十一話
目の前に立たれると、つい身長を見てしまう。私より、頭半分ほど大きいぐらいか。顔もまだ幼いし、これで百歳越えは信じられない。
「今から三年前の街の様子だ」
そう言うと、指を鳴らす。空中に現れた映像。映像の中では、丁度女の人が巨大なカエルみたいなものにぱっくんちょされているところだった。
次々と切り替わる映像では、かならず醜い何か……恐らく、魔物と思われる奴らが家を破壊したり火をつけ、中から逃げ出してきた人を捕まえ四肢をもいだり頭を潰したりしてゲラゲラ笑っている。人は、老若男女問わず殺されていく。殆んどが、抵抗する間もなく殺されたり食べられている。
見知った広場でも、巨大なクモのような魔物が人を糸でぐるぐる巻きにして頭からモグモグしていた。
これが、三年前の街? 信じられない。あちこちで火の手があがり、人の悲鳴が飛び交っている。
でも、三年前はひどい有り様だった街が、どうして今はこんなに平和なの。言い知れぬ不気味さが這い上がってくる。
「三年前の王は実に頑固者だった。国の周りに結界を張り、最期まで俺の支配下にならなかった。今の王は扱いやすくていい。少し脅せばすぐに支配下に収まった。俺は支配下に収めた国には手を出さん」
つまり、支配下に収まらなければ魔物ジャンジャン送り込んで国ぶっ潰すぞーってこと? なんて暴虐無人な。道理で師匠が極悪非道と呼ぶわけだ。でも、支配下に収めた国には手を出さないって、支配下に収めた意味あるの? それ。
「何が手は出さない、ですか! 無理やり作物を取っていったり魔物との子供を生ませるために若い女の人をさらっていくくせに!」
普段は物静かなお手伝いさんが、ポロポロと涙をこぼしながら憤る。それを魔王は鼻で笑い飛ばす。
「だか、それらの犠牲のお陰で街、ひいては国の平和が保たれているんだ。非難されるどころか、感謝されてもおかしくないんだがな」
魔王は、とても不思議そうな顔をする。
「さて、もう一度聞くぞ。俺の城へ来い、勇者サマ」
このまま断って街、というか国が魔物に破壊されて、非難されるのは私。魔王の側にいれば殺せそうな時が見つかるかもしれない。
「わかった、ついていく」
私の言葉に、京が何か言いたげに手を伸ばし口を開くが、迷うように手を引っ込め口をつぐむ。
「勇者サマも、中々ひねくれていて俺好みだ」
にぃ、と満足気に笑う魔王。なんという、私は素直に魔王についていくと言ったというのに!
欠伸をしながら、もう一度指を鳴らす。すると、空中に浮かんでいた映像が消え、師匠の呼び掛けに子供が反応する。道場から、わらわらと子供逹が師匠に向かって走っていく。解いたんだ、という目で見ていると、魔王が眠そうに呟く。
「久しく魔法を使っていなかったせいで、複数人を同時に操るのは、流石に疲れるからな。俺は少し寝る。ついたら起こせ」
従者にそう命ずると、魔王は眠りにつく。今なら殺せるかなって考えたけど、察しのいい従者に魔王から離され、従者の乗る船で、従者に囲まれて魔王城へ向かうことに。
……はぁ、どうしてこうなった。とても疲れそうな旅路になりそう。というか、国境越えるの? 魔王の口ぶりからして、魔王城はこの国には無さそうだよね。どれだけの時間私は監視されながら移動しなきゃいけないわけ。私が魔王に何をした! ……したわ。出会って早々に蹴り飛ばしたわ。すっかり忘れてた。
それにしても、魔王の移動手段は空飛ぶ船かぁ。なんか、イメージと違う。もっとこう、コウモリみたいな羽広げてバッサバッサ飛んで! って思う。羽がダメならマント。当然黒、と思ったけど、着ていた服は黄緑のパーカーに茶色の半ズボン。端正な顔立ちと、ほの暗い瞳がなければ近所の、どこにでもいる小学生に見える。魔王にはとてもじゃないけど見えない。
物凄く、残念な気持ちになった。でも、空飛ぶ船は、ファンタジー感満載で、ぶっちゃけ趙楽しい。従者に囲まれていなければ、是非とも船内を見学したい。
窓際に座っているので、窓のカーテンを開こうとしたら睨まれたので、やることがない。うん、実に暇だ。景色ぐらい見せてくれてもいいのに、ケチ。異世界人の私が見たところで何かわかるわけでもあるまいし。
と、心の中で毒づく。
やることもないし、私も寝ようかな。背もたれにもたれかかり、目を瞑り、眠りにつく。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
本当なら区切りのいい十話で後書きを書きたかったんですが、忘れてまして笑
いざ魔王城へ行かん!です。
何々編とか特に決めていないのですが……(´-ω-`)
魔王城編、って感じですね。




