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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第四八話 人格矯正1

次話はきっとストーカー視点でのお話になるかと。

今回は主人公視点です。

 ストーカー男の剣に対するガラス細工のようなプライドを粉々に砕いてやった次の日。俺は本格的にストーカー対策を始める。

 いやだって、素のステータスですら差があり過ぎて、あの決闘という名の公開処刑は下準備ですらなかったし。


 しかしその前に、今朝の俺の居場所を説明しよう。何と、一日三〇〇〇コルトの格安物件ではない。何故ならば、そこからは追い出されたからだ。

 理由? それは単純明快。あそこ、駆け出し冒険者用の救済措置的役割を持っている宿屋だったんだから。

 大家さんに「アンタ、一足飛びに上級冒険者になったんだって? じゃあ出てって貰うよ。ここは駆け出し冒険者が利用する宿屋なんだ。アンタみたいな強者に居られちゃ、他の客がびびっちまうからね」とか何とか言われた。連日の訓練所での出来事が広まったんだろう。無名だった男がいきなり五つ星冒険者に、なんて話題性もばっちりだったはず。

 あの宿、ベッドの硬さ以外はさしたる不都合も無かったのに、残念なことだ。


 ともあれ、部屋に置いている荷物はほとんど無く、所有物の大半は俺のアイテムボックスの中。引越しはほぼ手ぶらで行われた。幸いにもアーデと回って目を付けていた物件が空いていたので、そこを借りている。

 なにぶん急な話だったのでとりあえず今は一日ごとに宿代を支払うことにしているが、数日中に長期契約へと移行しようと思っている。そちらの方が当然割安になるし。


 まあそんな話は置いといて、ストーカー対策についてだ。

 やることは単純。今日のところは徹底的に奴の先回りをする。ただそれだけ。喧嘩を吹っ掛ける訳でも無く、和睦を申し出る訳でも無い。更には奴からのアクションも、種類を問わず受け流す。今日の最後だけ、少し言葉を残すけれど。


 さて、今日から張り切って、ストーカーの精神を崩壊させよう。






 街人の多くが行動を始める朝の喧騒の中、俺はストーカー男の自宅付近にある喫茶店にて、紅茶を飲んでいた。オープンテラスのその喫茶店はアインバーグの街並みを良く見渡せ、ダージリンに良く似た紅茶の繊細な香りも相まって、優雅なひと時を過ごしている。

 ストーカー男の自宅付近、という言葉が全てを台無しにした感は拭えない。


 俺は昨日の内に用意していた暇つぶしのための本──この国、リッヒレーベン王国の歴史書──を読みながら、時折エディターの画面を確認している。紅茶のお代わりを一杯注文したところで、標的は動き出した。

 そしてその数分後。


「……何故、貴様がここに居る」


 ストーカー男、アレックス・ケンドールが俺の目の前に現れた。今は普段着なのか、青を基調としたチェック柄のシャツを着て、綿パンのようなものを穿いている。

 手にはトレーを持ち、その上にサンドイッチと紅茶を載せている。俺を見る双眸からは、怒りと怯えの両方が見て取れた。


「見て分かりませんか? 朝食を摂りながら読書をしています」


 俺はアレックスに一瞥くれて、すぐに本へと視線を戻す。今、こいつと会話する必要など無い。


「僕が言っているのは、そういうことじゃない!」


 声を荒げるアレックスに、周囲の客が顔をしかめた。

 それに気付いたアレックスは居心地悪そうに口を閉じ、俺を睨む。


「他の客の迷惑になる行為は控えてください。俺にとっても、読書の邪魔です」


 今度は一瞥すらくれず、俺の視線は本に向けられたまま。

 それは大層彼の心を乱したようで、画面に表示されている視線が俺に向いたまま動かない。


「貴様が何処かへ行けば良いだろう……! そうすれば僕も大声など出す必要が無い……!」


 先程よりもボリュームを押さえつつ、俺を威嚇するアレックス。


「どうやらお忘れのようなので、思い出させて差し上げましょう。『僕が勝てば貴様は二度と僕の前に現れるな』という貴方の要求、それを今後一切認めないというのが俺の要求でした。まさか決闘に負けた挙句、その勝者の権利までも踏みにじると? それは負け犬にも劣る、畜生未満の行いです」


 本から目を離さず、淡々と語った俺の言葉。幾人かがそれを聞き、静かに、けれど確かに笑っている。いや、嘲笑している。

 俺がこの喫茶店を選んだ一番の理由は、アレックスが毎日ここで朝食を摂っていることをエディターでログ参照したことにより把握したからだ。そして二番目の理由として、昨日の決闘を見ていた冒険者の中にも、この喫茶店の利用者が居たからだ。


「ご理解頂けたのであれば、お早く席についてください。俺はただ、静かに読書をしているだけです」


 俺から分かり易い攻撃の意思など示してやらない。お前はただ、このじっとりとした周囲の視線に苛まれろ。日常を侵食されていく感覚をその心に刻め。


 手に持ったトレーを小刻みに震わせ音を立てながら、アレックスは俺に背を向けて離れた席についた。

 今日はまだ始まったばかりだというのに、そんなことではこれからの一日をどう過ごすつもりなのか。






 さあ、次なる場所は道具屋。冒険に必要な消耗品が主な取り扱いの、冒険者御用達の店だ。


 俺は決して広くはない店内にて、密集した商品群を物色している。まあ普通に買い物だ。

 軽い切り傷程度なら飲んだ瞬間に回復する、如何にもファンタジーな回復ポーションは当然として。日持ちして栄養価も高いけれど決して美味しくはない携帯食料に、多少汚れている程度ならば浄化して飲み水にできる水筒のような見た目の装置、少量の魔力を込めれば火を着けられるライターのようなものなど。野営する場合には必要になってくる雑多な品々を購入していった。

 まあ、携帯食料については時間経過しないアイテムボックスのお陰で本来不要なんだけど。普通の人のアイテムボックスは普通に時間経過するそうで、特異性をあまり大っぴらにしたくない俺としてはカモフラージュに便利だ。


 そんな風に、俺は俺の用事を片付けていると、奴が現れた。


「……だから、何故貴様が居る」


 ストーカー男、アレックスである。俺が居る場所に後から来ているのだから間違い無い。

 仮に俺がエディターによる過去ログ参照によって、数日置きに日帰りのクエストを受注しているこいつがそれと同じ頻度で消耗品の補給にこの店を訪れていると知っているからといって、それはそれ、これはこれである。因果関係の証明など誰にもできない──か、しない。……まあ、俺にはできるし? しないだけで。


「ですから、見て分かりませんか。買い物をしています。五つ星冒険者が消耗品を購入していたら、何かおかしいですか?」


 やはりアレックスに一瞥くれて、そのまま買い物を続行する俺。店主が五つ星という言葉に反応して驚いていたようだけど、まあ気にしない方向で。


「だからと言って、何故この店に来る必要がある! 他にも同じ品を買える店はあるだろう!」


 店主がアレックスを睨んでいる。まあ、どう考えても営業妨害だ。


 アレックスが自分を睨むその視線に気付いて、気まずそうにしている。

 自分勝手な癖に小心者だな、こいつ。随分と面倒なこじらせ方をしているらしい。


「昨日、この近所に引っ越してきたばかりなもので。それまでは格安の宿に泊まっていたんですが、上級冒険者を泊まらせる場所じゃないと言われて追い出されてしまったんですよ」


 突然のことで困りました、と雑談を始める俺。ちなみに困ったと言う程ではなかったので、浮かぶ表情は至って普段通りだ。


「な……っ、近所に……!?」


 アレックスの反応はスルーして、買い物を続行する。あ、野営用のテントも売られてるな。買っておこう。


 その後、お互いがお互いを無視し合うという状況の中、俺とアレックスはそれぞれ買い物を続けた。






 さあ、お次は武具屋である。

 俺は昨日の内に注文して調整をして貰っておいた既製品の鎧を受け取るだけで良いが、少しだけ他の商品も物色していこう。その間に誰か別の客が来ても、それは至って普通のことだ。


「……何なんだ、貴様!」


 もしこの店を利用している客の中にアレックスという男が居たとしても、そしてその男がこの武具屋に向けて移動していたのを確認してから、俺がここにもう少し居る決断をしたとしても。それらは何ら、違法な行いではない。


 俺は大小様々な剣が並べられた棚を見ていた目を、首を回して右に向ける。


「冒険者が商品として陳列された剣を見ています。これの何処に、そう声を荒げなければならない理由がありますか」


 おかしな人だ、という目でアレックスを見てから、再び剣を物色する。

 片手半剣のスペアがあっても良いな。取り回し易い片手剣も幾つかあって良いし、ナイフは投擲用のものも欲しい。アイテムボックスからの出し入れが瞬間的にできるので、武器が複数ある状況はとても安心感がある。


 あ、そうだ、盾を買おう。昨日のドミニクさんとの試合では、武器を盾代わりにしつつ、アイテムボックスを使用した武器換装で誤魔化していた。メインウエポンが両手剣であるエディターなので何となく必要無いかと思っていたけれど、剣ばかりとはいえそれ以外の武器にも手を出しているところだ。盾も揃えて損は無い。

 回避不能な状況で武器を盾代わりに、なんてのは本当なら避けたいし。軽量なバックラーは当然として、背中に庇う物や人が存在した場合を想定するとタワーシールドも欲しい。


 思い立った俺はひとまず剣が陳列された場所から移動し、ついでにアレックスを放置し、盾を物色し始める。


 アレックスが後ろから睨みつけていることにはエディターの画面で気付いていたが、勿論放置した。






 その後ずっとアレックスの先回りを続け、夕刻の今。場所は、アレックスが寝泊りしている部屋の前だ。

 ここはギルドからも程近く、部屋としても一人暮らしをするには十分な広さがある。少し狭くはなるが、二人で寝泊りだってできるだろう。三人はきっと辛い。


「本当に何なんだ、一体! 僕に用事があるならそう言え! 行く先々に居る癖に、僕に用なんか無いって顔をして! それで最後はここか! いい加減にしろ!」


 唾を飛ばしながら叫ぶアレックスの表情に、余裕と呼べるものは一切無い。


「おかしなことを言いますね。俺はそれぞれの場所で、俺の用事を片付けていました。そこへ貴方が後からやって来て、難癖を付けて。一体何様のつもりなのやら」


 大きく溜息を吐くと、アレックスは俺に掴み掛かってきた。勿論、VITに極振りしてダメージなんて受けない。


「じゃあ、ここに来たのは何故だ! ここは僕の部屋の前だ! お前のじゃない!」


 力強く俺を揺さぶろうと必死に腕を動かすアレックスは、固定されたように微動だにしない俺と対照的に、自分がガックンガックン動いている。壊れたおもちゃのようで、愉快な光景だ。


「昨日からこの宿屋に住んでるんですよ、俺。部屋はここの二つ隣です。ご理解頂けました?」


 にっこり笑って確認を取ると、死刑宣告されたような表情が目の前に現れた。

 アレックスの腕から力が抜けたのを見計らい、ステータスをデフォルトに戻してそれを外す。


「これから、よろしくお願いしますね、ご近所さん(・・・・・)?」


 そうしてすたすたと歩き出し、自分の部屋の前までやって来て振り返る。


「ああ、そうだ。今日の貴方は随分と憔悴している様子なので、明日からは貴方の視界に入らないでおきましょう。ですのでどうか、ご安心を」


 そこまで言って、俺は自分の部屋のドアを開け、中へと入った。






 いやー、今日は一日歩き詰めで疲れた。いや高ステータスのお陰で肉体的には疲れてないけど。過去ログからの推測と現在の奴の行動から先回り地点を随時決めていく、ってのが地味に頭脳労働でね。でもそれが可能であることを奴本人に見せたことで、明日からはたった五分程度の手間で高い効果を叩き出せるはずだ。

 さあストーカー男、君の精神力の耐久実験といこうじゃないか。

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