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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第六四話 出発前の朝

ナチュラルにアーデ抜きで行われる作戦会議。

◆◆◆◆◆


 やや肌寒さを感じる、薄曇りの空。そんな天候の朝に俺──リク・スギサキの部屋へと、一人の来客があった。


「おはようございます、リク。今朝は少し冷えますね」


 玄関口にてそう挨拶をくれたのは、青みを帯びた銀髪を肩まで伸ばした美貌の少女。フランセット・シャリエその人だ。


「おはよう、フラン。この分だと、今夜は結構冷えるかな」


 フランを部屋に招き入れ、椅子を勧める。事前に来る時刻を伝えられていたので、用意していた紅茶をテーブルの上に出す。茶請けにはクッキーを。そして俺も、対面の椅子に座った。


「ありがとうございます。……とても、良い香りの紅茶ですね」


 元の世界の紅茶でいうなら、近いのはダージリンか。最上級のマスカットフレーバーとまではいかないだろうけど、セカンドフラッシュの上級品くらいとは言える。


「近所にある喫茶店が、茶葉の販売も行っててね。店で飲んで気に入った銘柄も陳列されてたもんだから、思わず買ってしまったんだ」


 流石に店で出される紅茶と同等とはいかないだろうけれど、それなりに美味く淹れられたという自負がある。自分用に淹れた紅茶を一口飲んで、そんなことを思った。


「飲食店と言いますか、喫茶店を開くというのも良さそうですね」


 俺と同じく一口紅茶を飲んだフランが、そんなことを言った。割と最近フランに話した、俺の将来の展望についての話か。


「……確かに、それはそれで」


 色々な茶葉を、実益を兼ねて試すことができる。紅茶の飲み比べとか、楽しいに決まってるじゃないか。ブレンドも試さないといけないな。

 まあ、軽食くらいはメニューに必要だから、どっちにしろ料理の修業は必要だけど。そこに紅茶やコーヒーの淹れ方についての修業も追加される、と。

 ……今の内に、色んな喫茶店に通っておくべきだろうか。


「ふふ。最終的にどのような形で実現するにせよ、素敵なお店にしたいですね。今からこうして考えているだけでも、楽しさがあります」


「ああ、分かる。旅行の計画を立ててるときの感覚にも似てるかな」


 旅行は計画を立てているときが一番楽しい、なんて言う人も居るくらいだ。俺はそこまでは思わないけれど。


「はい、良く似ていると思います。それにしても、旅行ですか。ふと思ったのですが、喫茶店巡りの旅行というのはとても良いのではないでしょうか。純粋な旅行の楽しみと市場調査と、一石二鳥です」


 フランからの素敵な提案が来た。


「それだ! 俺達なら護衛を雇う必要は無いし、むしろ俺達が護衛として仕事をしても良い。一石三鳥と。……ああでも、金に困ってる訳でも無いし、仕事まで入れなくていいかな?」


 護衛中に何かトラブルが起こって、沈んだ気分を引き摺りながら旅行したくはないし。


「って、何となくフランも一緒に行く前提で喋ってたんだけど、一緒に行く?」


 気楽な一人旅というのも、決して悪くはないけれど。特に俺のような人間にとっては。


「ええ、是非ご一緒させてください。私からの提案と、お誘いの意味で言い出したことですから。それと、護衛の仕事までは入れなくて良いかと。場合によっては、日程に大幅なズレが生じてしまう可能性がありますので」


 むしろ先に俺の方が誘われていたという、衝撃の事実が発覚した。いやひょっとしたら、とは思っていたけど。


「フランはギルド職員としての仕事もあるし、そんなに自由に日程は組めないか」


 内心で若干動揺していることを自覚しつつ、なるべく表に出さないよう意識する。


「私以外の職員と比べれば、かなり自由に組めますよ。ギルド員としての活動が主で、ギルド職員は副業のようなものですから」


 そうなのか。いやそりゃそうか、上級冒険者だもんな。むしろ何故副業でギルド職員までやっているのか、疑問が出るくらいだけど。そう思ってフランにその疑問をぶつけてみたら。


「……最初は、リハビリテーション、のようなものだったのです」


 表情を硬くしたフランから、そんな想定外の言葉が返ってきた。


「一時期、人と接すること自体に、恐怖心を抱くような精神状況に陥っていたもので」


 根が深そうな話をうっかり掘り起こしてしまったらしい。どうしよう、心の準備が全然できてない。地雷原でタップダンスを踊る趣味は、持ち合わせていなかったんだけどな。


「俺から話題を振っておいてなんだけど、話したくないことなら無理に話さなくて良いよ? ただ、もし話してしまいたいと思っているのなら、俺はこのままフランの話を聞くことにする」


 ええい、けど自分がやったことの始末は着けるさ。来るなら来い! 無理にとは言わないけど!

 そんな微妙に逃げ腰の覚悟を、俺は決めたのだけど。


「では……いつか、お話を聞いて頂けますか……?」


 フランはともすれば怯えたような目で、俺を見てくる。

 となれば答えは決まっているか。


「もちろん」


 他ならぬフランからの話だし。

 俺は実にあっさりと答えた。


 フランは俯き気味に小さく息を吐き、こちらから今の表情は見えない。


「その、すみません。急に重い話をしてしまいました」


 萎縮した様子で顔を上げ、俺の顔色を窺うフラン。

 ふむ、こういう顔をして欲しくはないな。


「さっきも言ったけど、そもそも俺から振った話だからね。不用意に突っ込んだ話をして、俺の方こそごめん」


 さてどう反応が来るか。


 フランはしばし俺を見詰めてから、気を取り直したように口を開く。


謝罪合戦終了(・・・・・・)、でしょうか?」


「……ははっ。ああ、そうだね、そうしよう」


 それは数日前に俺が言った言葉。今後も使う機会がありそうな気がしてならない。


「さて、変な空気になったし話を変えようか。今日からのプチ遠征の話に」


 そう、今日から最低三日間、最大五日間を予定しているプチ遠征。メンバーは俺、フラン、アーデの三人。場所はアインバーグの西方向、シェルム森林。目的は、フォルストオイレとシャッテンカッツェのテイム、それとポーションの材料になる薬草採集。後者は常駐クエストといわれる、受注の必要が無く納品さえすれば良い類のものだ。取り尽してしまわない程度に、俺の容量上限不明なアイテムボックスへ放り込んでやる。


「シェルム森林って、トレントだらけの場所なんだっけ」


 中級の魔物、トレント。歳を取り魔力を増したエルダートレントは別として、中級の中では比較的下位にある魔物だ。


「はい。普段は通常の樹木に擬態していて、完全に見分けることは困難を極めます。とはいえ、リクのお陰で今回それは気にする必要の無いことですが」


「俺というか、エディターのお陰だけどね。それはともかく、今回はエミュレーター関連の問題が起きないと良いな。──もし起きたら、あっちの方が後悔するほど徹底的に殲滅してやる」


 これまでは実戦投入できなかった風の補助魔法も、今なら使える。DEXが1でも制御可能な状態にまで仕上げるのは、中々に骨が折れたけれど。維持が難しくなって、どうしても効果時間が短くなるんだよ。


「リクは時々、急に怖くなりますね」


「この世界に来てから抱く不満のほぼ全てが、エミュレーター・コピーに起因してるからさ」


 事の発端として考えると、どうもね。俺に何か恨みでもあるのかと、半ば本気で思うほどだから。


「それはともかく、問題はトレントとフォルストオイレが共生関係にあるってことか」


 トレントの移動速度は非常に遅いが、奴らが養分としているのは生物の死体だ。獲物が向こうからやって来る必要がある。そのため、トレントは自身の枝から栄養価の高い実を付けておびき寄せる。

 フォルストオイレはトレントの近くに獲物を誘導する代わり、その実を食べるしトレント本体を寝床にもする。梟なのに肉食じゃないのか、と思わなくもないけれど、気にしないことにした。


「遠距離からフォルストオイレだけを攻撃して、誘き寄せられれば良いのですが……、トレントの近くには薬草が生えていることも多いですから」


 薬草目当てならどっちにしろ接近する必要がある、と。トレントの養分になるはずだった分が一部、薬草にも回ってるんだろうな。……そう考えると、随分と業の深いポーションが作られることになる気が。いやこれ以上考えるのをやめよう。農作物の肥料の話にも似ている。


「俺が風の補助魔法も使いつつダッシュで薬草だけ取ってくる、ってのも可能ではあるだろうけど。薬草が傷むよな、それだと」


 引き千切るような採取になるはずなので、保存状態が悪いどころの騒ぎではない。


「やはりトレントを討伐してから、目的を果たすべきでしょうか」


「その方が、かえって楽かな」


 上級冒険者が二人居る訳だし、中級の魔物を回避するよりは討伐した方が早いだろう。

フランの過去話は後ほど。

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