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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第四六話 【鋼刃】

そろそろ強いオッサンを出さないといけないと、自分の中の何かが叫んだもので。

 俺が徐々に速度を上げていき、真綿で首を絞めるようにエリックを扱いた後。ぐったりと疲れた様子を見せるエリックは端の方で休ませ、今度こそ自分自身の基礎練習をしようと思っていたのだけど。


「じゃあ、次は俺とやろうや」


 自身の身の丈ほどもある大剣を肩に乗せたドミニクさんが、あたかも当たり前のように言ってきた。各々訓練に勤しんでいた周囲の冒険者達も、アレックスの公開処刑以上にまた集まってきた。

 あんたら一体何なんだ。俺は見世物じゃないぞ。


「いえ、連戦で疲れているので遠慮します」


「どう見ても涼しい顔してんだろうがよ」


 どう考えても拒否の意図で言った、と認識して欲しかったんだけど。そう認識した上で尚、ということも有り得るか。


「いえいえ、俺は昨日まで一つ星だった男です。本物の五つ星冒険者であるドミニクさんの相手が務まるとは、とても思いません」


 思い切り下手に出て様子を見てみよう。


「御託は良いから、打ち合うぞ」


 あ、完全に無駄だった。首根っこ掴まれて、結界の方に強制連行されてる。


 結界内に入ると、ドミニクさんは一度距離を取り、俺に向け無言で剣を構えた。


「あの、俺はやるなんて一言も──」


「せい!」


 発言の途中で、俺の身体を容易く真っ二つにできそうなサイズの大剣が、真正面から容赦無く振り下ろされる。


 防御のためエディターを構え、VITに極振り。直後に衝撃が訪れ、鐘を打ち鳴らしたような音が俺の鼓膜を強打する。


「ほう。この俺の一撃をそのまま受け止めるたぁ、大した胆力と防御力だ。話に聞く速度と言い、攻撃力と言い、ちっとばかし計算が狂ってやがるがな」


 そりゃまあ、VITに極振りすればね。できますよ。

 VITってのは、自分が受ける力に対してマイナスの補正をするステータスだ。だから防御力として認識できるものであり、そして今の俺はドミニクさんの大剣を絶対に押し返せない。何故なら、押し返すための力として、攻撃力として認識できるものではないから。


「通常の物理法則とはほとんど別に計算してるのがステータスシステムですからね。そりゃ計算も狂うってものですよ」


 VITの極振りからSTRへの極振りに切り替え。一瞬だけ大剣を押し返し、そのタイミングで今度はAGIへ極振り。後方に下がって距離を取る。


「ああん? 何だ、お前さん、ステータスについて造詣が深い手合いか。そいつは厄介な」


 おや、ステータスの運用法(・・・)を心得てる人間は少ないのか? どうもそんな感じのする言葉だ。


 ドミニクさんは大剣を自身の真横、水平に構え、力を溜めるように少しだけ腰を落とす。


『ジ・グランド』


 中級地魔法を発動し何をするかと思えば、大剣の姿が見る見る内に変化していく。大剣の刀身に金属光沢のある何かが纏わり付き、それが元から身の丈ほどあったその長さを五割増しに、厚みを三倍ほどに巨大化させた。


「あれが、【鋼刃(こうじん)】……」


 周囲に居る誰かが、呟いた。それに意識を向けてしまったその一瞬。隙とも言えない程度のほんの僅かな時間で、その大剣は振るわれた。


 水平方向の踏み込み斬り。大樹をも薙ぎ倒しそうな豪快な一撃を、俺は辛うじて跳躍により回避。

 基本的に、敵の攻撃を大きく跳躍で回避するのは避けた方が望ましい。けれど先程の一撃は、それ以外で避けようが無かった。


『モノ・ウィンドッ』


 跳躍による回避を余儀なくされた俺は、次なる一撃が来る前に飛ぶ。それは敵の攻撃が届かない距離へ行くため──ではなく、こちらの攻撃が届く距離へ行くため。敵を、貫くため。


 ドミニクさんの心臓目掛けて突き出したエディターの切っ先は、鉄塊のような異形の大剣の腹により阻まれる。大剣を僅かに貫通するに留まったエディターをアイテムボックスに戻しつつ、右手を上に。その右手に片手半剣を出し、間髪入れずに脳天目掛けて振り下ろす。


 大剣が上に跳ね上げられ、俺の右手にある片手半剣が弾かれる。しかしその間、俺の左手は自分の腰に回ってナイフを握っていた。

 がら空きになった腹部目掛け、左手のナイフを突き出す。が、ドミニクさんは右手の手刀でナイフを叩き落とす。


 手刀が拳に変わったのを見て全力で左に跳ぶと、俺の右脇腹をそれが掠めた。


 抉られたような脇腹の痛みに顔をしかめつつ、そのまま二歩、三歩と跳んで距離を取る。


「ん……。妙な手ごたえだったな」


 先程攻撃を受けた瞬間、俺はリソースを九対一の割合でAGIとVITに割り振っていた。素のステータスで言えば、VITはレベル二七程度。直撃さえ受けなければ何とかなるだろうと思ってその割合にしていたが、八対二くらいで保険をかけておいた方が良かったかもしれない。

 いや今からでもそうしよう。必要に応じて各項目に割り振る割合は、それ以外の八割だ。


「さっさと防具を新調します。今から店に行こうと思うので、これで失礼しますね」


「お前さん、そりゃねぇだろう。その防具は新調せにゃならんだろうが、後で良い。今、俺とお前さんは、互角に戦ってんだからよ」


 スキンヘッドのタフガイが獰猛な笑みを浮かべてこちらを捉えているというのは、何とも危機感を煽る状況だ。

 それに、互角? 冗談じゃない。こちとら、やたら性能の良いアイテムボックスの出し入れ速度まで戦闘要素に引っ張り出して、それでもこの様だというのに。大剣のお化けみたいなあの一本しか、武器を使っていないドミニクさん相手にだ。


「この【鋼刃】、ドミニク・ベッテンドルフがお前さんを……、リク・スギサキを認める。俺に何発も攻撃させる相手は久々だ。もっと、楽しもうや!」


 ヤバイ。俺はドミニクさんの闘争本能に火を着けてしまったらしい。しかもやっぱり二つ名だったか、その【鋼刃】ってのは。

 さて、どうやってこの場を収めようかな──ッ!?


 ごう、と風を切る豪快な音が耳元から聞こえた。力強い踏み込みからの大剣の振り降ろしを、辛うじて右に動いて回避した結果だ。回避できなければ頭をかち割られて、結界の外に強制排除されていただろう。

 あれ? そっちの方が良かった?


「手ェ抜いて退場なんかしやがったら、また結界内に引き摺り込むからなァ!」


 良くなかった! 全然良くなかった!


 床に大剣をめり込ませたドミニクさんは、全く構わず横薙ぎに移行。床を盛大に破壊しながら俺の足元を狙う。


「俺そんな大した冒険者じゃないですから!」


 STRへリソースの八割を。片手半剣を床に突き立て、直後にVITへ十割。そのまま凶暴な大剣を受け、勢いを止める。

 大剣が止まった瞬間に片手半剣をアイテムボックスへ収納し、床から引き抜く時間と労力を省略。


『モノ・ウィンド』


 INTとAGIへ連続極振りし一瞬で最高速へ到達しつつ、エディターを取り出しドミニクさんの左腕を狙う。微妙に反応され切り落とすのには失敗したが、二の腕に浅くはない切り傷を負わせた。

 俺は移動速度を維持して駆け抜け、ドミニクさんの間合いの三倍ほど距離を置いてから反転。視界の中央に捉える。


「黒い風ってのは、なるほどそういうことか。尋常じゃねぇ移動速度をそのまま攻撃速度に乗せて、その黒い剣で敵を斬る。油断すりゃ六つ星冒険者でも危ねぇんじゃねぇか?」


「五つ星のドミニクさん相手に必死な俺をちゃんと見て言ってます?」


 何せ、一度の攻撃に幾つもの工程を挟んで無理矢理叩き出してる攻撃力だ。構築したマクロによるアシストがあるとはいえ、各工程のタイミングはそこそこシビアだし。精神力を削るんだよ。


「心配すんな、俺の方も必死でやってんだからよぉ!」


 実に楽しそうに言うドミニクさんの額からは、確かに幾筋もの汗が流れていた。

 でもこれ、いつ終わるかな……?






 時間を追うごとにますますヒートアップするドミニクさんと、ぶっ通しで戦い続けていたら。


『トリ・アクア』


 突然鋭く尖った氷柱が無数に出現し、ドミニクさんの周囲を半球状に囲んだ。


「……っ、こいつは……」


 一歩でも動けば串刺しになる状況で、ドミニクさんは呟く。


 俺はこの光景を生み出した張本人に顔を向ける。それは俺もドミニクさんも良く知っている人物で。


「そこまでです、ベッテンドルフさん。もしこれ以上続けるというのであれば、私がリクに付きます」


 冴え渡る瑠璃色の目に貫くような鋭さを備えて、フランセット・シャリエがこの結界内に踏み入った。


「そりゃあ……、万に一つも勝ち目は無ぇな。そのままでも俺と互角にやり合うリクに、【大瀑布】まで付くとあっちゃあよ」


 スイッチを切るように、ふっと全身から力と緊張を抜いたドミニクさん。大剣も元の大きさに戻る。

 それを確認してから、フランも魔法を解除した。


「ありがとう、フラン。本当に助かった。あのままだと多分、どちらかが気絶するまでやり合うことになってたと思う」


 そして恐らく、気絶するのは俺の方だっただろう。同格以上の相手に長期戦ができるほど、俺は強くない。


「その心配もあって、私はリクに同行したかったのです。リクはきっと、ベッテンドルフさんのお眼鏡に適ってしまうだろうと。……あの場で、ベッテンドルフさん本人の耳に入る場所で言ってしまえば、その可能性を高めるばかりの本末転倒だったので、口には出しませんでしたが」


 じとっとした目でフランに睨まれる。

 そうか、俺はフランの厚意を知らぬ間に無下にしてしまっていたか。


「あ……はは、ごめん」


 言い訳はするまい。現にフランには助けられた。


「ですが、そもそもの発端はリクが私を助けてくれたことです。なので、私からは感謝を。ありがとうございます、リク」


 仄かに笑みを浮かべてそんなことを言ってくるものだから、周囲がざわめいている。

 何かすげぇ親しげじゃね、とか。あの【大瀑布】があんなに自然な笑顔を、とか。うるせぇ黙ってろ。

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