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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第三章 どうも、冒険者一年目の新人です
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第八三話 指名依頼

2018年における初めての更新!

いやぁ……大変遅くなりまして。

 翌日の朝、俺はドミニクさんとギルドで待ち合わせた。良い感じのクエストがあれば今日にも受けるつもりで受付に行き、そこに居たフランから開口一番に言われた台詞がこれだ。


「リクに指名依頼が入っています」


 指名、依頼……?


 発言者であるフランがやや困惑顔なのが、非常に気掛かりだ。

 というか俺みたいなぽっと出の冒険者に指名? フランの様子を見るに、アーデからの指名では無いだろう。というかアイツならきっと俺の家に訪問して要件を伝えてくる。


「内容は直接会って話すとのことですが……、依頼主はクラリッサ・エクスナー様です」


 あれ、おかしいな。紅紫のエクスナーと同姓同名じゃないか。いやぁ、不思議な偶然もあったものだなぁ。でもまさか最高ランクである七つ星の冒険者から、俺ごときに指名依頼なんて入る訳が無いし。


 周囲の喧騒が喧しく聞こえてくる。どうやらフランの言葉が少し聞こえたらしい。俺に対して集まっている視線が、憐憫の情を持っているような気がする。


「少しだけ、悪あがきさせて欲しいんだけどさ」


「はい」


 神妙な面持ちで、俺の茶番に付き合ってくれるフラン。本当に優しいなぁ。


「紅紫のエクスナー?」


「……はい」


 さて、確認作業終了。客観的には完全に不要だったけど、儀式みたいなもんだ。


 気持ちを切り替え、先程から何も喋らないでいる隣のドミニクさんを見る。


「ドミニクさん」


「おう、気兼ねなく行ってこい。俺は俺で別の依頼を探すからよ」


 白い歯を見せる実に良い笑顔で、スキンヘッドのタフガイは言った。


「いえいえ、一緒に行きましょうよ。きっと楽しいですよ」


 俺も少しばかり食い下がってみる。


「死んだ魚みてえな目で、心にも無いこと言ってんじゃねえよ!?」


「きっと報酬も良いですよー」


 薄ら笑いを浮かべて、ドミニクさんの手を掴もうとする。だが空振りに終わった。

 素早く俺から距離を取ったドミニクさんは、それはもう見事なターンを決めてギルドから出て行った。

 何かしら依頼自体は受けるつもりのようだし、このままここで待ち伏せしてみようか。しないけど。


「逃げられた」


 自分の発言だが、思いの外冷静な声だった。分かっている結果だったからだろう。

 仕方無しにギルドの出入り口から視線を外して、受付に居るフランへと向き直る。


「良ければ私が同行しましょうか?」


 すると、そんなありがたい申し出をしてくれたではないか。心が揺れる。


「……正直本当に助かるけど、無理はしなくて良いよ?」


 とはいえ本当に本当にお世話になっているので、決して無理はしないで欲しい。被害が俺だけで済むのなら、あえて彼女を巻き添えにするつもりは無い。

 そう、思ったのだけど。


「むしろリクを一人で向かわせる方が不安です。リク自身にその気が無くとも、トラブルの方がリクを放っておいてはくれないようですから」


 善意十割の槍が俺の胸を貫いた。辛い。とても辛い。


 フランの表情は至って真面目で、やる気に満ちていて。他の誰かが言った言葉ならば、負の意図も感じ取れただろうに。


「あー……、うん。その通りだね。反論の余地は無いや」


 俺は大人しく、彼女の厚意に甘えることにした。






 次の日の昼下がり。俺とフランはエクスナー邸を訪れていた。

 エクスナー邸はまさにお屋敷といった具合で、赤い煉瓦造りの趣きある建物だ。正面には庭園が広がり、大きな噴水やら数多くの石像やらが配置されている。石像のイメージは共通して、凱旋パレード中の英雄とでもいうべきか。一目見て剣士やら魔法使いやら分かる格好で、凛々しくも穏やかな笑みを浮かべていた。

 建物の中に入ると、これまた多数の石像が並んでいた。流石に屋内なので外のそれよりサイズダウンはしていたものの、やはり英雄の像といった風の堂々とした作品ばかり。また、複数の絵画が壁にかけられ、見たところ風景画が多いようだ。石像と絵画で、趣味が全く異なっている。


 なお今現在、俺達は使用人の案内で客間らしき一室に案内されて、出された紅茶を飲んでいる。


「……今まで飲んだことが無いレベルで美味しい」


 そして絶品だ。

 水色は濁りの無い深紅で、カップを近づけると緑の爽やかな香りが広がり、口に含んだ瞬間はやや渋みが強いかと思うが、それがすっと引いて豊かな味わいがやって来る。色、香り、味、その全てが非常に高い次元でまとまっている。

 繰り返す、絶品だ。


 ちょっとこれはもう、この紅茶の味を知ることが出来ただけで既に来た価値があったと言えるのではなかろうか。


「お褒め頂きありがとうございます」


 近くに控えていた侍女──つまりこの絶品紅茶を淹れてくれた張本人が、澄まし顔でそう言った。ただ、良く見ると口角が僅かに上がっているようなので、きっと喜んでくれてはいるのだろう。

 彼女の名前はルアラ・ハイランズさん。黒いロングワンピースに白いエプロンという、クラシカルなメイド服を着ている。アッシュブラウンの目と、赤みを帯びた金髪ショートヘアを持つ女性だ。


「ハイランズさんは、どなたかに紅茶の淹れ方を教わったのでしょうか?」


 茶葉の入手ルートとか淹れ方とか、本気で知りたいところなので話題を展開してみる。


「ええ、母に教わりました。母も私と同様に、ここで侍女として働かせて頂いていたもので」


 返ってきた言葉に少なからぬ矜持を感じ取れたので、この話題の方向は正解だったんだろう。という訳で、このまま攻めていこう。


 嘘を吐く必要も無く紅茶の話には興味があるので、ここぞとばかりに色々と質問をしてみた。打てば響くように返事が来るので、とても楽しい。フランも俺の意図を読んでくれているのか、適度に話題に入って話を円滑にしてくれる。


 そうして、ハイランズさんとの会話で暫し時間を使っていると。


「あら、随分打ち解けているようですわね」


 客間のドアが開き、部屋の外から金髪ツインドリルなお嬢様エルフ──クラリッサ・エクスナー様がやって来た。ワインレッドの目を愉快そうに細めてこちらを見ている。

 さあ、どんな素敵な事態が待ち受けているのかな。

七つ星冒険者、紅紫のエクスナー登場。

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