十三話
私にも、こんな感じの愛嬌とか必要なのかな。ほら、年頃の女だからとかじゃなくて、魔王を落とせるかって話。
兄様は、ターゲットに恋してしまったから、殺せなかった。私は、女。性別を利用して魔王を落とせば、殺せる確率が上がるかもしれない。
んー、でもなぁ。さっきのシャルルお嬢様とやらは、誰がどう見ても巨乳だった。ついでに、鬼の形相じゃなければ普通に可愛らしいご令嬢、といった顔立ちをしていた。ああいうのが、以前師匠がどや顔で説明してくれた人型の魔物なんだろう。
私は、小学生ぐらいの子供に見える姿を利用してきた。これが、男を落とせるかって言ったら、まぁ無理だよねって話。幼児体形の私には、大きな乳もなければプリプリのお尻もない。男が魅力的に感じる女らしい部分が、欠片もない。絶望的である。
うん、やっぱり闇討ちとか卑怯な方法のほうが私に向いている。
つい、愛嬌のある向かい側に座る男の子の顔をじっと見つめてしまう。男の子は、不思議そうに首をかしげ、それから何か納得したようにポン、と手を打つ。
「魔王様のお城までは、十日ほどかかりますよ」
「え。……そんなにかかるの」
小さく呟いた私に、男の子はしょんぼりする。
「申し訳ありません。やはり、魔物に囲まれて十日も過ごすなんて、嫌ですよね……」
落ち込んだ様子の男の子に、私は首を横に振る。
「嫌ではないよ。ただ、さっきのことでどうも怖がらせてしまったようだし、私は魔物というものに慣れていないから」
「怖がるだなんて、そんな。勇者様の隣に座る、ポヨが怖がりで臆病なだけです。どうか、お気になさらず」
お隣の女の人は、突然名前を呼ばれ、またもビクリと肩を跳ねさせた。小刻みに震える華奢な体。今にも消えそうな声で謝る。
「ご、ごめんなさい……」
「いえ……怖がらせてしまったのは、私のほうですし」
ポヨさんの体は、まだ小刻みに震えている。ま、気にしないほうがいいか。そう思い、私は男の子へ向き直る。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかった。教えてくれる?」
「ボクはゼフィーと申します。人間で言えば、十六歳ぐらいですかね」
「そう、よろしくね、ゼフィーくん。私はこより。仕事上、魔王、様の前ではカラスと名乗っているけれど。どちらの名前で呼んでもらって構わないよ」
お互い名乗り終える。ゼフィーくんがいるだけで、この旅路は随分と変わる気がする。ゼフィーくんは少し考える。それにしても、魔王魔王と心の中では様が抜けているから、口に出す時一拍あいてしまう。
「魔王様に本当の名前を教えるつもりは?」
「ないけど」
唐突な質問に対し、私は首を横に振ってキッパリと答える。ゼフィーくんは、少し残念そうな顔をした。
「主が知らない本名では呼べませんね。カラス様と呼ばせていただきます」
私が、魔王に本名を教える気がないことを考えてくれた。ゼフィーくんは愛嬌もあって優しい男の子だ。見た目は人型に近いゴブリンみたいだけど。魔王はゼフィーくんの優しさを見習え。私を強引に連れてきておいて危険な目に合わせるとか。何なんだ、嫌がらせか。
しばらくゼフィーくんと他愛のない会話をするうちに、声からしておじさん連中も混じって、それに怯えたポヨさんはいつのまにか席を外していた。一々気にしていたら仕方がないので、気にしない。
「大王の奥様も元勇者だからなぁ。こういう運命なのかね」
ポツリとおじさん連中の一人が漏らした言葉に、他のおじさん逹やゼフィーくんまでうんうん、とうなずいている。あれ、なんか話がおかしな方向に向かってる。
「カラス様ならあっという間に妃になれるのでは?」
「そうだなぁ、いまのところ妃候補は絞りに絞って五人……。ちと難しいか?」
「大丈夫ですよ、先ほどの戦いは見事でした!」
あれー、ちょっと待って。軌道修正が追い付かない!
違うんだ、私そういう感じで連れてこられたんじゃないんだって。ドナドナされてきたんだって。思いっきり悪い笑み浮かべて国を人質代わりにとられて、断って国が破壊された時に非難されるのも嫌だし、近づけば殺せるチャンスあるかなっていう算段でついてきただけだから。ホント、色恋沙汰じゃないから。
「私みたいな子供が魔王様の妃だなんて、とんでもない」
とんでもない、当たり前だ。だって、魔王は私がこの手で殺すのだから。




