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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第六一話 俺と彼女の力関係

会話主体の話が続いています。

「ああ、やっとすっきりした」


 自室の風呂で汚れを落とし、土の匂いを纏っていた不快感から解放されて、今はタオルで自分の身体を拭きながら。俺は思わずそう呟いた。


 部屋ごとに小さいが風呂場の完備されたこの宿は、現代日本人の感覚としてはやはり有り難い。割と無理矢理前世の記憶を引き継いでこっちの世界にやってきた俺なので、少々の不便は我慢しなければと思っていたけれど。こうして誰にも邪魔されず風呂に入れる環境というのは、素晴らしい。


 さて、珍しく長く風呂に入っていたことだし、そろそろあのストーカー男も街に戻っているだろう。ギルドに行ってエディターを返して貰いに行こうか。

 俺はアイテムボックスから服を取り出し、それを着る。


 コンソール(・・・・・)を展開(・・・)。マップを表示し、武具屋にて対象(・・)を発見。


 思った通り街に戻っていたので、安心してエディターを返して貰える。……手元にエディターが無い状態でコンソールを展開するのは疲れるな。

 いやまあ、とにかく出よう。


 ギルド目指して街中を歩いていると、周囲からの視線を感じた。特定の誰かから、という訳でもないようで、先程から複数の目に見られている。

 フランと並んで歩いているときは俺にもついでのように視線を向けられることがあったけれど、俺一人でいる今視線を向けられるとは。

 まあ良いか、と自分の中で片付けて、俺は歩き続ける。


 ギルドに到着するとほぼ一斉に、中に居た数十名からの視線を集めた。何だ、俺の顔に何か付いてるのか。


 今までに無い事態に対して俺が反応に困っていると、受付に居たフランの先輩、フロランタンさんが手招きをした。良く分からないが、行くとしよう。


「アンタ、この短期間で大活躍だね。再生能力を付与する魔法具を持ったジェネラルオークを、少人数で討伐だなんて」


 耳が早い、と言いたいところだけど、周囲の様子を見るにこの話は既にある程度広まっていると見るべきか。けれど何故そんな急に拡散した。


「あのギルドマスターが珍しく上機嫌で言ってたよ。『ラインハルト以来の期待の新星だ』って」


 そうか、アンタの仕業かギルドマスター。納得したよチクショウ。

 背後から聞こえてくる幾人かの声も、俺のことを話しているのが分かる。


「そうそう、アンタが来たら中に通してくれってフランから言われてたんだ。とりあえず行っといでよ」


 俺、ギルド員ではあってもギルド職員ではないんですけどね。関係者以外立ち入り禁止のエリアだと思うんだけど、何で俺はこんな全面的に立ち入り許可されてんの? いや行くけど。


 俺の話で盛り上がっているらしい人々の声を聞き流しながら、俺は建物の奥へと入っていく。擦れ違う職員から、彼女ならあっちの角を曲がった突き当たりの部屋だよ、と質問してもいないのに教えられたりして、だから何で俺の存在が普通に受け入れられているんだと内心ツッコミを入れていた。

 そんな途中経過を挟み、今は目的のドアの前に到着。ノックをすると返事が来たのでドアノブを回し、中へと入る。


 部屋の中では書類を広げたテーブルの前にフランが居て、こちらを申し訳なさそうな目で見上げている。そして立ち上がり、俺の目の前までやって来る。


「すみません、リク。虚偽にならない範囲でできるだけ大人しい報告にしたつもりだったのですが、その思惑を見透かしたギルドマスターには無駄な抵抗だったようで……。今のところ誇張こそありませんが、今回の件、随分と広まってしまいました」


 いや待った、ギルドマスターに直接報告したのか?

 その疑問をフランにぶつけると、最初は直属の上司に報告していたところへ偶然(・・)通りかかったギルドマスターが詳しい話を聞きたいと言ってきた、という答えが返ってきた。

 それ偶然じゃないだろ絶対に。


「ええ、私も本当に偶然だったとは考えていません。ギルドマスターはどうあっても、リクを英雄に仕立てたい様子です」


「俺、あのギルドマスターの琴線に触れてたのかな。むしろ、逆鱗に触れてた可能性が……?」


 気に入られたのか、気に食わないと思われたのか、もう分からない。


「逆鱗ということは無いかと。もしそうであれば、五つ星冒険者にはしていなかったはずです」


「そりゃそうか」


 何せ自分の権限で等級を上げた冒険者だ、攻撃のつもりで行動を起こす理由は無いだろう。俺からすれば既に立派な攻撃だけど。


「逆にそれなりの自己顕示欲があるように見せかけた方が、かえって良かったか……。失敗した」


 ギルドマスターからすれば、戦力になる人間が大人しくしているというのは宜しくないということだろう。俺は意思表示のつもりでやったことだが、逆効果だったらしい。


「本当に、すみません、リク……」


 どんよりとした負のオーラを俺が全身から放っていると、フランが再度謝ってきた。俺に負けず劣らずどんよりしている。


「気を遣ってるとかじゃなくて、フランが悪いとは微塵も思ってないよ。だから謝らなくて良い。むしろ俺の方こそ気を遣わせてごめん」


「いえ、私の方が現に今リクに気を遣わせてしまって──」


「はいストップ。俺達はお互いを悪いと思ってないけど、自分が悪いとは思ってる。それを謝罪した。だから謝罪合戦終了」


 手と言葉で制し、フランの発言を遮る。


「……はい、分かりました」


 呆気にとられた様子で、けれど不満は無さそうにフランは言った。


「ああ、そうです。ケンドールさんが無事街に戻られたので、エディターをお返ししますね。ありがとうございました」


「ん、どういたしまして」


 フランから差し出されたエディターを受け取り、そのままアイテムボックスに収納──しようとして少し考える。


「どうかしましたか、リク?」


 じっと手元にあるエディターを見詰めていると、やはりと言うかフランから質問が来た。


「エディターの使ってない機能、やっぱり使うべきかなって思って」


 アーデにエミュレーターの機能を使えと言ったばかりなので、俺も活用できる機能は活用しようかと思った訳だ。


「使っていない機能、ですか」


「一言で言えば、変形機能だね」


 変形、とフランが小さく俺の言葉を繰り返した。


「実はエディターの基本機能、俺だけは手元に置いてなくてもある程度は使えてさ。制限が大きい上に負担も馬鹿にならないから普段は使わないんだけど、フランにエディターを預けて俺が前衛を務める機会って今後増えてくると思うんだ。でもその時、フランの手元に両手剣があっても武器として使えないのは勿体無い。だから変形機能を使う」


 立ち話も長くなってきたので、ひとまず座ることにした。フランに勧められたところへ俺が座ると、当然のようにフランが隣に座ってくる。まあ問題は無い。

 コンソールを起動し、製図ソフトを立ち上げる。体積のある三次元構造──ソリッドモデルで表現された、両手剣の形のエディターが画面に現れた。


「変形後の形はある程度自由に設計できるけど、変形自体はそんなに高速では行えなくてね。戦闘の合間にならできても、戦闘真っ只中にできるほどの余裕は無い。だから俺は色々と武器を揃えたりしてる訳なんだよ」


 フランに話し掛けつつ、ソリッドモデルを切断し結合し、別の形へと変えていく。


「試作だし、ひとまずこんなところで良いか」


 とある機能(・・・・・)との連携を設定してデータを保存し、製図ソフトを終了。エディター本体をフランに差し出す。


「私が持てば良いのですか?」


 俺が首肯すると、やや恐る恐るといった様子でフランはエディターの柄を握った。その瞬間、エディターの変形が始まる。


 剣身の刃と腹の部分が分離し、刃の方が更に複数に分割。腹の部分は棒状に変わり、その先端には分割された刃が、放射状の位置取りで固定される。やや物騒だが、一輪の花に見えなくもないデザインだ。


「変形に掛かる時間は一秒程度でしょうか。確かに、戦闘の最中では致命的な隙になりかねませんね。速度を重視するリクの戦い方では、特に」


 分析から入るんだな、フランは。かなり予想はできてた。


「それとこれは……、魔法の半自動制御機能、ですか?」


 先程連携させた機能に気付いたらしいフランが、こちらに顔を向けた。


「魔法発動時のINT極振りと魔法操作時のDEX極振りをすると、どうしても複数の魔法を使うには厳しいものが出るからさ。術者の周囲に展開する防御用の魔法なんかはプログラムを組んである程度自動化して、攻撃に集中できるようにしたら便利かと思ったんだ」


 ある魔法を連続極振りのベストな状態で使用するとして、その途中に別の魔法を発動させようとすればINTに値を割り振る必要が出る。けれどDEXを最低値にしてしまえば魔法制御に対する補助が失われる訳で、精密操作を必要とする場面では大変危険だ。そのリスクを抑えるため、比較的複雑な挙動が必要無い防御用の魔法をエディターの方で制御できれば良い、と俺は考えた。


「なるほど。リクが移動用に使用する風魔法も、エディターで制御できれば楽になりますね」


「あー……、それなんだけど」


 フランの着眼点は大変素晴らしいんだけど、それには残念ながら落とし穴がある。


「そもそも半自動制御は後付けの機能というか、アナライズモードの改変なんだよ。アドレスサーチを使用者の魔法に特化させることで実行可能になる機能だから、本来のアナライズモードの機能は使えなくなる。敵を斬っても、そのアドレスに干渉する権限を獲得できなくなるんだ。そういう訳で、基本的に俺は使わない機能というか、使えない機能だね。優先順位は本来のアナライズモードの方が高いから」


 両立できれば良かったんだけど、マシンパワーが足りないとでも言えば良いのか。例えば高性能なパソコンでも、パーソナル(・・・・・)コンピュータ(・・・・・・)の域を出ないマシンに円周率の計算を何兆桁もさせようとすれば、簡単にパンクする訳で。


「では……わざわざ私の為に、作ってくれた機能なのですか?」


 何処か探るような視線で、フランはじっと俺の目を見つめてくる。


「ええと、まあ、物凄く好意的に解釈して貰えるならそうなるけど。でも結局のところ俺にとって後衛の戦力アップな訳だから、自分の為だよ。ついでに言えばまだ完成はしてないし」


 こうすればフランの負担が減る、なんて思わなかったと言えば嘘になるけど。


「それなら私は、物凄く(・・・)好意的に(・・・・)解釈しますね。ありがとうございます、リク」


 仄かに、けれど屈託無く笑みを浮かべるフラン。天然小悪魔系かな?


「……どういたしまして。いやぁ、うん、やっぱり基本的に勝てないなぁ……」


 下手に長引かせても結局は敗北する未来しか見えないので、大人しく引いておくことにした。

 しかし、俺が小さめのボリュームで続けた言葉に対して疑問に思ったか、フランは不思議そうにこちらを見てくる。


「それはそれとして、半自動制御は近い内に実用レベルにまで仕上げておくよ。長杖形態ももう少しブラッシュアップしておきたいし、その内フランから意見を聞くことになるかも知れないから、その時はよろしく」


 ともあれこの話は終わらせよう。どうにも旗色が悪い。


「ええ、分かりました。……ふふ。リクは褒められたり感謝されたりすると、途端に弱くなりますね」


 フランの上辺だけとは到底思えない柔らかな態度や表情が無ければ、俺も普通に対応できるんだけどね。


「はいはい、俺の負けですよ。だからそろそろ勘弁してください」


 ぶっきらぼうに敗北宣言をすると、フランは笑みを深めた。それでも尚、嫌味っぽさは微塵も無いのだから凄い。

厚意とか善意とかに対して、免疫があまり無い主人公です。

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