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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第三章 どうも、冒険者一年目の新人です
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第八六話 王都へ

馬車で移動します。

◆◆◆◆◆


 俺──リク・スギサキが自身の活動拠点であるアインバーグでの準備を終えたのは、翌日の昼前。

 消耗品を買い漁ってはアイテムボックスに詰め込み、俺と同じくアイテムボックス持ちではあるが容量は然程大きくないフランの荷物も詰め込み、現地で着る礼服も詰め込んだ。


 中途半端な時間になったので昼食はフランと共に適当な店で済ませ、再びエクスナー邸へと足を運んだのが今現在。侍女であるハイランズさんの案内で、前回訪問時と同じ客間に居る。

 紅茶が絶品だ。いつまでもこの香りに包まれて、味を堪能していたい。

 まあ、そういう訳にもいかないけれど。


「お二人とも、準備は宜しくて?」


 この客間に入るなり真っ先に問い掛けたのは、クラリッサ・エクスナー様。エディターで表示されるマーカーは、相変わらずの警戒表示。

 ……今、一瞬だけ平常表示になった? 俺の見間違いか?


「はい、直ぐにでも出られます」


 俺がマップを確認している間に、フランが答えてくれた。


「そう。ルアラ、貴女も良いですわね?」


「はい。支度は昨晩の内に済ませております」


 ハイランズさんも同行するということを、今知った。


 そのまま部屋を出ると、この屋敷の雰囲気に全く馴染まない人が廊下に居た。

 薄墨色の着流しを着た、黒髪黒目の男性だ。何故か猫らしき動物を模した白い面を被っており、顔の内で晒しているのは目だけ。下駄を履いているので目線は少し高くなっているが、元の身長は俺と同じくらいだろうか。


「……頼みますわよ」


 怪しさ満点だが別に不審者という訳ではないようで、エクスナー様が普通に話し掛けていた。


 随分と意味深な言葉だったな。


「お任せください」


 返事は丁寧で、落ち着いた声色だった。けれど何故だろう、何となく胡散臭い感じがしたのは。やはり白い面の所為だろうか。


 着流しの男性が俺とフランに軽く会釈をしてきたので、こちらも会釈を返す。

 エクスナー様がどんどん先に行ってしまっているので、俺達も行こう。






 アインバーグの北側、商業区画の検問付近には現在、三台の大きな馬車がある。形といい、大きさといい、まるでバスのような見た目の馬車だ。

 それを()くのはこれまた大きな馬……の魔物。足が六本もある。人を三人くらいまとめて踏み潰せそうな気がする。魔物使いの御者が手綱を握るらしい。

 一台はクラリッサ様を筆頭に、俺やフランなど今回の件の主要メンバーが乗る馬車。他の二台はそれぞれ、護衛と世話役の人間、荷物を載せる馬車とのこと。

 容量の大きいアイテムボックス持ちが居れば最後の一台は不要で、護衛は完全にただの余剰戦力ではあるけれど。侯爵家であるエクスナーのご令嬢が移動するにあたって、馬車一台という訳にはいかないんだろう。

 いやもう、本当に、護衛対象の方が護衛より戦力的に上っていう歪な構図があるんだけども。


 ところで、先程エクスナー邸で見た着流しの男性はサギリ・アサミヤさんという方らしい。家名だけ聞いたことのある、アサミヤ家の人だった訳だ。

 アサミヤ家はこのリッヒレーベン王国において爵位こそ持たないものの、むしろそれより凄いのではないかと思われる治外法権に近い権利を持つそうな。

 義と和を重んじる人々であり、その装いはまさに和風。ただ、通常は面を被っている訳ではないそうで、サギリさんは例外とのこと。それを聞いて少し安心した。

 元々日本人の転生者が立ち上げた家のようで、代々その血を引いている彼らは大抵、頭髪か目のどちらかは黒いらしい。中でも両方が濃い黒だと、アサミヤ家の中では特別扱いされるとか。


「リクの髪と目なら、その特別枠に入りそうですね」


 既に走り始めている馬車の中で揺られながら、俺は隣に座るフランからの話を聞いていた。

 馬車の中は元の世界で言う電車やバスのような構造で、二人掛けの座席が縦に走る中央の通路を挟んで二つずつ、前から順に連続で並んでいる。


 フランは俺の髪と目を交互に見ている。


「俺はアサミヤ家の人間じゃないけどね」


「ですが、近い内にあちらから接触される可能性はあります。日本人転生者は、それなりの割合でアサミヤ家に迎えられていたはずですから」


「へえ、そうなんだ」


 正直なところ、あまり惹かれる話ではないかな。派閥的なものに所属するのはきっと、性に合わない。アサミヤ家の内情を知らないから、判断材料も少ないし。


「あまり興味が無さそうですね」


「現状が自由で良いんだよ。何らかの明確なメリットでもあれば、心動かされることも有り得るとは思うんだけど」


 権力とか後ろ盾とかそういうのは得られそうだけど、前者は元より後者も最近は必要無くなってきてる。【黒疾風(くろはやて)】の二つ名が、割と良い具合に俺から馬鹿を遠ざけてくれてるみたいだし。


「アサミヤ家の方からは、興味を持たれているようですわよ」


 突然俺達の会話に入ってきたのは金髪ツインドリルのお嬢様エルフ、クラリッサ・エクスナー様だ。

 少し離れた座席にて部下らしき人と話をしていたようだが、こちらにやって来た。中央の通路を挟んで反対側の座席に座る。


「……そうなんですか?」


 どう返事をしたものか迷ったので、無難なそれに留めておく。


「ええ。屋敷に来ていたサギリから、それとなく貴方の話が出ていたもの」


 あの面を被った着流しの男性から。それはそれは。

 サギリ、と呼び捨てにしているところを見るに、ある程度親しいのだろうか。


「彼はアサミヤ家の中でも一目置かれている存在だから、接触することがあるなら気を付けた方が良いかも知れませんわね」


 何やらアドバイスらしき発言だけれど、俺に対して警戒状態のまま言われると色々勘繰ってしまう。

 ……また一瞬、平常状態になった? 念のためログを確認。ああ、見間違いじゃなかった。


「そういえば、エクスナー様は彼に何か依頼なさっていたようですが、今回の一件と何か関係があることなのでしょうか?」


 タイミング的に偶然とも思えなかったので、少し突っついてみる。


「別件ですわ」


 非常に短く返答が来た。これは詳しく答える気がゼロだな。下手に食い下がると火傷しそうだ。


「そうでしたか」


 ここは大人しくしておこう。


 それから少し雑談をして、エクスナー様改めクラリッサ様は元の離れた座席に戻っていった。

 いや、現地にエクスナー侯爵家当主のイグナーツ・エクスナー様がいらっしゃるから。紛らわしいという理由で、そちらの呼び名を使うよう言われたんだよ。


「そういえば、フランは今回の件みたいなパーティーに参加したことってあるのかな?」


≪クラリッサ様の警戒表示が数回、一時的に平常表示になってた。訳が分からない≫


 ただの質問を装いながら、ディスプレイに文字を打ち込み筆談もする。


「何度かあります。ただ、国外の方も交えてのパーティーというのはこれが初めてですね。もっとも、今回のこれをパーティーへの参加と言えるかは疑問ですが」


≪確かに、分かりませんね。警戒心を強める行動は取らなかったと思いますが、弱める行動が取れていたとも思いませんし≫


 フランから見ても理由が分からない、と。ますます下手な行動は控えたくなってくるな。何をトリガーに警戒状況が変化しているのか判然としない。


「表向きですら会場のスタッフとして動くだけだしな。けどダンスしたりもするらしいし、そのお誘いは来るかもね」


≪よし。じゃあもうとにかく、こちらには敵対の意志が無いことを行動で示し続けるだけだ≫


 全力で消極的な行動をする。触らぬ神に祟りなし。


「……リクは踊れますか?」


 うん?


 話の流れがガラリと変わったので、思わずフランの顔をまじまじと見る。


「いや、どうだろう。簡単なステップくらいは知ってるけど、それもあくまで元の世界のだし」


 俺も別に鈍い方ではないと思うので、今のフランの質問意図が分からない訳じゃない。ただそれだけに、不意打ち気味のこのタイミングは中々に動揺を誘ってきた。


「基本はそれほど変わらないはずですから、王都へ着くまでに練習しておきましょう。大丈夫です、リクに恥はかかせません」


 とても注意深く見なければ、そして彼女の表情を見慣れていなければ、きっと気付くこともできない程度にほんのり紅く染まった頬。これは、気付いてしまった俺の負け。


「……お手柔らかに頼むよ」


 様々な思いを込めて、俺はそれだけ返した。

鈍感系主人公は好みではないのです。

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