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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第七六話 訪問終了と問題発生

平和な終わりと平和の終わり、とサブタイトルに付けようかと思いましたが、内容に対してちょっと仰々しすぎたので現在のものに。

「大変、申し訳なかった」


 俺とマリアベルさんがダイニングに戻ってきて、ギルベルトさんが開口一番にそう言った。……土下座しながら。


「ギルベルトさん!? 何やってるんですか、顔を上げてください、立ち上がってください!」


 俺の予想の上というか、物理的には下にギルベルトさんが居てとても焦る。

 俺は慌てて屈み、ギルベルトさんの肩を掴んで身体を起こす。


「君は優しいなぁ……。こんな父親失格の男から、不当に無礼を働かれても文句一つ言わず。あまつさえ、こんな風に気にかけてくれるなど」


 少し強引に顔を上げさせたギルベルトさんの目と、俺の目が合う。光が無い。ハイライトが消えていた。


 俺はフランとアマーリアさんの二人に視線を送る。フランからは少し慌てたように首を横に振られ、アマーリアさんからは仕事をやり遂げた顔をされた。


「エル君のときも似たようなことを仕出かしたのに、同じことを繰り返すんだもの。少し強めに言わないと、駄目でしょう?」


 表情はそのまま、恐らくオブラートを何枚も重ねた表現でアマーリアさんから事情を説明された。


 ああ、やっぱりエルさんに対してもそうだったのか。そんな納得よりも、もっと大事なことがあるけれど。


「事情は分かりましたが、本当にそれが少し(・・)だったのか疑問です……」


 またしても強引に、今度は肩を貸してギルベルトさんを立ち上がらせる。


「そんなことよりお母さん、フラン、ちょっと聞いて欲しいことがあるの」


「今そんなことって言いました? 父親のことを、そんなことって言いました?」


 マリアベルさんが放った、容赦という概念が存在しない言葉。それを聞いたギルベルトさんの身体が重くなった気がする。速やかに椅子へ移動させよう。


「リク君、細かいことは気にしなくて良いのよ? それで二人に聞いて欲しいことなんだけど、リーオがリク君に初見で懐いちゃったの。私もう、びっくりしちゃって」


 俺がギルベルトさんを元の席に戻しているタイミングで、マリアベルさんはアマーリアさんの隣の席に座った。至極楽しそうに話を続けている。父親に聞いて欲しい、という気持ちは無いらしい。


「……場に居る女性の割合が高いと、男性の権限が著しく下がりますよね」


 ぼそり、ギルベルトさんにだけはしっかり聞こえる程度のボリュームで俺は呟いた。


「スギサキ君、いやリク君。何だか、君とはこれから、良い関係を築いていくべきである気がしてきたよ。先程までの無礼な態度、本当に済まなかった」


 目に光が少しだけ戻ったギルベルトさんから、そんなことを言われた。これは結果オーライというべきなんだろうか?


「元々怒っていませんから、お気になさらず。ただ、その言葉自体はしっかり受け止めます。これからどうぞ、よろしくお願いしますね」


 謝罪の気持ちが行き場を失うのは、精神的な辛さがある。だから、怒っていなかったのは事実だけど、言葉を突き返すことはしなかった。






 さてさて。そのまま雑談を少し続けていた俺達だが、ギルベルトさんの調子が大分回復した辺りで終了の流れになった。俺としては犬を触るという目的は達成されているし、フランを嫁に貰いに来たという誤解も完全に解けたので、上々の結果を得ている。特に後者は、今後もフランと行動を共にしていくであろうことを踏まえると時限爆弾になりかねなかったことであり、早期に対処できたのは素晴らしい。


「今日は本当に、ご迷惑をお掛けしました」


 敷地の門のところまで見送りに来てくれたフランが、神妙な顔で改めて頭を下げた。

 なお、ここまでの見送りは彼女一人だけ。どうにも気を使われた感があるので、ひょっとすると恋人関係くらいには勘違いされている可能性が……? いかん、そちらは特に否定していなかった。一応、友人として紹介されてはいたはずだけど。


「いやいや、似たようなことはもう言ったけど、父親としてのギルベルトさんの態度は同じ男として分からなくもないよ。そりゃあ今の俺は恋人も居ないし結婚したことも無い、勿論子どもだって居ないけど。それでもきっと、大事に育てた娘が嫁に貰われるかも知れないとなれば、冷静ではいられないんじゃないかなって思う」


 とりあえず新たに湧いてきた疑念は横に置いて、フランへの返答を優先する。


「ですが、リクの場合はもっと理性的に対応してくれる気がします」


 どうにも、フランからの俺への評価は相当に高いらしい。いや知ってたけど。再確認というか。


「それは買い被り過ぎじゃないかな」


 でも、軽く否定させて貰おう。未だ経験の無いことについて、はっきりしたことは言えないし。


 ……ん? そういえば、対応できる(・・・)ではなく、対応してくれる(・・・・・)と言われた? それは、当事者的な立場の人間が使う言葉では……。

 いや、口には出さないでおこう。フランも、意識して言ったようには見えない。


「でも、ありがとう。今日俺のために怒ってくれたことも含めて、嬉しかったよ」


 フランがあれだけ怒っているのを見たのは、実のところ今日が初めてだった。やはり彼女は、優しい人だ。


「あ……、その、どういたしまして」


 フランが少し照れたように、俯き気味に小声で言った。


「何やら妙な空気になったところで、そろそろお暇しようかな」


「その空気を作ったのは誰ですか!」


 打って変わって恨みがましそうな目で、フランが俺を睨む。なお、迫力は無い。


「まあ俺だけどさ。それじゃあ、また」


 ひらひらと片手を振って、フランに別れを告げる。どうせ明日とか明後日辺りにまた会うだろうけど。


「はい、また」


 思いのほかすんなり返ってきた言葉に、拍子抜けする。見ればフランが、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「リクがたまにトリッキーな言動をするのは分かっていますから。お返しです」


 俺は両手を挙げて、降参のポーズを取った。






 今日はシャリエ家訪問から三日後。昨日と一昨日は、クエストとして近隣の村付近に出現したという数頭のオークを狩っていた。正確には一昨日の昼に移動して、昨日の朝に狩りを行ったんだけど。

 クエストは三つ星のものだったけれど、中級冒険者をすっ飛ばして上級冒険者になった俺なので、経験くらいはしておくべきだと思い受注した。俺一人での受注だったため、フランと一緒にクエストを受けたときを思い出しながら行動していた。

 最近防具の更新を行ったためにまだ真新しさを感じさせる現行防具の黒い皮鎧は、依頼人から少し気にされていたのを覚えている。装備だけ立派な貴族のボンボンが調子に乗ってソロでクエストを受注した、と思われた可能性を考えた俺は、仕方なく五つ星のギルドカードを提示した。

 「あ、あぁあ……、貴方が、く、【黒疾風(くろはやて)】殿、でしたか。たい、大変、失礼致しました」と、しどろもどろに謝罪を受けたのを忘れない。にわかにそう呼ばれ始めているようですね、と苦笑しながら返答して、その後速やかにオークを討伐した。


 近隣の村には、もう伝わってたよ……。


 まあでもアレだ。少しでも怖いイメージを払拭すべく、終始穏やかな表情を心掛けて依頼人含む村人と接したし、討伐したオークの肉を提供したりしたし。

 そうそう、オークの肉って、本当に豚肉っぽい味がするんだよ。それもそこそこのお値段の豚肉に似てて。何となく猪肉に近い感じで癖が強いかと予想してたんだけど、良い意味で裏切られた。

 途中、野菜と一緒に煮込んだ睾丸を勧められたが、笑顔で断った。少し強引に勧めてくる村人が一人居たけれど、無言で笑みを深めたら大人しく引いてくれた。きっと彼と俺は分かり合えたんだろう。

 そんな出来事はあったものの、村人たちからは概ね好意的な印象を持って貰えたはずだ。こうして地道な印象操作──もとい、地道な活動を積み重ねていこうと思う。悪印象はこちらの行動を阻害しかねないからね。例えば将来、喫茶店を開いたときの俺の印象が最悪だったら、数ヶ月で店を畳むことになるだろうし。


 過去の回想としてはこんなところか。今日はまた何か、俺一人でも安全が確保できる難易度のクエストを受けようと冒険者ギルドに──


「リク君!?」


 ──やって来たところで、聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。


 見れば、受付に名も知らない受付嬢とロロさんが居て。受付嬢が困った表情を、ロロさんが焦った表情を浮かべていた。そして何より、その傍に決して軽くない傷を身体中至るところに負ったアンヌが居た。

 トラブルの香りしかしない。

基本的に平穏を長く堪能できない系主人公。

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