、城の中ではその従者に魔王の元まで案内されるそうな。城の外と城の中では、魔王につく従者が違うみたい。何だかややこしい。当然、城の外で船を管理する船長逹ともお別れ。
せっかく、結構喋れるようになったのに。ま、仮にも魔王の部下だ。あまり関係を深入りしないほうが身のためか。
しかし、また新しい従者ということは、また警戒され時には命とか狙われつつ案内されなきゃいけないわけか。疲れそう。うんざりしながらも、迎えにきた城の中を管理する従者についていく。
ゼフィーくんに軽く手を振ると、笑顔で振り返してくれた。見た目ゴブリンな彼だけど、長い旅のオアシスでした。ありがとう。




