マビウスの輪
無造作にポケットからマビウスを取り出すと、景品ライターでゆっくりと火を当てる。
カプセルを噛み潰し、肺の隅々まで煙を行き渡らせ
人差し指の幅程開いた助手席の窓からゆっくりと、狼煙を上げた。
『やべーな。』
フィルターの手前まで綺麗に吸い上げたマビウスを、山のように膨れ上がった灰皿に潰し、ぬるくなったコーヒーを一口すすった。
ヤル気と希望を持たないブチの右腕はプリリスのハンドルを切り、ラジオから流れるレゲェに合わせて
『このままじゃヤベ。いーのかこのままで。なにかしねーとクズのまま終わっちまう。』
文吾は、4枚目の諭吉をパチンコのサンドに入れるおっさんの様な表情を顔に貼り、その口元から溜息交じりに
『俺とお前なら最強さ。なんて言ったて20年物の付き合いだ。
なぁそうだろ?とにもかくにも俺とブチで出来ない事は何もない。』
『そのとおりだ。俺とお前なら何だってヤレる。
しかしだ。問題は何をするかだ。その"何か"を探し見つけられずにいるわけだ。
この5年間と言うもの俺たちは何一つ身につけては来なかった。
そして、この5年間にこの話をかしたのは何回目だ?』
『440回目だ。』
『また連絡する。』
助手席から降り儀式的に右手をブチに向け、文吾は自分の部屋に向かう。
少し扉が渋いポストの中には二ヶ月分の水道料金のお知らせがたまっている。
いつものように強引に渋い扉を開けた。
そこには酸味の抜けたレモン色の封筒が入っていた。