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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第四七話 受けた恩

良い具合のサブタイトルが全然浮かばない話でした。

こう、明確なテーマ的なものが無い、閑話みたいな内容だったもので。

 状況が落ち着いたところで訓練所の端に移動し、フランに話をした。


 まず、あのストーカーことアレックスは俺が言い訳の余地無く負かしたこと。彼の所在はエディターで今も捕捉中であること。

 決闘を行う前に失礼なことを言ったエリックという魔法使いの少年に、軽く試合をさせたこと。

 その後今度こそ基礎練習に励もうとしたタイミングで、ドミニクさんに捕まったこと。


「リクは相変わらず、密度の高い時間を過ごしていたのですね」


「一昨日までは割と平和だったんだけどね」


 つまり昨日から平和じゃなかったってことだけどさ。


「けど、予定外の出来事だったとはいえ、俺の力が五つ星冒険者としてそう見劣りするものではないってことは、一応周囲に見せられたし。きっと明日は、今日よりは平和になってくれるはず。そう信じたい」


 最後の方、凄く気弱になったのは自覚してるよ。


「……ベッテンドルフさんは、五つ星冒険者の中でもかなり上位に位置する実力者ですから、リクが思っているよりも周囲からの目は変わってくると思います」


 マジかー。五つ星上位かー。そんな人と、少なくとも見かけ上は互角に戦ったのか俺はー。

 最近、頑張りすぎだと思うんです、自分でも。この世界で生き残るために必死になってる結果なんだけどさ。


「そう言われてみれば、昨日よりヤバイ奴を見る目で見られてる気はする」


 今は端の方で大人しくしているのに、さっきからチラチラとこちらを見てくる人間は多い。それでいて、近付いてこようとはしない。


「リクはあまりにも唐突に現れた実力者ですから。とはいえ、本来のリクは平穏を好む人であることを、私は知っています。きっと、もう少し時間が経てば、皆さんにもそれが伝わるはずです」


 俺を安心させるためか、優しい言葉をかけてくれるフラン。

 いや全く、敵わないね。


「フランにそう言って貰えると、気が楽になるよ」


 本心からそう思う。仮に、フランが言う通りには時間が解決してくれなかったとしても、俺が平穏を好む人であるとフランが認識してくれているのならそれで良いのではないか、と思うほどに。


「そうであれば、幸いです。ところでリク、話は変わるのですが、どうしてケンドールさんの所在を捕捉しているのですか? 決闘に勝ったのであれば、何かしらの条件を彼に飲ませたはずですが」


 流石に自分の問題だからか、フランも気にかかっていたらしい。詳細は話してなかったからな。


「彼は俺に、彼自身の前に俺が姿を現さないことと、昨日ボコボコにした三人組への謝罪を要求してきたんだ」


 フランは無言で頷きながら、俺の話を聞いている。


「対する俺は、その要求を今後一切認めないことを要求した」


 フランは無言のままだが、首を傾げている。


「つまり、俺は今後、彼の目の前から立ち去る必要が無い。俺が立ち入りを禁止されていない場所では当然として、彼の権限(・・・・)で以って立ち入りを禁止できていた場所であっても」


 そう、それがアレックスの自宅であっても、彼は俺に立ち去ることを命じることができない。いや命じるだけなら可能だが、俺にはそれを拒否する権利がある。


「あの、リク? 単に、私への接触を禁じるなどの要求で良かったのではありませんか?」


「甘い。全く以って甘いよ、フラン。付き纏い行為をする人間は、その程度のことでは諦めない。むしろ困難を前に、より一層悪質になっていく可能性が高い」


 故に俺は、それを上回る悪質さで人格矯正プログラムを組んでいるんだ。ほら、毒を以って毒を制すと言うだろう? この場合はまさしくそれだ。俺は敵に容赦なぞしない。


「そ、そうなのですか……?」


 俺の言葉を既にほぼ疑っていなさそうなフランの反応に、別の不安が湧いてくる。けれどここは畳み掛けよう。


「例えばフロランタンさん辺りから話を聞いてみても良いかもしれない。その手の話なら、あの人の引き出しはかなり多いはずだから」


 あのベテラン受付嬢は、駄目男について経験豊富なはずだ。下手をすると本人が被害に遭ったことがあるかも知れないし、そうでなくとも横の繋がりで何かしら話は持っているだろう。


「分かりました。この後ギルドに戻って、フロランタン先輩からお話を伺ってみようと思います」


 フランは神妙な顔で、あっさり俺の言うことを聞いた。

 本当に大丈夫か、この子。悪い奴に騙されたりしないか。具体的には俺みたいな奴に。


「ですがそれはそれとして、リクには多大な迷惑をかけているのではないでしょうか? これは元々私の問題で、リクが責任を負わなければならないものではなかったはずです」


 神妙な表情に申し訳なさを同居させ、俺にそんなことを言ってきた。むしろこっちが申し訳なくなるので、速やかにその表情をやめて欲しい。という訳で。


「んー……、まあ、明日は一日潰れるけど、それ以降は一日五分もあれば進められる計画だから。奴の精神力次第だけど、今日戦ってみた感じで言えば、きっと一週間も要らないと思うな」


 軽く、軽く。羽毛より軽いノリであっさりと返答する。


「それに、ギルドに居た時も言った……っていうかあれは筆談だったけど、俺は散々フランのお世話になりっぱなしなんだからさ。そろそろ恩返しの一つもさせて、俺の顔を立ててくれると嬉しい」


 締めにこういう卑怯な言い回しをして、フランから睨まれた。でも残念、とても可愛いので迫力は全く無い。


「それはとても卑怯な言い回しです」


「知ってる」


 俺は不敵な笑みで返した。


 フランは俺から一度視線を外して、溜息を吐いた。それから再び俺に視線を戻し、口を開く。


「リクが私に対して恩を感じてくれているのと同様に、私もリクに対して恩を感じています。どうか、そのことを覚えていてください」


 そこまで言って、俺が何かしらの言葉を返そうとするより先に、この場から去っていってしまった。


 ……俺に対して恩? 何かしたっけ?

 俺の方は、右も左も分からない状況で適切な情報を随時貰ってるっていう、非常に分かり易い恩があるんだけど。それがどれだけ、精神的にも楽になっていることか。でも、俺からフランに対しては?

 強いて考えられることを挙げるなら、コマンドワイバーンの一件がエディターの機能で、大した被害も無くひとまずの終息を迎えられたことくらいか? けどそれって、俺が受けたクエストを俺が頑張って解決させようとしただけの話だし。ただの自分の仕事だ。

 分からない。何に対して恩を感じてくれているのか分からない。


「頭抱えて考え込んで、どうしたのさ?」


 あーでもないこーでもない、と一人悩んでいると、ロロさんが近付いて来ていた。


「いえ、これは多分、人に話す類の悩みじゃないので」


「ふうん……? 私も深く追及するつもりは無いけどね。でも、話して気が楽になりそうな悩みだったら、遠慮なく言うんだよ?」


 俺の顔を覗き込みながら、こちらを気遣う様子のロロさん。


「そうですね。そういう悩みのときは、お世話になります」


 ここで遠慮する言葉を言うのは違うだろう。無難な返答をしておく。


「そうそう。そしたら私もいざってとき、リク君に助けを求めやすくなるからね」


 おどけたようにロロさんは言って、ころころと笑う。


 ああ……、どこぞのアデライーデさんもこの人を見習ってくれないかな。こういう感じだったら俺だって素直に協力するってのに。何であんな不器用に、胡散臭くなるばかりなのか。

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