十四話
おじさん連中は、いざ話してみると、気のいい人ばかり。私が、小さな声で船内を見学してみたいと言うと、快く承諾してくれた。というか、おじさん連中の一人がこの船の船長だった。操縦は他の部下に任せているのだと言う。自由だな、おい。
船長が船内の見学を許したことに、他の従者逹はビックリして、慌てて船長を止めていたが、船長が大きな声で言う。
「俺の船だ。お前らが口出す権利はねぇ」
迫力のある姿に、他の従者逹はすっかり大人しくなった。
「よくあることですよ。ヴァル船長は、いつもこんな感じです」
慣れているのか、部下のおじさん逹は肩をすくめて苦笑い。部下は苦労するだろうなぁ。ストレスで禿げないといいね……って、魔物だから元から髪の毛ないのか。失礼しました。じゃあ、胃痛かな。
雑談しながら、船内を回る。
「これは従者用の船だから、小さいんだ」
そう説明を受けるが、充分大きいと思う。だって、従者が少なくとも二十人近くは入るんだよ。これで狭いとか、魔王の乗っている船はどんな豪華客船だ。眠ってしまった魔王とすぐに離されたので、魔王が乗る船は見えなかったけど。今更気になってきた。
甲板に出ると、広がっていたのは、爽やかな青空。船長逹は人型から遠い普通の魔物なので、青空と太陽は苦手とのことで、日射しの当たらないところにいる。
すごい、本当に船が空の上を飛んでいるんだ……! 滅茶苦茶ファンタジーじゃん! 風を感じながら、内心興奮していると、椅子に座り飲み物を飲んで休んでいたシャルルと遭遇。うわぁ、ついてない。
向こうも、私に気づいたようで、青ざめた顔で睨みつけてくる。だから、私妃云々関係ないって。そう、弁解するより先にシャルルは、すっと椅子から立ち上がり私の目の前に立つ。
「先ほどは、失礼しましたわ。勇者様は、妃候補にあがっていないと聞きましたの。私の早とちりでした……ごめんなさい」
いや、今にも殺しそうな感じで睨みながら言われても、説得力皆無だよ。視界の隅で船長が肩を震わせているのが見える。笑いどころじゃないからね、ヴァル船長。
「シャルルお嬢様、謝っているのに睨んでいたら、説得力がありませんよ」
さっきのリスうさぎさんが、パタパタと短い腕を上下に振って突っ込んでくれる。この執事さん、小さくて可愛いけど何から何まで常識人……! 魔物だからと侮るなかれ、ね。心の中で賞賛の声を送っていると、シャルルがつーん、と可愛らしい顔で唇を尖らせる。
「だって、ずっとすました顔してて、余裕ぶって気に食わないんですもの!」
仕事柄、人に愛想を振り撒くことがなかったので、基本表情筋が動くことはない。だから、すましたように見えるのかもしれない。十八年間そうやって生きてきたのだから、今更感情豊かになれと言われても、難しい。
シャルルは、拗ねたような顔から、今度は可愛らしい笑みを浮かべる。
「あなたが妃候補になったら、真っ先に殺して差し上げますわ」
そう笑顔で告げると、コツコツとヒールを鳴らして椅子に座る。宣戦布告ってわけですか。どうでもいいけど、向かってるならこちらも本気で挑もうじゃないか。腕か鳴る。確か、船長が妃候補は今のところ五人って言ってたなぁ。全員に、こんな感じで命狙われるのかな。それはちょっとなぁ……。
私、関係ないのに。でも、魔王に目をつけられた時点で、必然的にこうなるのかな。逃れられなかったってわけか。魔王城についたら、もっと面倒事に巻き込まれたりして。なんてねー、あっはっは。
シャルルのいる甲板に長居はしたくなかったので、とっとと船内に戻る。お互い気まず……くは、ないか。シャルルのほうは殺す気満々だもんね。むしろチャンス! って喜びそう。あー、ヤダヤダ。




