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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第五三話 ジェネラルオーク

サブタイトルによるダイナミックなネタバレ。

適当なのを思い付かなかったんや……。

 空から森へ、数多の氷柱が降り注ぐ。氷柱の一つ一つが熟練の職人の手による刃物のごとき鋭利さを備え、尚且つ標的の急所を的確に貫いていく。

 隣に居たゴブリンが首から上を失ったことに気付いた別のゴブリンが、次の瞬間には自身の首を失っている状況。それを少し離れた位置から目撃した更に別のゴブリンが逃走を開始しようとして、背中から心臓を貫かれる。

 魔物側の混乱は瞬く間に広がり、蹂躙は激化する。


 その光景を生み出しているフランの傍にはアーデが控え、勇敢にも接近してきた個体を速度で翻弄し仕留めていく。その右手には彼女の得物であるエミュレーターが握られていたが、左手には俺が貸与したナイフがあった。


 俺はと言えば、蹂躙が繰り広げられている場所から離れ、静かに身を潜めている。別に怠けている訳ではない。機をうかがっているだけだ。

 俺は何に対して言い訳をしているのか不明だが、ともあれ状況が動いてきた。中央に居る三頭以外、その他十頭のオークが全て二人に向かって走り始めたのだ。


 うろたえるアーデに、フランが叱責しているのが見える。中級冒険者クラスの戦力でしかないアーデにとって、中級の魔物が十頭も一度に迫ってくるというのは恐怖を感じずにはいられない光景なんだろう。

 さて俺も働くか。


 INTに極振りした状態でモノ・ウィンドを発動、直後にDEXへ極振りし現状の俺に可能な最高精度の操作で風を余さず移動力に変換する準備を整え、風が俺に触れる瞬間にAGIへ極振りしてロケットスタート。木々の隙間を抜け、ゴブリンやオークの頭上すれすれを悠々と飛び越え、オークの群れの中心へと降り立った。


「できればこれで死ね」


 平坦な声で殺害予告をしながら、エミュレーター・コピーを持つ個体にエディターの切っ先を突き出す。


 かつん、と軽い金属音。AGI極振りのまま最速で放った俺の突きは残念ながら、俺が狙いを定めたコマンドオークの両脇に控えた二頭のソルジャーオークが交差するように構えた戦斧によって遮られた。

 まるで最初から奇襲を警戒していたかのような淀みない動きに、俺も不気味なものを感じる。陽動があからさま過ぎたかと思いつつ、通常のオークは変異種も含め戦術を理解するほどの知性を持たないことをフランから聞いていた。


「自発的な戦術行動だけなら予めセッティングできるけど、こちらの動きに対応した動きってなるとなぁ」


 溜息混じりにぼやきつつ、防いだエディターごと俺の胴体を薙ぎ払わんとするふた振りの戦斧をバックステップで回避した。そのまま二、三歩下がって距離を取りながら、ナイフを投擲。やや甘い軌跡を描いて片方のソルジャーオークの顔に向かうが、あっさりと避けられてしまった。けれど、狙った方の足だけを止めることには成功した。

 俺が狙わなかった方のソルジャーオークはこちらに追撃を仕掛けようと、既に間合いを詰めて戦斧を振り上げている。俺の狙い通りに(・・・・・・・)


 カウンターマクロ起動。俺に向け振るわれる戦斧にタイミングを合わせ、こちらもエディターを振るう。インパクトの直前からVITに極振りした防御力により敵の攻撃の勢いを殺し、STRに極振りした攻撃力で戦斧ごとソルジャーオークの首を断ち切る。

 続けてもう一方のソルジャーオークを仕留めたいところだったが、コマンドオークの方がこちらにタックルを仕掛けてきた。已むなく距離を取り、様子を窺う。


 コマンドオークは俺の方をじっと見て、低い唸り声を上げる。威嚇のつもりだろうか。

 ソルジャーオークはじわりじわりと距離を詰めてくる。


 ここでマップを確認すると、周囲に展開していた一部の魔物が俺の方に向かって来ていた。あまり悠長にはしていられないか。


 改めて、目の前の変異オークの姿を見た。どちらもヒトとブタを足して、二で割らなかったような姿をしている。身長については俺の三割増しほどだろうか。上半身は裸で、下半身は布製のズボンの上から金属製のプレートを付けている。


 俺の方から動く気配を感じなかったからか、ソルジャーオークが飛び掛かってくる。勢力の多寡は圧倒的にこちらが不利なのに、堪え性の無いヤツだ。


 俺の胸ほどの高さで、戦斧が水平に振るわれる。屈んで避けた。

 低い姿勢を保ったままソルジャーオークとの距離を詰め、右太腿にエディターを深々と突き刺す。


 ソルジャーオークが絶叫しながら狂ったように戦斧を振り回し始めたので、また距離を取った。

 非常に近付きたくない。戦斧の間合いに入らず、俺の風魔法で仕留められるだろうか。そんな日和った考えを浮かべていると、ソルジャーオークの絶叫を掻き消すほどの大音量でコマンドオークが咆哮した。エミュレーター・コピーを両手で持ち、何故か刃を自分自身の方に向けている。

 強烈に嫌な予感がする。こちらに攻撃が向かうより、ずっと性質の悪いことが起ころうとしている。そんな確信めいたものがある。


『モノ・ウィンド』


 移動マクロを起動し、手前のソルジャーオークを迂回してコマンドオークへの直線ルートを開く。再度移動マクロを起動しようとしたが、ソルジャーオークが割り込んできた。


「邪魔だ……ッ!」


 出鱈目に振り回される戦斧をエディターで弾き、がら空きになった胸部へ左の手のひらを据える。そしてINTへ極振りし、


『モノ・ウィンド!』


 貫通力だけを追求した初級風魔法を放つ。まるで杭でも打ち込んだような音が鳴り、ソルジャーオークの口の端から血が零れる。

 ソルジャーオークが仰向けにゆっくりと倒れる傍を走り抜けるが、どうやら遅かったらしい。コマンドオークは自身の胸部に深々と、エミュレーター・コピーを突き刺していた。


 黒いオーラのようなものが、コマンドオークの胸元から溢れ出る。それは周囲の木々を取り込み、操られたように近付いてきた魔物を取り込み、俺をも──


「いや冗談じゃないし」


 ──取り込もうとしたのでその場を離脱した。


 コマンドオークが立っていた位置には、今や黒い繭のようになった球体がある。それはあのコマンドオークを十分覆えるだけの大きさを持ってはいたが、取り込まれた(・・・・・・)その他多数の動植物を含めて収めるにはあまりにも小さい。

 エディターのマップ上に表示されるのは「■■ネ■■オー■」と、いつぞや見たバグ表示と同系統と思われる文字列のみ。まあこの場合、新たな変異オークってことだろう。


 試しに足元に転がっていた石を投げてみたが、繭の表面にぶつかってそのまま取り込まれていった。まるで底なし沼。風魔法を放ってもみたが、結果は似たようなものだった。

 下手に接近しては俺まで取り込まれる危険性があるので、この場は一度離脱するしかないか。そう判断し、多数の魔物を引き付けてくれているフランとアーデのところまで走る。


「異常事態のようですね。一度引きますか?」


 こちらの様子もしっかり確認していたらしいフランが、魔法を操り魔物の相手を継続しつつ質問してきた。話が早くて助かる。


「フランの上級水魔法をアレに一撃入れてみるってのは有りかも知れないけど、逆効果の可能性もあると思ってる」


 現に、俺の風魔法は取り込まれたからね。初級とはいえINTに極振りした一撃だったってのに。


「ひとまず引こう? 今のアレに攻撃するのは無駄だからね」


 あの繭について分かっていることがあるらしいアーデからの言葉だった。

 反対する理由はあまり無さそうだったので、俺もフランも首を縦に振る。詳しい話は離脱してからにしよう。






 撤退中にフランのMPを回復しつつ、この後の方針を話し合うことにする。


「まず、あの黒い繭について説明をして貰おうか」


 アーデに意図して鋭い視線を送り、黙秘を許すつもりが無いことを伝える。


「そんな怖い顔しなくても、ちゃんと話すってば。……あれは、内から外への移動を遮断した状態なんだ。その代わりに、外から内への移動だけは通す。だから今攻撃しても全て無駄。中で厄介な変化が起こってるのを知ってても、手は出せない」


 普段とは打って変わって真面目な表情を見せるアーデ。もっと早くにその情報を聞いておきたかったが、俺もエディターの情報をかなり伏せていたのでお互い様か。


「その厄介な変化というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか?」


 今度は思案顔のフランが問い掛けた。


「取り込んだものを分解して、再構築するの。多分、あの状況からするとコマンドオークがベースになってるはずだから、その変異種が出てくると思って貰った方が良いかな。けど、自然発生する変異種とは同じだと思わないでね。あくまでベースなだけで、そこに色んな要素が組み込まれるから」


 動物愛護団体から批判が殺到しそうな話を聞いている気がする。まあ、この対象は動物というか魔物だけど。魔物愛護団体なんてあったら悪夢だな。世の中には想像を絶する馬鹿も居るし、下手すると本当に存在するかもしれないが。……嫌なフラグ立ててないよな?

 気を取り直して、話を続けよう。


「オリジナルのエミュレーターで外からクラッキングを仕掛けることは?」


「クラッキング……? ええと、外からどうこうすることはオリジナルでもできないよ」


 微妙に単語が通じなかったらしい。それでも文脈判断で意味を推測してみせたようだけれど。


「オリジナルなのに?」


「うぅ、言わないでよー。そもそもの機能としてそういう風に作られてるんだから、仕方ないでしょ。他者の介入を拒絶する性質なんだから」


 ふむ? その割には、エディターで多少の情報は読み取れたが。いや逆に、エディターですらある程度は拒絶されてしまう程に強固な性質ということだろうか。


「繭の中から魔物が出現するまで、あとどのくらいの時間があると考えますか?」


 俺が脱線させがちな思考を走らせていると、フランが本題に戻した。会議の司会進行なんかを任せると適任かもしれない。


「短ければ今すぐにでも、長ければ数日後かな」


「短かったみたいだな」


 マップ表示でずっと状況を確認し続けていた俺は、フランとアーデにそれを見せる。先程黒い繭があった地点にて、ジェネラルオークという表記が現れていた。

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