アルボロの渦
プリリスを駐車場に停め自宅まで戻る。
12件の不在通知と34件のメッセージが携帯電話に表示されている。
深い溜息を吐きながら手慣れた指さばきで34件のメッセージを確認する。
緑のアルボロを一瞥もせずに咥えアンモナイトが彫られているヂッポで火を点ける。
覇気の無い34件のメッセージの送り主は5人の女が29件と2人の後輩、それから週3回のバイト先のオーナーから各一件だ。
『やれやれ。どうしたものか。』
声にもならない声でふと呟き、アルボロを3口ばかり吸って灰皿に捨てた。
ブチの部屋はとても綺麗に片付いていた。
元来片付けや掃除が出来ない男であったが、5人の女を同時に相手にするためには必須スキルとして自然に身につけていた。
彼の部屋では髪の毛一本落ちている事は無かったが、住む事3年間一度として、郵便ポストは開けられた事は無かった。
手帳を手に取り5月のスケジュールを確認し、女達のデート段取りをし、予定をメールで返信していった。
ポケットの中からバルガリのキーケースと、5個の指輪を机に並べた。
ブチは、どの女にも平等に付き合いをしていたが、必ず優先順位を付ける癖があった。
中でも1番のお気に入りはパチンコ屋のコーヒーガールをしている左姫ちゃんだった。
彼女は、とても気立てのよい子であったが、少し錆びてしまった新しい10円硬貨の色合いをした髪で、ロマネスクの様に盛り付けセットをしてくるのだった。
ブチは年上の彼女、気の強いかかあ天下の女を特に好む達で、歴代彼女にも随所にその傾向は見て取れた。
その傾向に全て該当している左姫ちゃんが1番なのはそういったものに付け加え、体の相性が抜群であった為ブチとしては、文句の付けようが無いのである。
4人の、女達に連絡を済ませてしまうと
左姫ちゃんに『次はいつ会える?』と返信し
ブチは湿った干潟に身体を沈めるように眠りについた。