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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第三章 どうも、冒険者一年目の新人です
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第八九話 パーティーは始まり、陰謀は既に終わり

先手必勝という言葉が大好きです。

 ゲゼルシャフトに到着した日から数えて、今日で四日目。つまりはパーティー当日。

 到着一日目は夜だったことに加えて国王陛下との非公式な謁見もあり、特に何もできなかったものの。その後の二日間でしっかりと準備をしてきた。

 敵に動きを察知されると困るので、物資の搬入には俺のアイテムボックスがフル活用されることに。


 最大容量不明の、幾らでも荷物を吸い込みそうな俺のアイテムボックスにより、クラリッサ様からの警戒が強まった気がする。まあ逆の立場なら俺も警戒するしな。荷馬車一台分もあれば、普通は驚かれるほどの大容量らしいし。俺の場合、最低でもその何倍あるやら。

 ……それを利用しての、割とえげつない戦法も思い付いてたりするんだよなぁ。


 迎賓館は、上から見るとアルファベットのUの字を横に伸ばしたような形をしている。白い壁に、空色の屋根だ。

 正面のエントランスに入ると、何層にも重ねられた豪奢なシャンデリアが目に飛び込んでくる。天井には星空が描かれ、大理石の柱がそれを支えていた。


 まあ、建物の豪華さに感動する暇も無く、昨日と一昨日で色々な作業をしていたのが俺達なんだけど。手先の器用さを要求される作業が多い中、現地スタッフに混ざっていた俺はやたら絶賛されていた。

 術者のイメージで構築される魔法と違い、魔法具は技術によって成り立つものだ。道具になった途端に堅苦しい感じになるのは、言語にも似ている気がする。魔法が話し言葉で、魔法具が文書のような。

 何を、どのように、どうする。雑に言えばこのような形の、実際にはもう少し複雑な命令を魔法具の機能として組み込むのだけど、そのためのパーツがやたらと小さい。外見で言えばほぼ完全に電子回路基板だ。

 恐らく過去の転生者の中にその方面の技術者が居たんだろう。でなければ類似点が多すぎる。そう推測して少しだけ魔法具の歴史を聞いてみたところ、やはり明確な転換期があったらしく、それはつい三〇年程前のことらしい。それまでの魔法具は、特殊な素材を魔法使いの杖のように介して魔法を発動させ、それを繰り返すことで完成させていたそうな。今でも単純な動作の魔法具はそうやって作られているとのことだけど。


 ともあれ一昨日、五人程でその組み立て作業を行っているところを見学させて貰ったら、試しにやってみるかと言われて。やってみた結果、「何だ経験者ならそう言ってくれよ。おい皆、人員一人確保だ!」と止める間も無く事態は進み。まあ良いか、と巻き込まれる俺が特に困った顔をしていないことを踏まえてか、フランも静かに様子を見つつ時折手伝ってくれて。そして作業が終わったところでフランがネタばらしをした。

 「最初はちょっと齧った程度の経験者だと思ってたのに、どんどん手馴れていくからおかしいなとは思ってたんだ」なんて言われたし、「この先、魔法具技師としてやってく気はないか」と真剣な目で勧誘を受けもした。

 確かに適性について言えばあるのだろうし、興味が無いと言えば嘘にもなる。とはいえ今のところはフランと喫茶店を開く方向で将来を見据えているので、簡潔に伝えてやんわり断った。それを聞いていたフランが安堵した様子を見せたためか、技師達が囃し立ててきたのを覚えている。ああ、俺はしっかりと(・・・・・)覚えているよ。


 それから昨日は、前の日に組み立てた魔法具の搬入と設置をした。十分に小型化された制御部分はともかく、ナイフを射出したりワイヤーを張ったり爆発したりする機構はある程度のサイズがあるので、俺のアイテムボックスが大活躍した。最初に述べた通りである。なお、その部分まで魔法具の効果として組み上げることも可能ではあるものの、遠隔操作をする際には誤作動の危険が高まるらしくやっていない。

 そのままでは仕掛けた罠の偽装に困ることもあったので、それを隠す為の大きな銅像なんかも搬入した。現地に同行した技師──バーナードさんという、見るからに人畜無害そうな中年男性──には特に驚かれた。






 事前準備の話はこのくらいで切り上げて。

 パーティー当日の今朝は何をしているかと言うと、会場の受付だ。


 来賓の方々の招待状を確認し、ひたすら名簿との照会をしている。同時にエディターのマップも表示して、実際の名前も確認している。

 受付を開始して二〇分が経とうかという頃、既に二名がエディターで表示される名前と異なる招待状を出してきていた。来賓に偽装した敵としてマーカーを設定してから、招待状通りの名前をマップ検索。どちらも近隣の建物にて複数名に囲まれ監禁されている様子だったので、救助を要請しておいた。

 なお更に一名が監禁されている模様。名前は確認しているので、あとはその名前の招待状が提示されるのを待つばかり。既に詰んでるバレバレの偽装でいらっしゃいませ、お客様。


 受付開始からのお迎えラッシュ。

 それが落ち着いてきたのは、四〇分ほど経ってから。監禁されている残りの一名が先程、招待状だけやってきたばかりだった。


「いやー、凄いね。貴族だの軍の高官だの。俺みたいな平民が応対するには、どうにも荷が重いよ」


 ついさっきまで高級ホテルのウェイターみたいな言葉を使っていた口で、今は砕けた言葉を使う俺。会話の相手は勿論、フランだ。


「何の問題も無くこなしているように見えましたが」


 フランは俺の隣で名簿に印を付けてくれていた。何百人と居る招待客の名簿から即座に記載を見つけてくれるので、大変助かった。

 最近というか少し前から結構思ってたけど、依存性やばいな。痒いところに手が届き過ぎてる。定期的に意識して、自力での問題解決を図るべきか。


「まあ表面上は。取り繕うのは得意なんだ。たまに崩壊するけど」


 とりあえず、俺に対する高めな評価に対して受け答え。


「礼儀正しい振る舞いはリクの中にしっかりと根付いたものですから、問題無いのだと思います。とはいえリクは頑張り過ぎる嫌いがありますから、もっと頼ってください」


「今まさに、フランに頼り過ぎてるからもっと自分でしっかりしないといけないな、って思ったところだったんだけど」


「……リクは相変わらずですね」


 苦笑で流されたんだけど。いやいや、いやいやいや。


「何か釈然としないけど、まあ良いや。仕事を進めようかな」


 この場を別の人に任せて、今回の護衛対象に会いに行こう。






 という訳で、事前に会場入りして別室待機していたコルネール・ベットリヒ少将に会う。

 場所はスタッフ用の休憩室的なところだ。簡素なテーブルに椅子、紅茶が入ったポットや菓子が入ったバスケットがある。


 ベットリヒ少将は五十代半ばほどの大柄な男性で、平時ならそれなりに迫力がありそうな外見。しかし今は目に隈を作り、やつれているように見える。


「お初にお目に掛かります、ベットリヒ少将。私はリク・スギサキと申します。彼女は──」


「フランセット・シャリエと申します。本日は宜しくお願い致します、ベットリヒ少将」


 簡単な自己紹介をした俺とフランを見て、ベットリヒ少将は少しだけ安堵した様子を見せる。


「ああ、こちらこそ宜しく頼む。息子や娘達よりも若い君達に守られなければならないとは、何とも情けない話ではあるが」


 そして苦笑を浮かべた。


「戦争など、私も彼女も望んでいませんから。どうかそのようなことはお気になさらず。こちらはただ職務を全うするのみです」


 いきなり自虐を入れるのはやめて欲しい。反応に困るから。それだけ気が弱ってるってことだろうけど。


「そうか。いや、そうだな。年寄りの愚痴など、聞き苦しいだけか」


 気合を入れるように鋭く息を吐いたベットリヒ少将の顔は、つい先程よりも覇気が感じられた。






 ベットリヒ少将と共に煌びやかなパーティー会場へ入ると、優雅な衣装に身を包んだ人々が居た。

 まあ、それぞれ受付で既に会ってるんだけどね。一部を除いて。


 ひとまずベットリヒ少将と別れ、俺とフランは適当にぶらつくことに。


「後は細々した仕上げだけだから、気楽なもんだ」


「事前準備は慌しかったですからね。とはいえ気楽とまで言ってしまうのは、流石にどうかと思いますが」


 俺を窘めるフランだけど、向けてくるその視線に鋭さは無い。


「失言だったかな。気楽というのは撤回しておくよ」


 正直なところ、意識して気を緩めようとした結果の言葉だった。恐らくそれが分かった上で、先のフランの言葉だったんだろう。

 何せリアルタイムで敵の動きを観察しながらの会場入りだから、あんまり真剣な表情で居るのも問題がある。確実に怪しまれるだろう。


「ん、もう始まるみたいだ」


 大変に広いこの会場には総勢二五六名の参加者が居るが、その視線のほとんどがある一箇所へと集まっている。会場の奥、一段高いステージになっている場所。

 そこに居るのは、金髪紅眼のエルフ二人。かたや壮年の男性に、かたや妙齢の女性。俺と紛れ込んだ鼠を除き、一人として低い地位には無い人々の視線に晒されていながら、実に堂々とした様子。

 イグナーツ・エクスナー侯爵と、クラリッサ・エクスナー侯爵令嬢だ。


「ご来賓の皆様方。今宵はお集まり頂き、誠に感謝致します」


 話し始めたのはクラリッサ様の方だった。

 前口上の中でベットリヒ少将にお越し頂いていることを言って、王国と帝国の和平を強く望むだとかそんな話で締めくくられた。あまり長くはなかった。

 侯爵様も最後に一言、当たり障りの無い挨拶を述べてから、パーティーが始まった。


 立食パーティーなので入口付近にバーカウンターが置かれ、料理の置かれたテーブルが複数配置されている。奥の方は先に述べた通りステージになっており、途中で楽団が演奏を開始する手筈になっている。その際に中央付近のテーブルを移動させ、踊るスペースが確保される予定だ。


 帝国の准将殿が招待もされていないのに潜り込んでいるけれど、彼はいつ動き出すかな。

 今回の一件の黒幕、或いは少なくとも現場指揮官なのは分かっているから、とても準備がスムーズに進んで助かった。既に手遅れ(・・・・・)だと気付いたときの反応が楽しみだ。

次回、名前すら出ていない帝国の准将殿はどのような活躍を見せてくれるのか。

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