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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第四四話 ストーカー撃退2

この主人公、悪人ではないんです。信じてください。

 先程まで俺がロロさんを待っていた休憩スペースに戻ってきた。ロロさんはジャック達を訓練所に待たせているはずなので、手早く終わらせるか、或いはそれを利用しようと思っている。

 俺とロロさんが隣に座り、対面する位置にナンパ男が座る。


「遅くなりましたが、きちんと自己紹介をしましょうか。俺はリク・スギサキと言います。今朝正式に昇級したばかりではありますが、五つ星冒険者です」


 五つ星という単語に、ナンパ男だけでなくロロさんも驚きの表情を浮かべた。


「い、五つ星だって!? 昨日見せて貰ったカードは確かに一つ星だったよね!?」


「……せめて四つ星くらいで抑えられてると、俺も嬉しかったんですけどね。いや、そんなことは今どうでも良いんです」


 気を取り直し、話を続行しよう。


「こちらはロレーヌ・ローランさん。ロロさんと俺が呼んでいるのは、愛称です」


「ローランだよ。君がロロって呼んだら刺すから。ちなみに三つ星だね」


 軟派な男は嫌いなのか、ストレートに拒絶の意を示すロロさん。昨日の人懐っこい感じしか知らない俺からすると、随分新鮮だ。


「アレックス・ケンドールだ。僕も今は三つ星に甘んじているが、いずれは六つ星……いや、七つ星冒険者になる男さ」


 何処からその気概や自信が出てくるのか全く不明だが、ドヤ顔で言ってきた。

 白の七つ星冒険者の真似事をしているのは、その格好から十分に伝わっているけれど。


「だっはっは! オイ聞いたか皆! アレックスの奴、また言ってるぜ!」


 深紅の目を持つスキンヘッドの大男が、少し離れた場所で大笑いを始めた。何が始まったのかと思って周囲を見渡すと、笑いは更に広がっていく。初級冒険者らしき人間は笑っている割合が少ないが、一定以上の風格を漂わせる冒険者達はどんどん笑っていた。


「な、何がおかしい! 僕は本気だぞ!」


 ムキになったアレックスが立ち上がり、大声を上げて訴えるが、むしろ笑い声が増えた。


「だから皆笑ってんだろうがよ! もう何年も三つ星でくすぶってる男が七つ星冒険者になるなんざ、笑い話にするしかねぇ!」


 ああ、色々お察しだな。


「ドミニク・ベッテンドルフ! 貴方だってずっと五つ星で止まっているじゃないか! 僕と何が違う!」


 うん、星の数が違うね。


「俺が五つで、お前が三つだ。算数もできねぇなら、とっとと実家に帰れ!」


 処置無し、と言わんばかりにそう切り捨てて、そのまま見向きもしなくなってしまった。


 憤懣遣る方無いと全身に怒気を纏わせるアレックスだが、その様子に反してまた座った。自分では相手にならないことを、頭では理解しているんだろう。そしてその怒りの矛先は、俺に向けるらしい。


「リク・スギサキ! 君も五つ星冒険者だというのなら、三つ星冒険者の僕からの決闘を断りはしないだろう! 受けて貰うぞ!」


 あー、同じ五つ星でも、俺の方があのタフガイより弱そうに見えるからかな。星二つ分の差を強調してる感じだし、何らかのハンデを申し出てやった方が面白そ──大人の対応というものだ。

 それにしても、随分と短絡的に走ってるな。いきなり決闘とか言い出すなんて。こっちとしてはいつ訓練所に向かうか、そればかり考えてたから都合が良いんだけど。


「ええ、勿論です。俺は魔法剣士ですが、決闘では魔法を一切使わないくらいのハンデは差し上げますよ。それと、決闘開始から一分間は攻撃も禁止にしておきましょう。場所は、訓練所で良いですよね?」


 ステータス編集はフル活用するけどな!


「……ッ、後悔するなよ!」


 ああ、そこでハンデなんて要らないって言う程の気概は無いんですね。

 残念なものを見る目で、俺はアレックスがギルドから出て行く姿を見送った。


 その直後、先程のドミニク・ベッテンドルフさんが俺の目の前にやってくる。


「おい、ボウズ。俺らはな、最後まで面倒見切れる保証がねぇから、フランセットちゃんに付き纏うアイツみてぇなのを今まで放置してたんだ」


 気付けば、この場の大勢の人間が俺のことを見ていた。否、睨んでいた。

 そしていつの間にか、目線の高さを俺に合わせてしゃがんだ大男が目と鼻の先に居る。


「それに、ボウズは手ェ出した」


 決して大きな声ではない。けれど、聞く者を威圧する、腹の底にまで響くような重い声だ。


「責任、取れるんだろうなァ?」


 半端は許さない。聞こえる言葉よりも雄弁に、俺の姿を捉える深紅の目が、その他周囲の複数の目が、そう語っていた。


「取りますよ。当たり前です。フランとはこの先しばらく、或いはずっとパーティーを組むんですから。フランへの付き纏いとは、半分くらいは俺への付き纏いということになります。つまりアレは、俺の敵です」


 俺とフランが一緒にパーティーを組んで活動することが決まっている以上、アレの耳にその情報が入ることを避けるのは無理だ。それならアレは俺の敵だ。


 俺の発言の真偽を問うべく、比較的受付の近くに居た人がフランに質問している。フランが首を縦に振って肯定すると、場がどよめいた。


「逆に確認しておきたいんですが、徹底的にやって良いということですよね? 最悪、彼が冒険者として再起不能になったとしても、皆さんは俺を糾弾したりはしないということで良いですよね?」


 これは、言質を取るチャンスだ。きちんと最悪の結果も想定した上で、同意を貰おう。


「お、おう……。再起、不能……?」


 俺の口から飛び出た物騒な言葉に反応を示しているが、気にせず話を進めよう。


「大丈夫です。お任せください。骨の髄まで恐怖を染み渡らせ、二度と誰かに付き纏おうなどとは思えない人間に、人格を矯正してみせますから」


「待て、お前さん何をするつもりだ?」


 既に引き気味のドミニク・ベッテンドルフさんだが、俺は気にしない。これからやることに今更変更は無い。


「違法なことは何一つとしてしませんよ。だた、自分がされて嫌なことは人にしない。そういう当然のことを、時間をかけてじっくりと教え込みます。その前にまず、剣でしっかり語り合いますけどね。いやあ、実に遣り甲斐のありそうな仕事です。途中で放り投げるなんてとんでもない。この仕事は誰にも渡しませんよ」


 爽やかな笑顔を浮かべて言い切ると、周囲の表情が一斉に引き攣った。






 同行したそうだったフランをギルドに残して、俺はロロさんだけでなくドミニクさんとも一緒に訓練所へ向かっている。


「最初はまたフランセットちゃんに付き纏う虫が増えたのかと思ってたんだが、虫じゃねぇな。お前さんはアレだ、魔剣や妖刀の類だ」


 俺の右隣を歩くドミニクさんは、中々に中々な評価を下してきた。剣で語った後、具体的にアレックスへ行う行為について説明しただけなんだけど。でもまあここは、明るく返しておこう。


「そんなに褒めないでくださいよ」


「褒めてねぇよ」


 両隣から同時に溜息が聞こえてきた。右隣はドミニクさんだが、左隣はロロさんだ。


「昨日、困ったときに助けるって言ってくれたときは、あんな禍々しい空気なんて感じなかったのにさ……」


「問題は切れ味の鋭さだが……、ロロの様子を見りゃ分かる。えげつねぇんだろ?」


 ロロさんとドミニクさんは知り合いだった。三つ星だが後進の育成に力を入れているロロさんと、五つ星で古株のドミニクさん。接点ならあったはずだ。

 二人の会話を聞いていると十分な信頼もあるようで、だから俺に付き合ってアレックスに攻撃したロロさんの方には、特に何も言わなかったんだろう。


「昨日訓練所に居た人を中心に死神とか黒い風とか呼ばれ始めてるのは、全然誇張じゃないって言っておこうかな」


 あ、ちょっと定着してきてるのか……?


「それでも、基本的には良い子だよ。自分の為って言いながら、仲間の為にこうして頑張れるんだから」


 ロロさんが非常にむず痒いことを言ってくる。


「無責任な風の噂なんざ信用しちゃいねぇが、ロロが言うなら事実なんだろうな。ま、悪い奴じゃねぇってんなら、強い冒険者は大歓迎だ」


 ばしばしと俺の背中を叩いてくるドミニクさん。少し痛い程だが、これがこの人なりのスキンシップだろう。






 さて、訓練所に到着した。受付に向かい、昨日まで一つ星だったカードが五つ星になっていて受付嬢を驚かせた後、多くの人が集まる訓練所の内部に入った。

 周囲の視線が刺さる。昨日の今日で、注目を集めるのは仕方無いと思ってたけど。でもきっとこれは、それだけが理由じゃないだろう。人々の視線は確かに俺に集まっているが、それともう一人、練習試合の区画に一人佇む男にも負けず劣らず集まっているのだから。


 男は剣を鞘から抜き、床に切っ先を置いて、杖のように構えている。さらには目を閉じて黙祷しているように見せかけているが、エディターのマップには奴の視線の表示が出ている。つまり薄目を開けて、こちらの様子を窺っている。

 強者感を出したい気持ちが全面に押し出されていて、本気で引いた。必然、俺の視線は生暖かくなる。


「どうかした、リク君?」


 ロロさんが怪訝な目で俺を見てきたので、簡潔に答えよう。


「いえ、薄目を開けてチラチラこちらを見てくる男に心底引いただけです」


 ロロさんの質問に対し、男に聞こえる程度のそこそこ大きなボリュームで答えると、男の手元が狂ったのか切っ先が滑って剣が倒れる。

 周囲には笑いが満ちた。


「決闘が始まる前から精神攻撃とは、貴様それでも男か!」


 雑音が聞こえてきたので視線を外すと、ジャック達がこちらに近付いてくるのが見えた。


「またお前かよ」


「連日でやらかしてくれるねぇ」


「何て言うか、話題に事欠かない人なんだね」


 順に、ジャック、アンヌ、エリックの言葉だ。昨日の一件で多少なりとも距離を取られると思っていた俺としては、この気安い感じの声の掛けられ方が意外だった。


「口調は丁寧な癖に内容が一番失礼なエリックは、後で俺とタイマン」


「僕だけ!?」


 にわかに慌て始めるエリック。それを見て笑う、ジャックとアンヌ。


「じゃあ三人とも、今日はひとまずリク君の試合を見学しようか。参考にできる動きとかもあるだろうし」


 ロロさんはマイペースに、そんなことを言った。


「参考に……なるでしょうか?」


 俺からの疑問の言葉だった。普通とは違う戦い方をするつもりだし、これこそ公開処刑になると思うんだけど。


「今回は魔法無しなんでしょ? だったら普通に地上で戦う訳で、それに動きの一つ一つが丁寧なのは昨日の段階で分かってるからね。全体的な話をするときっと参考にできないだろうけど、得るものはあると思ってるよ。そもそも、リク君の試合が終わるまで、この三人が訓練に集中できるとも思えないし」


 えらくしっかりとした返答が来た。ここで三人に目を向けると、頷かれる。


「間合いの取り方とか、戦闘のリズムとか、特にあたしが得るものは多そうだしね。しっかりと見学させて貰うよ」


 更にアンヌからはそんな言葉まで貰ってしまった。


「無駄にハードルを上げられてしまった気が」


「どうせそんなタマじゃねぇだろ、お前さんは」


 ハードルを下げようと放った俺の言葉を、今まで大人しかったドミニクさんが上から叩き潰した。


「いつまでもくっちゃべってねぇで、とっとと行ってこい」


 そしてそこから、俺の背中を力強く叩いて押し出す。






 さて、ドミニクさんに押し出されてやってきた練習試合区画。待ち構えているのは当然、アレックス。今は再び杖のように剣を構えて、最初に見たときとほぼ同じポージングをしている。唯一はっきり違うのは、目を開けていることか。


「決闘の前に楽しくお喋りとは、随分と余裕そうだったな!」


「格下相手に緊張しろと? それは無理です」


 反射的に侮辱の言葉を述べた俺に対し、アレックスは顔を真っ赤にして睨んでくる。

 周囲の観客は笑っていた。


 アレックスも無視すれば良いのに、笑うなと叫んで余計に惨めな姿を晒している。


「確認なんですが、相手を結界の外に出した方が勝者、ということで異論はないですね?」


 俺がそう問うと、アレックスはようやく観客の笑い声を放置することにしたらしく、首を縦に振って肯定する。ただし視線がちらちらと観客に向いていることから、完全な無視はできないらしい。


「決闘の前に観客の方ばかりを気にするとは、随分と余裕そうですね」


 相手の言葉を引用、改変して皮肉に使う。

 周囲の観客が再び笑う。


「き、貴様……っ!」


 一瞬観客の方に向きそうだった視線を、無理矢理俺一人へ固定したアレックス。必死だな。


「人にされて嫌なことは、人にしない。そういう人としてのマナーを、これからしっかりと教えて差し上げます」


 にこやかに、にこやかに。痛烈な皮肉を笑顔で突き刺す。


「ならば、僕が勝てば貴様は二度と僕の前に現れるな! 視界に入れるだけでも不愉快だ!」


 おー、私怨丸出しになってきた。いやしかし、それは物凄く良い提案だ。こちらも一つ、とても愉快な提案ができる。


「そして、カルル、マラット、セルゲイ。彼ら三人に対し、衆人環視の中で謝罪して貰おう!」


 どうも本当に怒っている様子なので、噛ませトリオとは友人だったのだろうか。フランのファンクラブ会員仲間的な? 恋敵と思っていたなら、こういう感じにはならないだろうし。

 ……こいつはフランに相手されないだろう、ってお互いに思っていた可能性も否定できないけど。うわ、実際ありそうだ。


「では俺が勝った場合には、その内容の要求を今後一切認めない、ということで」


 随分あっさりとした俺の要求に、面食らった表情をするアレックス。それは観客も同様で、軽いどよめきが広がる。

 ただそんな中、俺がこの決闘の後で(・・)行うことを知っているロロさんとドミニクさんだけは、この要求の真のえげつなさが理解できたらしい。表情が完全に引き攣っている。


「僕に情けでもかけるつもりか!」


「いえいえ、とんでもない。そんなつもりは毛頭ありませんよ」


 ロロさんとドミニクさんが揃って首を縦に振っている。それを不思議そうに見るのは、ジャック達三人だ。


「そんなことより、俺が出したハンデをこの場でも明言しておきましょう。一つ、俺はこの決闘の間一切の魔法を使わない。二つ、決闘開始から一分間は攻撃を禁止。でも、これだけだと足りませんね。他に何を追加しましょうか?」


 おどけたように、アレックスへ質問を投げ掛ける。


「……ッ、不要だ! それだけのハンデがあって、僕に勝てるというその傲慢! 必ず後悔させてやる!」


 ああ、やっぱりハンデ自体が要らないとは言わないんですね。本当に情けない男だな、君は。


 俺と同じことを思った人間はそれなりに多いらしく、微妙な目でアレックスを見る者は多い。いやそれは元からか?


「条件も確認しましたし、そろそろ始めましょう」


 俺はエディターをアイテムボックスに入れたまま片手半剣だけを取り出し、構えずにただ持つ。

 さて、ここでアレックスのステータスを表示しよう。


▼▼▼▼▼

Name:アレックス・ケンドール

Lv.42

EXP:8610

HP:1239

MP:1106

STR:439

VIT:384

DEX:386

AGI:445

INT:449

▲▲▲▲▲


 ちなみに今の俺の素のステータスがこう。


▼▼▼▼▼

Name:リク・スギサキ

Lv.55

EXP:15115

HP:2002

MP:1593

STR:629

VIT:797

DEX:716

AGI:542

INT:717

▲▲▲▲▲


 それなりにレベル差があるから当たり前と言えば当たり前なんだけど、何一つとして負けている項目が無い。そしてお馴染み、AGIへの極振りでこうなる。


▼▼▼▼▼

Name:リク・スギサキ

Lv.55

EXP:15115

HP:2002

MP:1593

STR:1(-628)

VIT:1(-796)

DEX:1(-715)

AGI:3397(2855)

INT:1(-716)

▲▲▲▲▲


 敏捷性に七倍以上の開きができる。決められた範囲内とはいえ、この差で一分間も追いかけっこをさせるのは中々に酷だ。もっと長い時間設定にした方が良かったかもしれない。

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