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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第七話 初クエスト4

◆◆◆◆◆


 目一杯疲れた。帰ったら寝よう。それはもうぐっすりと寝よう。


 討伐対象を結局一人で全滅させた俺──リク・スギサキは今、馬車に揺られてアインバーグへの帰路についている。依頼主である村長への説明は今隣に居るフランがほぼ一人で行ってくれて、とても助かった。


 また、今回の件は人の領域に魔物が踏み込むという非常に例外的な出来事であり、魔物の縄張り争いが原因で起こったのではないかという見解をフランが示したため、俺が討伐したコマンドブルの群れが元居た地域の調査を引き続き行うことになっている。そうなってくると既に村長からの依頼ではないので、その調査に対する報酬はギルドの金庫から支払われるらしい。

 何故そんな細かいことを俺が知っているのかと言えば、それは勿論俺が当事者になるからだ。それこそ何故だ。


「縄張り争いの結果、あのコマンドブル達が追い出されたんだったらさ。要するに追い出した存在はあいつらより強いって訳で。それなら俺じゃなくて、もっと経験を積んだベテランの冒険者に任せるのが賢い選択だと思うんだ」


 馬車の揺れが良い具合に眠気を刺激する中、重くなる瞼を頑張って上げながらフランに提案する。


「一つのクエストが別のクエストに派生することは今後もあります。慣れておくには丁度良い機会であると判断しました」


 まあ、そりゃそうなんだろうけどさ。今回みたいな件はそう特殊でも無いんだろうなって思ってるよ。でもさ、仮にフランの見解が正しかった場合、不自然な点があるんだ。

 何でコマンドブルの群れは、目立った(・・・・)傷の一つも(・・・・)無かった(・・・・)んだ?


「それよりも、今回は申し訳ありませんでした。戦闘の途中でサポートを入れる予定でしたが、結局全てをリクにお任せしてしまいましたから」


 一瞬、話題を変えたかったのかと邪推したものの。フランの表情を見ると本気で申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 罪悪感が俺を苛む。


「いやそれは良いよ。俺が勝手に一人で戦っただけだし。ただ、まあ、疲れは溜まってるから、ちょっと寝てて良いかなー……?」


 不明点は眠気を取った後でも精査できる。というか眠気に負けそうな状態で精査とか、片腹痛くなるわ。


「はい、問題ありません。到着したら起こしますから、リクは休んでください」


 フランから有り難い許可の言葉を貰ったので、俺は背凭れに身体を預けて仮眠を取ることにした。











「──ク。……リク。起きてください、リク」


 呼びかける声に応じて、意識が徐々に覚醒していく。馬車での仮眠にしては、妙に寝心地が良かったような気がする。


 あれ。何で俺、横になってんだ。今頭の下にある、何か良い匂いがする柔らかい枕とか、そんなの馬車の中にあったっけ?

 いや、え、馬車の中で横になれるだけのスペース……?


 にわかに覚醒を完了させた思考が、緊急事態とばかりに素早く上体を起こす。そして先程まで俺が枕にしていたものの正体を、視界に収めた。


「なるべくそっと起こしたつもりだったのですが、驚かせてしまいましたか?」


 太すぎず細すぎず、程よい肉付きの白く瑞々しい太ももである。そう、俺はフランに膝枕をして貰っていたということだ。


「いやそうじゃなくてさ。フランの起こし方は全く以って優しかったから何の問題も無いよ。そう、問題点はそこには無いんだ」


 コマンドブルの討伐報酬に、実はフランの膝枕が含まれていた可能性を考える。

 アホみたいな現実逃避だな。止め。


「寝てる間にフランの方へ倒れこんでたんだな、俺。ごめん、迷惑掛けて」


「いえ、リクは非常に大人しい寝相でしたよ。ただ、仮眠にしても質が良くないと思い、私の方から膝の上にリクの頭を動かしました」


 まさかの俺が原因じゃなかったパターン。


「……ありがとう。実際凄く寝心地は良かった」


 善意に対して感謝の言葉を述べるのは当然のことだ。だからひとまず礼を言った。でも、ここではそれ以外にも言うべきことがある。


「けど、今後あまりこういうことはしない方が良いと俺は思う。特に男にやると、自分は好意を寄せられていると勘違いする可能性がとても高い」


 フランがド天然なのはこの短期間できちんと把握した俺だけど、それでも今の俺の心拍数は平時より上昇してるから。


「……膝枕は男性へのご褒美になると聞いたことがあったのですが、それでも止めた方が良いのでしょうか?」


 小首を傾げて俺に問い掛けるフラン。


 ちくしょう、ご褒美になるってところは男としてどう頑張っても否定できない!


「ちなみにそれ、誰から聞いた情報?」


 ひとまず情報収集に専念することにした。正攻法で説得するのは、男としての俺の心が邪魔になる。


「フロランタン先輩から聞きました。リクも知っている、私と同じ受付の方です」


 あー、あのベテラン風受付嬢か。いや、先輩って呼ばれてるなら実際にベテラン受付嬢だったんだな。

 何やってんだあの人。


「リクも感じているとは思いますが、私は愛想が無いもので。周囲とのコミュニケーションの取り方を良く教えて貰っています」


 理由が理由だけに、責めるのも何だかなと思ってしまったじゃないか。でも、ここで念を入れてもう一つ質問しておこう。


「ついでに確認したいんだけど、もしかして『男女が二人きりで内密な話をする際には、物理的に距離を詰めるものだ』って言ったのも……?」


「はい、リクの推測通りです」


「何やってんだあの人」


 コミュニケーションの取り方には違いない。けど、ちょっと異性に対するものに特化してないかな。してるよね、そうだよね。

 後輩をフォローする優しい先輩ではあるだろう。けど、助言の仕方がおかしい。


「ひょっとして、そのフロランタン先輩から男を紹介されたことは無い?」


「何度かありますが、皆さんとても良い方達でしたよ。今でも付き合いのある方もいらっしゃいます。時折食事に誘って頂くこともありますが、都合が合わず断ってばかりなのが申し訳ないですね」


 うわぁ……。何て言うか……むごい。


 俺が微妙な表情になっていると、視線の先に捉えたままだったフランが俺から顔を背けた。若干、気まずそうに。


「……その、詰まるところ好意を向けられている、というのは私にも理解できています。ただ、ええと、何と言いますか……すみません、上手く言葉で言い表せません」


 意図せず、フランを視線で問い詰めてしまった。そのお陰で、意外にもフランがその辺り気付いていたという事実も発覚したんだけど。


「プライベートな話だし、無理に話す必要も無いよ。俺だって神様から受け取った能力をフランに話してないし。てかこの状態だと、俺も少し話さないとフェアじゃないか」


 問い詰めるつもりは全く無いので、話題転換も兼ねて俺の話をしよう。


「という訳で、ひとまず降りよう」


 目的地に到着した馬車の中で長話をするもんじゃないよな。

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