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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第五〇話 エミュレーター・コピー1

トラブル対応中に別のトラブルが割り込んでくる系の話。

◆◆◆◆◆


 さあ、俺ことリク・スギサキが、ストーカーことアレックスの行動記録を一日の終わりに手紙として贈ること三日目。一日目の夕方に絶叫が少し聞こえてきたので、きっと効果は出ているだろう。何せ二日目から、外出がほぼ無い。

 ……そうなんだよ、外出がほぼ無いんだ。だから書くことが非常に少ない。起床時間は書けるけど、それ以外が中々増えてくれない。一応食料や水の買出しには出かけているが、所詮はその程度なんだ。

 ジャパニーズホラーの如く、じわりじわりと恐怖を染み渡らせたかったというのに、これでは浅漬けのようなあっさりとした恐怖に留まる。しゃきしゃき食感で実に爽やかな噛みごたえですね。くそう。

 ここで俺がアレックスの前に登場して、フランへの付き纏いをやめるように言えば、まあ普通にやめる気はするけど。そのくらいには恐怖も与えられたと思うけど。でもなー、色々考えてたんだけどなー。


 極限にまで恐怖に塗れたあいつが俺に泣きながら謝ってくるのを待って、でも俺は謝罪を受け入れなくて、こう言うつもりだったんだ。「ご安心ください。俺の方から貴方に対し剣を振るうことはありませんから」って。

 んで、こう言うんだ。「俺はただ、貴方が恐怖と狂気に呑まれて発狂し、こちらに切りかかってくるのを待つだけです」って。

 そしてトドメにこう言うんだ。「貴方が発狂するのは明日? 一週間後? 一ヵ月後? 一年後? それとも──今この瞬間でしょうか?」って。


 その台詞が使えるかどうか、もう全く分からないけどな!


 仕方無い、フランへの付き纏いさえ無くなればそれで満足しよう。そこは最低条件だったからね。

 そうと決まれば早速お話し合いに……と思ったらアレックスが部屋を出た。はて、何処に向かっているのだろうか。


 俺は自分の部屋を出て、アレックスの後を追う。と言っても、奴の視界には絶対入らないよう距離を置いてだ。俺の方からはマップ表示があるので、幾らでも追跡できる。


 到着したのは、冒険者ギルド。予想外である。今日はフランが受付に居ないようなので、そこは安心だ。


 数分後、奴が出てきた。クエストを受注したのだろうか。ここ数日はほとんど引き篭もってばかりだったので、そろそろクエストに出て気分転換でもしようと? だとしたら意外と元気だ。いかん、俺の計画が崩れ去る。

 場合によってはエディターの機能について、実演を交えて説明してやる必要があるか。お前は死ぬまで俺から逃げられないし、ステータスを無茶苦茶に弄って冒険者として再起不能にもできるんだぞって脅すか。強硬手段にも程がある。芸が無くて面白くないけど、まあ手段の一つとして考えておこう。最低条件だけは絶対に満たすんだ。


 アレックスは自室に戻り、装備を整えて出てきた。やはりクエストを受けたのだろうか。ともあれ追いかけよう。と、ここで念話が入った。


『リッ君、今ちょっと良いかな!?』


『断る。取り込み中だ』


『でもゴメン、緊急事態!』


 俺は即座に断ったが、念話の相手であるアーデは押しが強かった。


『アインバーグのすぐ近くに、エミュレーター・コピーの反応が出てきたの!』


 そうか、それは緊急事態だな。……はぁ!?


『今まで気付かなかったとかじゃないだろうな!?』


『違うよ! 北の方に突然現れたの! ワタシは現地に向かってるところだから、リッ君も来て!』


 エディターで表示しているマップを広域に切り換え、アーデの現在地を確認。アインバーグの商業区画である北側の検問付近に居た。続けてエミュレーターを検索。アーデが持つオリジナルの他、更に北の方に反応が一つ。アーデが言う通り、そこにコピーがある。


『あー……、クソ。念のためフランを呼んでから俺も向かう。ちゃんと合流してやるから、先行し過ぎるなよ!』


 今度は何が起こるやら。というか、何でいきなり出現した。この一帯には、エディターのコピーなんて存在してなかったってのに。


『……リッ君がデレた!? ワタシの心配してくれた!? え、何、具合悪い? 無理しないでよ?』


『よし、その喧嘩買った。後で覚えてろ』


『あ、ゴメ──』


 謝罪の言葉が聞こえてきていたが、一方的に念話を切断する。確かに普段の俺の対応がアレなので、情状酌量の余地は無いでもない。なので程々に苛めてやろう。苛めないという選択肢は無い。

 さあ、ともあれフランと合流するか。アレックスはひとまず放置……というか向かっていったのが奴も北の方なんだよな。厄介なことにならなきゃ良いけど、フラグ立ってるからどうせ厄介なことになるんだろ。俺は知ってるんだ。

 或いは街中で奴を仕留めて──もとい、行動不能にしておくべきか? 街人からの俺の評価どうなるよ、それ。目撃者を絞れる脇道でならまだしも、奴は大通りを通ってるし。やっぱり奴は放置だな。もし巻き込まれたなら、その時は自身の不運を存分に呪え。


 些細な問題を放置することにしてフランへ念話を飛ばすと、ろくに事情も聞かず合流地点は何処かという質問が返ってきた。北の検問だと言って、俺もそちらへ向かう。


 AGIを弄った俺が先に検問に到着し、その数分後にフランが到着した。


「遅くなりました、リク」


「むしろ、急な呼び出しに応じてくれた時点で感謝しか無いよ」


 相変わらずなフランに、苦笑交じりの返事をした。


「移動しながら話しましょう。状況を教えてください」


 とのことなので、まずは移動か。






 エディターのコピーがあるのは、北の検問を出て更に五キロほど北東に移動した位置。その辺りには小規模な森があり、ブルやゴブリンなどが生息しているらしい。そして今、コマンドブルやコマンドゴブリンが増殖している真っ最中だ。その勢いは、マップに表示された全ての個体を変異させんばかりで。


「……はぁ」


 食べ物にカビが生えていく様を、早送りで見ているような気分だ。いやそんな映像があるのかも分からないが。誰得なのかも分からないが。ともかくそんな気分だ。


「リク、気持ちは分かりますが溜息はやめましょう」


 あからさまにテンションを下げる俺に、フランが注意した。けれど前半部分に同意の言葉が入っていた辺り、フランとしてもきっと溜息を吐きたい状況なんだろう。


「分かったよ、フラン。……ブルとゴブリンは合わせて百頭くらいかな。そして十数頭のオークも、コマンドオークだのソルジャーオークだのにパワーアップしていってると」


 今現在、俺とフランは走って現地に向かっている。アーデは先行していたので、まだもう少し先だ。なのでここで少し考察でも挟もう。


「元の魔物が弱い場合は、強く影響を及ぼせる可能性が……?」


 その仮定が正しいとすれば、その本質は俺のエディターに近いのかもしれない。……どうやらこっちも、黒の神授兵装である可能性があるようだし。エミュレーター・コピーの情報を解析して、既にその可能性は非常に高くなっていた。

 機能こそ違えど、幾つもの類似点があるんだ。例えるなら、エミュレーターがとにかく機能を盛り込んだ試作機で、エディターが使い勝手を良くした正式仕様機のような……。


「変異の速度をコマンドワイバーンの一件と比較するなら、その可能性は高そうですね。ただ、そうであると断定するには情報量が心許ないのですが」


 俺がやや不穏な推測をしている中、一歩引いた見解を述べるフラン。確かにその通りではある。比較対象がたった二つだけじゃあな。


「とりあえず、弱い魔物についてこの意味不明な速度で変異を起こせるのは確かな訳で。でもオークって一応中級の魔物だったような」


「中級の中では比較的下級に近い魔物ですが、その変異種となるともう少し危険度も上がりますね」


 ああ、やっぱりそうだったか。いや、俺もこの世界の常識を少しずつ学んでいってるんだよ。いつまでもフランに頼りっきりという訳にはいかないし。


「しっかし、アインバーグの近辺でことが起こったのは良かったのか悪かったのか。これ、普通の冒険者じゃ原因不明で、現場は変異種を大量生産する呪われた土地って結論にでも至ってた可能性が高いんじゃないかな?」


 俺はアーデと出会ってから、毎朝欠かさずエミュレーターをマップ検索している。なのでアーデが今回のコピーに今まで気付かなかったというのは、俺に対しても実は当て嵌まる。アーデには絶対に言わないが。

 ここで問題となるのは、どのようにしてそのコピーが現在の場所にやってきたのか。現在時刻は午前十時を少し過ぎた程度で、俺が検索を行ったのは午前八時。つまり二時間強の内に、俺の広大な索敵範囲外から持ち込まれたということになる。実は元からその場にあった、と言われた方が納得できる状況だ。


「……むしろ既にそういう扱いを受けている土地を調べてみる、というのは非常に有効そうですね」


「あー……、そういう発想も、有りか」


 逆転の発想と言うか。でもそれは非常に面倒な状況に、積極性を以って首を突っ込んで行くことになるけれど。


「気乗りしない、ということが如実に現れた声でしたね」


 隣を見ると、フランが苦笑していた。全く良くお分かりで。


「最終的に中級冒険者くらいまで等級を上げて、その後飲食店でも立ち上げようかと思ってた男だから。必要以上の危険にこの身を飛び込ませるほどのアグレッシブさは無いかな」


 とは言いつつ、何者かの陰謀に半分くらい飲み込まれているような感覚が既にある。今となっては既に上級冒険者になっていることもあるし、もっとレベリングをしなければ。幸いにも、優秀な協力者だって居てくれている。


「リクは料理が得意なのですか?」


「今は自炊レベルだけどね。でも、DEXに極振りして一気に技術を引き上げられるから、ちゃんと修行さえすればそこそこ良い線いくと思う。元々料理は嫌いじゃないし、創作料理の店なんか面白そうだ」


 思いのほかフランからの反応が良かったので、もう少し語ってみた。そういえば、フランが冒険者を引退するときが来たら、その後は何をするのだろう。


「ところでフランは将来の展望とかある?」


 気になったので質問してみた。さて、どんな答えが返ってくるかな。


「私は漠然と、ギルド職員を続けるつもりでいたのですが……」


「いたのですが?」


 何かやりたいことでも見付かったのだろうか。


「リクがお店を開くのなら、そこで給仕をするというのも良さそうですね」


「待った。フラン、待った。その台詞は深読みしそうになるから少し待とう」


 きっと恐らく言葉通りの意味しか無いんだろう。けど、リクが(・・・)お店を(・・・)開くなら(・・・・)という枕詞が現れるとなると、ちょっと考える。そして実際にその状況になったなら、周囲はもっと考えるはずだ。


「私に給仕は、難しいでしょうか?」


「いやそういう話じゃなくてね。むしろ全く不足は無いだろうけどね。ああ、でも……、実際凄く有り難いんだよな……」


 美人給仕の居る店。その時点である程度の集客が見込める。勿論、それだけでやっていけるほど甘い業界ではないだろうけど、大きなアドバンテージには違いない。

 それに、一緒に働くならそりゃあ信頼できる人の方が良い。エディターのお陰で、例えば従業員に店の金を持ち逃げされても追跡はできるけど。最初から、そんなことが起こる可能性は除外できる方が望ましいに決まってる。

 理屈の上だけ(・・)でも、かなり魅力的な話だ。


「……その時のフランにそのつもりがまだあったら、是非ともお願いするよ」


 フラン自身は自己評価として愛想が無いと言うが、それは会話もしたことのない初対面の相手が抱く印象だ。実際に会話してみれば、他者への敬意と思い遣りに満ちた人であることが分かるだろう。分からない奴は見る目が無いだけだ。

 ギルドの面々はそれが分かっているからこそ、フランの問題に軽々しく首を突っ込んだように見えた俺に敵意を向けたのだろうし。


 そう、ついで言えば冒険者の集客がかなり見込めるんだよ。何でも屋な側面も持つ冒険者の集客が見込めるということはつまり、口コミの効果だって相当期待できるということ。

 同時にトラブルを呼び込むことにも繋がるだろうけど、それでも所詮は飲食店で起こる程度のトラブルに対し、エディターを持ち出して解決出来ない可能性が信じられない。情報戦での負けをほぼ心配しなくて済むその状況で。ましてやその時の俺は、今よりもっとレベルが上がっているはずなのだから。


「はい、こちらこそお願いしますね」


 屈託の無い笑顔で応じるフランを見ていると、色々悩んでいる俺が馬鹿みたいだ。この世界では好きに生きると決めたんだから、もっとしっかり自分の意志を持って行動していかないとな。

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